第二十七話 崩壊の足音
「——くそ! どうして機能しないんだ!!」
ノエルは
彼の
周囲に浮かぶ画面には、赤黒く染まる禍々しい空模様、魔獣の群れが都市部を襲っている様子、地震の影響か崩落する大地など——。
現在、各地で起きていると思われる異変が映し出されていた。
「状況は……どうなっているのですか?」
ルーカスが
見兼ねたイリアがノエルの隣へ移動して、文字の羅列された
眼前の画面に次々と古代語と図形・数字が表示され、
ルーカスはイリアの斜め後ろから、その様子を
「イリア、どうだ?」
「
……だけど、」
険しい表情を浮かべたイリアが言葉を続けようとしたところで、大地が大きく振動した。
「この地震、
出力を下げて、結界はまだ
イリアの眉間に寄った
あらゆる要素が告げている。
揺れが収まった後。
イリアは画面へ向けた視線をここより上方にあるもう一つの祭壇に
(……あの
(失われた
『〝
惑星規模の術式を維持するには、
それが失われて、不足を
一定の間隔で代替えが
——
二つの関連性について、イリアの語った言葉が思い起こされた。
イリアは——何かを決意したような
事態の終息に必要な事はなにか。
考える事を放棄した〝もしも〟がルーカスの脳裏に浮かんで、心臓が嫌な鼓動を響かせる。
——再度、大地が鳴動した。
小刻みな揺れの中、おもむろにイリアが歩き出す。
頂上へと続く階段に向かって。
「イリア!!」
「姉さん!!」
ルーカスとノエルは、イリアの片方の手を同時に掴んでいた。
この
(イリアは……イリアは!
——
辿り着いたのは、最悪の結論。
「思い込みだった」と、自分に言い聞かせ、目を背けた覚悟の正体。
ルーカスはイリアの手首を掴む力を強めた。
「二人とも、離して。このままだと、手遅れになるわ。
その前に、私が
「ダメだ……ダメだ、ダメだ、ダメだ、ダメだ!! それだけは、絶対に!!」
前を向いたままのイリアが
イリアが「手遅れになる」と言った様に、視界の端にある画面へ映し出される情景は、終末を予感させるものばかりだ。
「不足しているマナは、改変した術式で
「どうやって?
おまけに、
放っておけば、ゆりかごを構築する
「それでもだ! 僕が、僕が何とかする!
だから、やめてくれ! 姉さん!!」
青い
(いっそ俺も、ノエルの様に
それが出来ないのは、何故か。
(今更、イリアと世界を天秤にかけ、イリアを選んだとしても——。
…………何も、救えない)
ただ、イリアの覚悟を踏みにじるだけ。
そして世界は、無意味な滅びを迎える事だろう。
それだけに、ルーカスは言えなかった。
「行くな」と。
(……最初から……ノエルに協力していれば、良かったのか?
綺麗事など並べず、彼のように
わからなくなる。
どうしてこんな事になったのか。
自分は何の為に戦っていたのか。
ルーカスは空いた片手の拳をあらん限りの力で握り締めた。
「ノエル、ごめんね」
振り返ったイリアが、
『お眠りなさい、
マナのゆりかごに
愛し子よ……』
「ね、え……さ……」
歌声を聞いたノエルの体が、
その体を、事の成り行きを静観していたアイゼンが、地面と衝突する前に受け止めた。
「
ノエルの事、お願いね」
「
幼少期に面識があって、記憶を取り戻した彼女がアイゼンを覚えていたのだとしても、不思議ではない。
アイゼンの
——そうして、アイゼンはイリアと言葉を交わす事なく、唱歌で眠らされたノエルを抱え、階段を下って行った。
イリアと二人きりになったルーカスは、捕まえた細い手首を握って俯いたまま動けなかった。
「……どうして、俺を眠らせなかったんだ」
ノエルのように、歌で眠らせてくれたら良かったのに、と思う。
「イリアは……最初から……
様々な想いが駆け巡り、何を話したらいいのか思考が
「そう……ならない事を願っていたけれど、可能性の一つとして、常に覚悟はしていたわ」
「どうして……言ってくれなかったんだ……。
機会は、あっただろう……!」
「……ごめんね」
イリアの手首を握るルーカスの手に、もう一方のイリアの手が重ねられる。
顔を上げると、
今一番辛いのは——イリアだ。
彼女を責めるような発言をした事を、ルーカスは悔いた。
それに、本当は薄々気付いていたのだ。
予期せぬ事態が発生して術式に何かあった場合、イリアがどのような行動を取るのか。
向き合おうとしなかっただけで。
これは、耳当たりの良い言葉を並べ立て、都合良く解釈する事で己の心を守ろうとした、臆病者の末路だ。
後悔が波の様に押し寄せて、思考と心を埋めて行く。
だから、イリアが別れ際に話しかけた言葉は、ルーカスの耳にほとんど届いていなかった。
——ただ、最後に。
「大好きだよ、ルーカス」
と、
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