第十八話 イリアの覚悟
開戦直前、エターク王国陣営。
王国軍は国境前で、三日月を
〝
イリアは護衛の少女達と、盾を
(戦場に立つのは久しぶりね)
緊張でひりつく空気が
ノエルが教皇となって、意図的に戦場から遠ざけられていた事。
それと記憶を封じられていた期間、
(アディシェス帝国は恐らく、世界を
皇室とエクリプス教がその核だろう。
だとしても、これからこの戦場で
どんな大義を
(でも、立ち止まる訳にはいかない。こんな戦い……早く終わらせよう)
イリアは
ゼノン王子が「そういえば聞いたよ」と、話題を振って来たのは、そんな時だ。
視線を彼へ向けると、
暗雲が垂れ込める空模様に反して
「何のことだろう?」と首を
「おめでとう、イリアさん。ルーカスと上手く行ったんだってね?
ルーカスも
イリアは目を丸くして、
ゼノン王子の向こう側にはルーカスの父、王国軍の
二人は目を
他にも多数の兵士から向けられた視線がある。
どう考えても開戦前の場でする話ではない。
ルーカスと恋仲になった事は、まだ彼の両親へ正式に報告していない。
思いがけず特務部隊の団員には知れ渡ってしまったが、一体何処から話を聞きつけたのか。
イリアが振り返ってシャノン、シェリルに視線を向けると、首を思い切り横へ、桃髪ごと振り回して否定している。
二人が話した訳ではなさそうだ。
「イリアさん、本当なの!?」
双子の姉妹へ視線を向けている間に距離を詰めたユリエルがイリアの両肩を掴んだ。
期待に満ちた視線と表情を浮かべるユリエルを見て、話題を振ったゼノン王子をイリアはほんの少し
——確約出来ない未来に、どうしても後ろめたさがある。
「真っ先にお
「いいのよ、そんな事。不器用な子だけど、ルーカスをよろしくね、
目尻と口元を優し気に
「……でも、私……」
この身に
〝
(ノエルは絶対に止める)
ノエルがやろうとしている事は、端的に言えば
誰かに犠牲を
(私のために道を踏み外すと言うのなら、その間違いを正すのも、姉である私の役目)
だからと言って、闇雲に反しているだけではなく、打開のための案も考えてある。
けれど、その案も必ずしも上手く行くとは言い切れず、不確実である事も
(そうなった時、私が選ぶ道は——)
かつてのように、自分自身を
けれど、断言出来る。
(選択を迫られれば、私は……その時に取れる最善を、選ぶ)
ルーカスを、身近な人達を悲しませる事になったとしても、この覚悟が揺らぐことはない。
だからこそ彼の母であるユリエルが寄せてくれる信頼に、
想定し
そんな痛みを
「貴女が大変な使命を
背へ回された腕に力が籠もり、きつく
イリアは自然とユリエルの肩へ顔を寄せる形となり、彼女が
「これからは私とレナート様を本当の親だと思って、甘えて良いのよ。
ね? レナート様」
ユリエルが少し体を離すと、いつの間にかその隣へと歩み寄った公爵の大きな手が、イリアの頭へと伸びて、優しく髪を
「ああ。娘が増えて喜ばしい事だな。帰ったら二人のお祝いを兼ねて、
見上げれば軍議の場などで見せる、
乗せられた手と、衣服越しに伝わる体温、
腹芸を得意とする
二人の
目頭が熱くなった。
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