第六話 湧き出る獣
リエゾンの坑道、最奥——。
得体のしれない〝闇〟の出現に、ルーカスは警戒を強めた。
坑道の奥に現れたそれは、まるで漆黒の大穴だ。
そして何故か、見ているだけで吐き気を
(これは……一体何だ?)
身構えて観察するが、初めて目にするそれが何なのかわからない。
アイシャに情報共有を——と思ったが、いつの間にか通信は切れてしまっていた。
ぐにゃり。
それの
次の瞬間。
漆黒の大穴から、何かが出て来た。
——それは、
外見は犬に似ているが、一般的な大型犬より体格ががっしりしており、耳が立って
鋭く吊り上がった
「……
それも一頭ではなく、二頭、三頭と続けざまに出て来て——こちらを確認するなり物凄い速度で襲い掛かってきた。
ルーカスは刀を抜き、襲い来る獣を
その間にも魔狼の数は増え続け、全員が武器を手に取り
「シャッ、ザシュッ!」と、獣の肉を切り裂く音が、坑道内に反響する。
三、四、五……息つく間もなく増える
『大地よ、
アーネストの詠唱が響き、地属性の魔術が発動する。
そして大地が
が、その後ろから
大口を開けてアーネストに噛みつこうとする
「油断すんなよ!」
「言われなくてもわかってる! 数が多すぎるんだよ!」
ハーシェルとアーネストが、背中合わせになって獣を相手取っている。
リク、ネイト、ブライスも三人で固まり、それぞれをカバーしながら戦っていた。
だが、倒しても次々と
狭く逃げ場の限られた坑道で、攻防が続いて行く——。
一体の強さはそれほどでもないが、数は増える一方だ。
このままではキリがない。
(原因はハッキリしている。
あれさえ潰してしまえば
だが問題は、どうすればあれを消し去る事が出来るのか? という点だ。
『
ルーカスは狂ったように襲い来る
「まじか……傷一つ、ついてねぇ」
「威力が足りないのかもしれない。けど……」
ハーシェルが息を飲み、アーネストが言葉を詰まらせた。
威力の高い魔術ならあるいは——と思うが、坑道の中で大規模な魔術を行使すれば、道が崩落しかねない。
そのような危険な橋は渡れない。
「くそ、次から次へと!」
「団長! このままじゃまずいです!」
「どうしますか? 撤退しますか?!」
リク、ネイト、ブライスが叫んだ。
その間にも
(確かに、
鉱夫が目撃して、再び自分達が目撃するまで消滅していた時間があることを考えると、自然と消える可能性も否定はできない。
(だが……不確かな情報だ。自然に消滅しなかった場合どうなる?)
延々と
原因がわかっているのに何もせず逃げ帰るなど、下策もいいところだ。
何より出口まで短くない距離、襲ってくる獣を相手にしながら駆け抜けるのは——不可能でないとは言え、至難の業である。
取れる手は多くない。
だが、ルーカスの持つ〝破壊の力〟ならばあれを排除出来る可能性がある。
「撤退は打てる手を全て打ってからだ!」
ルーカスは意を決し、
「ハーシェル! アーネスト! フォローを頼む! リク、ネイト、ブライスはそのまま応戦! 持ち
団員達が
ハーシェル、アーネストは先行したルーカスに追従し、共に
「ったくどうなってるんだか、あれは!」
「さあね。自然現象か、魔術の類か……」
「どちらにせよ未知の現象だ。
その分、
『踊れ、舞え!
ハーシェルが魔術を放つと、無数の風の刃が
「行け、団長!」
「背中は任せて下さい!」
「頼んだ!」
そうして二人が斬り開いた道を走り抜け、ルーカスは刀を左に持ち替えて握る拳に力を込めて——叫ぶ!
「第一限定解除! コード『
『コード確認。第一限定、
左の腕輪が赤く輝きを放った。
ルーカスの力が解き放たれた証——鮮やかな紅色の
(狙いは一点。目標を見
「おおお!」
ザンッ!
と、赤い斬撃が
そして——斬撃が触れた場所から、宙にゆらめくそれは
これで
「ナイス団長!」
「お見事です」
「喜ぶのは早い。まずは残りを
原因を絶てど、周囲にはまだ数十体の
油断は禁物だ。
ルーカス達は気を引き締めて、残りの掃討に当たった。
——そうして数分の
「……終わったか」
「ったく、何体斬ったかわっかんねぇ」
「いくら弱くても物量で押されると厄介ですね」
ルーカス、ハーシェル、アーネストは
「大丈夫か?」
「はい、何とか……」
ルーカスが問えば、三人を代表してリクが答えた。
「三人とも負傷していますね。治療します」
とは言え負傷は
『慈愛の光よ、傷つきし者を癒し
アーネストが三人に治癒を施している間、ルーカスとハーシェルは外の班と連絡を取るためリンクベルを鳴らした。
だが、一向に繋がる様子はない。
「ダメっす。繋がりません」
「こちらもだ。
「了解っす。外のやつらが心配っすね」
「ああ。
「外でも同じ事が起きている可能性が高い……か」
ハーシェルの言葉にルーカスは
繋がらない原因はわからないが、
一刻も早く外の班と合流すべきだろう。
(何事も起きてないといいが……)
ルーカスは不安を胸に、治療が終わるのを待った。
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