第八話 門≪ゲート≫破壊作戦

 ルーカスは坑道を出てすぐアイシャと連絡を取った。

 案のじょう魔狼まろうが出現しているとの事だった。


 まずは合流を目指し〝風纏加速レジェ・レゼール〟の身体速度強化魔術を使って、傾斜けいしゃのある山道を駆けた。


 そして七班のいる北へ向けて移動すること十数分じゅうすうふん後。


 無事に合流を果たしたルーカスは、情報共有のためアイシャと七班の隊長と話し合いの場を持つことにした。


 その間も魔狼まろうは絶え間くなく襲って来る。

 他の団員は七班の団員と共に対処へ回った。


 ルーカスは配置の中央、障壁に守られ治癒術師ヒーラーと魔術師隊が待機するそこで、坑道で遭遇した未知の現象について話した。



「——闇……漆黒しっこくの大穴ですか」

「ああ。そうだな……仮に〝ゲート〟と呼称こしょうしよう。恐らく今の状況は、このゲートが存在し、そこから魔狼まろうあふれ続けているせいだろう」

「解決にはゲートをどうにかするしかない。そういう事ですね」



 七班の隊長の言葉にルーカスはうなずいた。



「なるほど。貴方、魔狼まろうの反応が現れるおおよその地点はわかる?」



 アイシャが探知魔術を担当している魔術師の男にたずねれば「はい」と返答を返してこちらへ歩み寄り、言葉を続けた。



「距離に多少の誤差はありますが、ここからおよそ八百はっぴゃくから千五百せんごひゃくメートルほど進んだ地点です。四方八方しほうはっぽう突如とつじょとして魔狼まろうの反応が現れる場所が存在します」

「他に気付いたことはある?」

「そうですね、北の地点に魔狼まろうの反応が多くみられる事でしょうか」

「北か……ありがとう、引き続き索敵をお願い」



 アイシャの言葉に男は一礼すると持ち場へと戻った。


 得られた情報を整理すると、門の位置はここより八百メートルから千五百せんごひゃくメートルほど行った、四方八方しほうはっぽうに点在しているようだ。


 多くの反応が見られる北は、他の場所よりも多くのゲートが存在している可能性も考えられる。


 現状の打破にはゲートを発見・破壊する必要があるだろう。



「……ゲート排除のため、別動隊が必要だな」

「ならやはり、破壊の力を持つ団長と少数精鋭が別動隊として動くのが良いでしょうね」



 アイシャの案にルーカスは頷いた。


 魔狼まろうの途絶える様子がないため、防衛線維持のため七班の配置は動かせない。


 さらに現時点での有効打は、ルーカスの持つ〝破壊の力〟のみであるため、それが一番有効かつ確実だろう。



「でしたら七班の三人をこちらへ合流させ、アイシャさんは団長と行動を共にするのがいのではないでしょうか?

 探索に魔術師は必要でしょうし、外でなら下手に人数が増えるよりも、アイシャさんの魔術が頼りになるでしょう」



 七班隊長からの進言だ。

 有難ありがたい提案である。



「それは正直助かる。複数相手だとアイシャの殲滅せんめつ魔術が有効だからな」

「ではそのように。彼らには私から話をしておきます」

「ああ、了解だ。この場は頼んだぞ」

「お任せください。団長の仕事が終わるまでこちらもきっちり仕事をこなして見せますよ」



 七班の隊長はそう言ってニッと笑って見せると、リク、ネイト、ブライスに配置の変更を告げるためその場を後にした。


 やるべき事は決まった。



(となればあとは、どの方角から攻めるか——だが)



 ルーカスは思案してあごに手を添えると、アイシャに視線を送った。



「三班は西、五班は南東か」

「はい。手始めに七班と、三班、五班の間に存在するであろうゲートを排除し、この場へ戦力を集中させた方が負担は減るかと思われます」

「それが最善だな。町の守備はどうなっている?」

「こちらの現状を伝え、万が一に備えてあります。すでに騎士団が防衛体制を整えているでしょう」

「了解だ。町中にゲートが出現しない事を祈るばかりだな……」

「それは……考える中で最悪のパターンですね」



 アイシャが苦笑いを浮かべた。


 ゲートは未知の現象。

 わからない事が多すぎるため、万が一という事もある。

 

 とは言え、ここで杞憂きゆうしたところでどうにもならない。

 現状で出来る事をこなすしかなかった。



「まずは東側から。時計回りにつぶして行くとしよう」

「住民の安全を第一に考えて、町の近くからですね」

「ああ。危険の芽はなるべく早くんでしまおう」

「了解です。——では、時間も惜しいですし、そろそろ出発しますか?」



 アイシャの問い掛けに、ルーカスは「そうしよう」とうなずいた。


 そしてルーカスは前線へと目を向けて、武器を振って戦う団員たちの中に金と銀の髪色を見つけると、叫んだ。


 

「ハーシェル! アーネスト!」



 名前を呼んだ二人は、丁度魔獣を倒し終えたところのようだ。

 剣にしたた血潮ちしおを振り落として鞘に納め、戦闘から離脱する姿が見えた。


 その際リク、ネイト、ブライスと会話を交わす一コマがあり、きっと激励げきれいの言葉でも掛け合っているのだろう、とルーカスは思った。


 駆け寄った二人に、別動隊としてゲートの排除任務に当たる事を伝えれば、異存はない様で「了解(っす)!」と返事が返ってきた。


 目標はゲートの排除。

 迅速かつ確実に。

 メンバーはルーカス、ハーシェル、アーネスト、アイシャの四人。


 ルーカス、ハーシェルが前衛で、アーネストは前衛のフォローと回復・強化をになうサポーターとして中衛に、魔術に長けたアイシャが後衛でナビゲート役の布陣だ。


 今回は少数精鋭かつスピードが求められる任務のため、ゲートの場所にアタリを付け、安全なルートを模索せねばならないナビゲート役は責任重大である。


 他のメンバーも探知魔術が使える事には使えるが、精度には雲泥うんでいの差があった。

 アイシャにしかこなせない役だ。


 布陣が決まったところで、ハーシェルが身体速度強化の魔術、風纏加速レジェ・レゼールの範囲版——〝風纏加速・範囲化レジェ・レゼール・エクステント〟を詠唱・発動した。


 マナを含んだ若草色の風がルーカスたちを包み込み、体が軽くなるのを感じる。



「よし、行動開始だ!」



 ルーカスの言葉を合図に、打開への一手——ゲート破壊作戦は始動した。


 四人はうなずき合って駆け出すと、アイシャがみちびゲートの場所へと急いだ。

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