第十七話 術式改変≪リベレイション≫を始めよう
「おいおい、教皇さん狂っちまったか?」
「元より正常な思考とは言えませんでしたが……」
「追い詰められてやけっぱちっすかね?」
ディーン、アーネスト、ハーシェルの三名の声が後方より聞こえた。
ルーカスは視線をほんの少し横へずらす。
一班の
真逆の方向では、負傷して
残った
だというのに、ノエルは
彼の腕に絡みつくように身を寄せたアインからも、「くすくす」と耳に付く笑い声が聞こえた。
「フフッ、何か勘違いしているみたいだね?」
笑いを
どこか余裕すら感じさせる
「『まずは』と言ったんだ。僕が力を
ノエルが左腕を真っ直ぐ伸ばし、手を
見せつけるように開かれた手のひらには——くっきりと
『
まるで脳へ直接働きかけるような命令に、電撃が走って体の自由が奪われ、自分の意思とは関係なく動いた。
続いて
言葉通り〝平伏〟させられた。
(この力は、何だ……!?)
何故か、声を
体が
指一本、動かせなかった。
「さぞ不思議だろうね? 種明かしをしてあげるよ。
姉さんもお前も、
僕もそうさ。これは【皇帝】の
カリスマと
お前が
フフ、
ルーカスは頭を上げられない。
視界に広がるのは無機質な床の色、そして笑い声と靴音が
「さて、これでわかっただろう? 茶番は終わりだ」
ビリビリと肌を刺すマナの高まりを感じた。
天を裂く雷鳴のような音も聞こえる。
(くっ……このままでは……! 動け!!)
だがやはり、指も足も微動だにしない。
ノエルが何か仕掛けて来るとわかっていても、体は
『
感情の乗らない
(——ぐ、うあッ!)
体の至るところに何かが突き立てられている。
突き刺し、肉を
それでも体を動かす事は出来なかった。
「うぅ……ッ! ノ、エル……!」
「あぁ、姉さん。もう動けるの?
同じ女神の代理人だから、使徒の本能が働かないせいか」
「カツン」という靴音が聞こえる。
イリアの方へ向かっている。
「やめて、お願い……っ!」
「ダメだよ、姉さん。危ないだろう?」
「ノエル、もう、やめてっ!」
「はぁ、仕方ないな」
「や、何するの!? いや!!」
(イリ、ア……!)
彼女の悲痛な叫びが鼓膜と心を震わせた。
が、依然として体は言う事を聞いてくれない。
ノエルがイリアを
かくして「カラン」と金属を打ち付けつける音の後に、無音の時が流れた。
脈打つ鼓動が早まる。
(くそ! 動け、動け……!!)
痛みと苛立ち。
視認出来ない状況に、ルーカスは気が狂いそうだった。
「……いい子だね。ここで大人しく見ていて。
大丈夫、すぐに終わらせるよ」
「ドサリ」と重みのあるものが落ちる、
「あらら、ノエル様ってば大胆。
「効率よく力を作用させる
「言い訳、ですよねぇ。バレバレですよ?
女神の血族は近親婚も普通だったみたいですし?」
「ディアナ。
イリアの身に何が起きたのか。
ノエルが彼女に何をしたのか。
彼らの会話から
連想された答えに
ノエルがイリアへ向ける〝愛〟が、親愛を超えたものである事は理解していた。
理解していたが、実際に突き付けられると、泥のように重く
それに——イリアが泣いているような気がした。
(彼女の願いを叶え、未来を切り開くと誓った。
だというのに、俺は……!)
まんまとノエルの術中に
新たな
(この身に宿る力は、何の
大切な人を、守る
頼む、動け! 動いてくれっ!!)
想いが
怒りが体中の血を
「……ノ……ル、やめ、て……」
「あはっ! まだ意識があるのね?
流石レーシュ。精神力の高さはピカイチね!」
「心配しなくても、ここにいる彼らの命は取らないよ。
彼らへの
「……っ……う!」
「そうじゃない、違う!」と叫ぶイリアの声が聞こえるかのようだった。
けれども、イリアの想いはノエルに届く事はなく。
「姉さんと話したい気持ちは山々だけど、まずは
終わったらゆっくり話そう」
「さあ、眠って、レーシュ。
次に目が覚めた時には、きっと素敵な世界が待っているわ」
一陣の風が吹き——
足音と気配が遠ざかって行く。
ノエルは祭壇へ上がり、事を進めるつもりなのだろう。
止めなくては、と
しかし、何も出来ぬまま、時は無情に過ぎて——。
いつしか、パール神殿の
その
このままでは取り返しが付かなくなる。
(
彼女はそう
(——いや、女神なんぞに
女神は確かに存在するだろう。
さりとて、不確かなものに願掛けしても、現実となる保証はない。
(俺は……俺の想いは、力は……っ!
何者にも縛られない、俺のものだ!!)
未来を
選択するのは、己だ。
だからこそ、信じなければ。
自分を。
力に
打ち勝つ強さが自分にはあるのだと。
体を動かすため、思い、伝達し、足掻いた。
(……動け、動け、動け!
動け!! 動けッ!!
——動けッ!!)
「バキン」と、質量のある物を砕くような音がして、直後、
ルーカスの心に希望が
『……
この先の道は……』
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