第七話 山岳に咲く氷華の大輪
アイシャと七班の団員達が地震に見舞われたのは、
小さくはない揺れだったが、これといった被害は幸いにもなかった。
だが、坑道となれば話は別である。
もし揺れで崩れていたら、逃げ場をなくしているかも——そんな不安がよぎり、坑道へ入った団長達の様子が気になって、アイシャは通信を入れた。
一応、無事を確認する事は出来たのだが、「確かに〝闇〟だ」とその言葉を最後に、ルーカスから応答がなくなってしまう。
アイシャはリンクベルに向かって「団長!」と呼びかけ続けたが、幾度呼んでも返事はなかった。
腕輪型のリンクベルを見れば、通話中は光る
アイシャは再度通話を——と思ったが、それは叶わなかった。
「た、大変です! 探知魔術に、狼型の魔獣の反応が……!」
慌てた様子の魔術師が標的の発見を告げたからだ。
「なんで急に……」
「こんなのあり得ない!」
だが、魔術師たちの様子が
顔面を蒼白させて、取り乱している。
「どうしたの? 反応はどこから?」
「四方から反応あり。数は
「距離
アイシャは目を見開いた。
「——全員戦闘態勢!
魔術師隊と
アイシャが号令を飛ばせば、団員たちは短い時間で配置につき、会敵に備えた。
(ここまで接近されるまでわからないなんて、確かにあり得ない)
探知魔術の範囲は術者の力量に左右されるが、今いるメンバーであれば最低二キロ
(先ほどの地震といい、想定外の事ばかりね。団長や他の班も気掛かりだけど、いまはこの場を切り抜けるのが先——!)
アイシャはロッドを手に、魔術の詠唱を始める。
獣の駆ける音が、すぐそこまで近付いていた。
——四方から襲ってきたそれに、アイシャ達は応戦した。
近接武器を得意とする団員が前衛で
展開した障壁魔術の中央で魔術師達が攻撃魔術を、
戦闘直後は、
しかし、いくら倒せど
そうして——。
アイシャを含めた五人の魔術師は、大規模魔術を詠唱するために展開した魔法陣の上で、精神を研ぎ
魔術の行使に必要なマナが満ちるのを感じたアイシャは、魔術師達と詠唱を開始した。
『舞い踊る雪、吹き抜ける風。 水よ、その恵みと
声が重なって響く。
大気に集ったマナが淡い青へと色を変えて、光を放ち飛び交っていた。
『風よ、荒れ狂う波を起こせ』
声を高らかに響かせ
『
ちらちらと、雪が舞い始める。
『大地を伝い、
身震いするほどの冷気が辺りを包み込んでいく。
『
最後に術名を叫び、魔術の完成を告げた。
と、前衛にいた団員が中央へと退避して行き、魔術が具象化する。
冷風が吹き、空から舞った雪の結晶が地に落ちる。
すると、生まれた氷が荒れ狂う津波のように
氷の波は
逃れようとする
そして——優美で
魔術師数人の
アイシャはマナがごっそりと抜ける感覚に、息苦しさを覚える。
肩を上下させて呼吸を整えながら、一帯に咲いた巨大な一輪の花——凍り付いた景色を見渡す。
動く
「……状況は?」
アイシャは探知魔術を展開中の魔術師に声をかけた。
「一帯の
「まだ来るって言うの?」
一体どこに隠れていたと言うのか、
今のところ町に被害は及んでいないようだが、団員達に
(このままでは消耗戦になる。なんとか手を考えなければ)
そう思ったところで——。
「リリリン、リリリン」とリングトーンが響き、アイシャは
『アイシャ、そちらの状況はどうなっている?』
応答すると、聞きなれた低音が耳に届いた。
ルーカスの声だ。
(団長……よかった)
通話が途切れたため心配だったが、連絡が取れてほっと胸を撫でおろした。
「団長、ご無事で何よりです。こちらは狼型の魔獣と交戦中——なのですが、様子がおかしくて」
『……
「そうです。何かご
『
「わかりました。お待ちしています」
(団長が来てくれる)
頼もしい援軍の知らせだった。
喜びを感じて、アイシャは頬が
今は気を引き締めねば、と己を厳しく
「もうすぐ団長が来てくださる! 皆それまで油断せず討伐に当たれ!」
「おおー!!!」
疲れを見せていた団員たちが、力強い雄叫びを上げた。
皆、期待しているのだ。
〝
先の見えない戦いに、
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