第二十三話 希望の灯火は潰えない
ルーカスは痛みに遠のきそうになる意識を繋ぎ留めて、ノエルの【皇帝】の
「バキン」と、質量のある物を砕くような音がした後から、少しずつ腕を動かせるようになっていたが——。
「
……僕の勝ちだ、破壊の騎士」
降って聞こえた勝利宣言に、間に合わなかった事を悟る。
しかし、灯った希望は簡単に消えない。
(——まだだ、まだ……諦めるな!
このまま諦めて、ノエルの勝ちを許しては……駄目だ!!)
そこから、事態は思わぬ方向へ動いた。
「ノエル様、逃げてっ!!」
と
『
柔らかな男の声が聞こえると同時に、温かな新緑の光に包まれた。
直前まで感じていた全身の痛みが嘘のように消えてゆく。
高位の治癒術、恐らく
体も少しの自由を取り戻す。
まだ鉛のように重く自在に動かすのは難しかったが、床へ縫い付けられていた頭をぎこちなく持ち上げる。
先程のツァディーの叫びと、シンの治癒術が敵対している自分にまで及んでいるのは何故なのか、疑問を抱きながら。
顔を上げるとまず前方、階段を追った先の
さらに上へ視線を移動した先には、虹色の鉱石の頂点で天高く片腕を
ルーカスがその姿を視認した直後。
『
高らかに鈴の
「ったく、次から次へと、予想外の展開ばかりだな!」
「言うなベート。困惑してるのは
「……本当に。……やられ損……」
「ベート、ラメド、ヌン……来る、よ……!」
振動する最中、使徒達の会話が聞こえた。
しかる後に一帯は黒い雪——
何が起きているのか、仲間達は無事なのか。
そこも気掛かりではあったが、ルーカスは現状を
手を伸ばせば届く距離、イリアは彼女の愛剣エスぺランドと並んで、眠る様に横たわっていた。
「イ……リア……っ!」
ルーカスはイリアの
そうして——触れた指先に感じられた体温の、あまりの冷たさに驚き、心臓が跳ねた。
血の通わない、氷のような冷たさだ。
思うように動かない体をルーカスは
「イリア!!」
外傷は見当たらない。
が、本来あるはずのぬくもりはなく、鼓動も——。
感じられない
「嘘……だよ、な……?」
返る言葉はない。
ただ、眠るように
(……あ、ああ……うああ——っ!!)
叫びたいのに音にならない言葉が、希望の
周囲は絶えず響く戦闘音と、鳴り響く
「——大丈夫、です。希望は、
ツァディーの声がルーカスの鼓膜を揺らした。
だが、何を見ろというのか。
またしても大切な人を守れなかった、無様な己の姿を刻みつけろとでもいうのだろうか。
と、悲観的な考えしか生まれなかった。
「太陽はまだ、輝いている……」
太陽。それがイリアを指す言葉であると、瞬時に理解する。
おもむろにルーカスが顔を上げると、ツァディーが眠るイリアの右手を指差した。
そこには——ほんのりと桃色に色付く、マナで形成された小鳥程の大きさの白き翼が生えていた。
気付けば、自分の左手の甲にも同じ物がある。
翼の生えたイリアの手を握って見ると、確かなぬくもり、
「……これ、は……」
「新たに誕生した、【
「ザイン……?」
誰の事を言っているのだろう、と名を反復すると、ツァディーが大粒の
「……そう。タヴとレーシュが、良く知ってる人。
——ほら、来たよ」
ツァディーは戦闘で混乱する空間の向こう側にある、入口の方向を指差した。
指先を追って、遠くにある入口を見つめていると——。
炎を
閃撃は魔獣が埋め尽くされた戦場を割り、入口とルーカスが居る場所まで一直線に炎の道を敷いた。
そして——。
「お兄様! お
炎の道を通って、神殿の入口で別れた双子の姉妹が駆けて来た。
「……シャノン? シェリル?」
思いがけずやって来た妹達に、ルーカスは
信じていたとはいえ、高い戦闘能力を有したテットに打ち勝った事。
女神の
手の甲に自分とイリアと同じ翼を輝かせ、持つ武器——シャノンは炎を纏わせた剣、シェリルは氷の大盾——の違いに驚く。
「どうやって、ここに……?
それに、その力は」
「えっと、色々あったんだけどね、テットと戦ってる時に女神様に祝福をもらって使徒になったの。
そんでもってもう少しでテットを倒せそうだったんだけど、地震があって
そしたらね、ゼノンお兄様がお父様とお母様と、あとアイシャさんだっけ?
とにかく、王国軍を
「お姉様、今はあれこれと事情をお話している時間はないかと」
矢継ぎ早に語り出すシャノンを制して、シェリルが
ルーカスもここに来て
闇に染められたマナが粉雪のように舞い、場に生成された多数の
一部の
一班のメンバーとリシアは——どうやらまだ動けないようだ。
ノエルの力の影響が色濃いのだろう。
ルーカスも今、力を使えない。
イリアに【世界】の
よく見ればルーカス達の周りにも同じ結界が展開している。
それから——。
「
アイゼンが、従えた二頭の
ノエルの元へ行こうとしているが、ルーカスが剣を破壊したために武器がなくて本領を発揮できず、数を増して行く魔獣相手に後れを取っている模様だ。
「……お願い、【
「え!? なんで私達が!?」
突拍子もないツァディーの願いに、シャノンが目を丸くした。
ほんの数刻前まで、敵対していた相手だ。
戸惑って当然ではあるが——。
「シャノン、シェリル、俺からも頼む。
彼女、ツァディーは【星】の
その導きにはきっと意味がある」
「【星】……。なるほど、そういう事ですか」
〝未来を
シェリルはツァディーを
「お姉様、行きますよ!」
「あーもうっ! わかったわよ!」
女神の祝福を受けて使徒となった今の二人ならば、きっと大丈夫だと、ルーカスは二人の背を見送った。
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