第十八話 狩人と獲物 二兎と【剛毅】①
先んじて、神殿の外で【
テットの武器は拳。
戦闘スタイルは純粋な肉弾戦で、魔術による強化や攻撃は一切ない。
けれども、
言葉通りに。
「オラァア!!」
視覚化した闘気、金色のマナを
受ける選択肢はない、
一度見誤って剣で受けた時には、負傷こそ
借りたシェリルの剣まで失っては困る。
シャノンは後方へ飛んだ。
テットの拳が
が、一撃では終わらない。
すぐに次の拳が繰り出され、シャノンは先程と同じように回避した。
「どうしたァ!? 腰が引けてんぞ!!
威勢がいいのは最初だけか女ァ!!」
「このッ! いちいち
拳の連打が途切れず降って来る。
恐るべき戦闘力。
シャノンは反撃する隙を見つけられず、回避に専念するしかなかった。
(——お姉様、下がってください)
シェリルの声が脳裏に響く。
もう間もなく魔術が来る。
シェリルの意図を悟り、シャノンは大きく飛び
『我らを
魔術名が
雪の混じった風が吹き荒び、テットが立っている大地から
鋭利な刃物にも
白銀の檻は広範囲に展開していく。
術の効果範囲から逃れるため、シャノンは軽やかな足取りでシェリルが居る場所まで退避した。
(少しでもダメージを受けてくれるといいんだけど)
(ええ。小手先の魔術では闘気に
(剣も同じよ。攻防兼ね備えてるなんて、反則じゃない? アレ)
(闘気という
シャノンはシェリルに
氷を砕く音だ。
無傷であるとは考えたくないが、テットが健在なのは確か。
シャノンは前方を見据え、剣を構えた。
「熱くなった体には、丁度いいクールダウンだったぜェ!?」
シャノンの視界に、超速で飛来する氷塊が映り込んだ。
テットの仕業だ。
(あんの、筋肉ダルマ……ッ!!)
(お姉様
こちらを狙って、幾つもの氷塊が飛んで来ている。
シャノンはシェリルとは反対の方向へ、ステップを踏む要領で足を運び、落ちる氷塊を
「すばしっこいなァ!
逃げ足は一級品、まるで
よくみりゃ毛色もそっくりだ!」
大口を開けて笑う声が聞こえる。
逃げ足が速くて何が悪い。
当たれば致命傷になり兼ねないのだから当然だろう。
——と、思うが、テットの
この感情のまま、斬り掛かりたい衝動に駆られる。
(それこそ、相手の思う
戦いは冷静さを欠いたら負けです)
(わかってるわよ!
でも、頭に来るのはしょうがないじゃない)
テットだけじゃない。
他の
彼はお
姉弟というだけあって、二人は容姿の造形がとてもよく似ていた。
気品に
うっかり
でも、性格は真逆。
こちらを見下して馬鹿にしているのが
シャノンはそんな彼が、彼に盲目と従う
(お姉様、戦闘中に余計な事を考えない!)
(それも、わかってるわよ!)
眼前に氷塊が迫っていた。
シャノンは後ろへ跳びながら剣を水平に、
『舞え、
炎の柱が
「おー、器用な
着地を決めて、声のする場所、氷の飛んで来た方向へ視線を送る。
冷気の
ダメージを負った様子はない。
(上級魔術も防ぎますか……)
シェリルから切迫した感情が流れ込んで来る。
自分達の手に余る相手なのでは、という思いが心の片隅に生まれたようだ。
(ちょっと、弱気にならないでよ?
私もシェリルも、まだ戦える。
心が折れない限り、負けじゃないわ!)
(……そうですね。
(最期って……縁起でもないこと言わないでよ)
(それくらいの
……生半可な覚悟で、
繋がっているからわかるが、シェリルの思考は大分
一気に状況を変えられる、奥の手と呼べるような手段を自分達が持ち合わせていないのも要因だろう。
だけれども、勝ち目がないという結論に至るのは
先に言ったように、自分達はまだ戦えるのだから。
シャノンは消極的なシェリルの考えを振り切るように、両手で
獣のように
気迫を籠めて一層目を細めると、テットはニッと犬歯を見せて笑った。
「
——が、追い回すのも飽きて来たなァ」
テットが順番に両肩を「ゴキリ」と音を立てて大きく回して——。
「そろそろ狩らせてもらうぜ?
密度を増して
瞬間、地が割れる。
激しい地鳴りがして、足場が崩れる。
(ちょ、こんなのアリ!?)
シャノンは
(ダメ、お姉様!!)
シェリルの警鐘が響く。
と同時に、シャノンの視界を燃え立つ
「鬼ごっこは終いだ」
腹部に衝撃が走った。
打ち据えて砕かれ、ぐしゃりと
息が、出来ない。
声を上げようにも音が出ない。
想像を絶する痛みに、シャノンの視界が暗転する。
「お姉様ああぁ!!」
意識が途切れる前、金物を切るような甲高い叫び声が、聞こえた気がした。
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