第十話 勝負の分かれ目 王国騎士と女神の使徒③
勝利を掴むためロベルト達は大勝負に乗り出した。
ロベルトはまず、〝
次いでディーンに、再度の〝
「んじゃ、いっちょやったりますか!」
ハーシェルが双剣を眼前で交差させ、
それを背に「頼んだぞー!」と声を掛けてディーンが駆け出し、ロベルトもそれに続いた。
『——美しき髪を
程なくして聞こえて来た
詠唱とはすなわち、魔術を
一般的に、定型文となった文言を用いる事が多いが、決まった形がある訳ではないので、術者の感性に
個性的な文言に非はない。
「気を引き締めなきゃならん場面で、気が抜けるなぁ」
「ハーシェルらしくていいじゃないか。笑う余裕のあるくらいが丁度良い」
「だな——っと!」
駆けながら会話する二人を狙ってラメドの
ロベルトとディーンはそれぞれ逆方向に跳んで
——と、回避した先に
「戦場で笑っていられるとは。我らも
「全くだ。使徒の名が泣くな」
ラメドとベートから、容赦のない攻撃が飛んで来る。
ディーンは、炎の魔術を
光線は着弾寸前のところで避け、その後は、一直線にラメドへ突進して行った。
反してロベルトは、強化術の
直後、ふらつく感覚に襲われて立ち止まる。
(——っ
〝
そのため、この目で対象者を観察する必要があるのだが、視覚から取り入れる情報量が増えるため、当然それを処理する脳に負担が掛かる。
許容量を超えた情報を取り入れ続ければどうなるか——。
長くは使えない術だ。
「騎士様よ、足が止まっていては格好の
ベートが杖を持ち上げて、地へ振り下ろす。
だが、魔術を発動するための音は鳴らなかった。
『
その前にアーネストの唱えた魔術、巨大な岩石がベート目掛けて落ち、それを避けるために彼が
ロベルトの横を、銀の風が通り抜ける。
「貴方の相手はこちらですよ」
流れるように鞘から剣を抜いたアーネストが、ベートに斬り込んで行った。
「後方での援護はいいのか? 眼鏡君」
「ええ。
身体を一回転させ、
しかし、剣が届く前にシンの防壁が発動し、ベートの守りとなった。
「そうか。なら存分に踊るといい」
「カンッ」と高い音が響いて、光の矢がアーネストを
目に留まらぬ速さで撃ち出されたそれを、アーネストは急所だけは避ける様に最小限の動きで回避して、後は身体に突き刺さろうが構うことなく、魔術の詠唱を始めた。
『
「お、おいおい、避けなくていいのか?」
『
地鳴りがして、ベートの足元が割れる。
ベートはアーネストの奇行に目を丸くしながら、割れ目から逃れるために跳んだ。
『転じて
と、着地点を狙ってアーネストの魔術がもう一発、発動。
だがそちらは結界に
その様子を見届けたアーネストは、短く『
「負った傷は治せば済む話です」
「は、ははっ!
ベートが引き
アーネストは被弾に
普段のアーネストならばまず選ばない戦法だ。
そのような無茶をするのも、この作戦に光明があると信じているからだろう。
ロベルトは、ベートに対抗するアーネストと、負傷した際に飛ぶリシアの援護を受けて
そして、視るべき相手に視線を移す。
真っ白い聖職者の祭服に身を包んだ、海色の髪を持つ使徒、シンへ。
彼の隣には星色の髪の
彼女が何の動きも見せないのは不思議だったが、今はすべき事に注力しようと、ロベルトは思った。
しっかりと、
見落としのないように、彼が魔術を行使する時のマナの流れ、構造をじっくりと。
『さざめけ、ざわめけ! 転んで跳んで、
ノリが良く、キレのあるハーシェルの声が響く。
熱の入った
そろそろ詠唱も終盤だろう。
『風の
吹き
戦場に風が吹く——。
発現しようとする魔術の
『女神の
シンの詠唱が聞こえた次の瞬間。
『
ハーシェルの魔術が完成する。
途端に激しい風が巻き起こり、とある一点を起点に
『
シンが翼を思わせる結界を発動して、ラメドとベートが舌打ちしてそちらへ退避して行く。
それに合わせてディーンとアーネストも魔術の効果が及ばない場所へと下がった。
烈風がシンの展開した結界の周囲を吹き荒ぶ——。
「はっははは! どーよ、オレの魔術は!」
ハーシェルは腰に手を当てて胸を張り、得意気だ。
「こりゃまた派手だなぁ」
「詠唱文のチョイスは正直どうかと思うけどな」
「魔術は
ハーシェルの上級魔術は強化術の恩恵もあるのだろうが、思った以上の威力だ。
戦場を掻き乱して余りある勢いを発揮していた。
この乱流では、使徒達の視界はゼロに近いだろう。
だが、ロベルトにはよく視えており、お陰でシンとついでにベートのマナの
「ハーシェル、上出来だ。今度はこちらの番だな」
「副団長、ファイトっす!」
状況は整った——と、ロベルトは
ここが勝負の時。
指先を対象へ向け、狙いを定める。
『
それは体内の
強化術の応用でそれを
『
打ち込む楔は全部で十一。
そこを起点としてマナの流れを断ち切るのが、
『
シンとベート、両名へぬかりなく打ち込み——。
発動の条件は揃った。
風が収まって視界が晴れて行く中、挨拶代わりといわんばかりにラメドの剣閃が走る。
攻撃を避けるため皆が散り散りに飛び、ロベルトを残して攻撃に転じるため向かって行った。
使徒達は健在だ。
(だが——これで。流れを引き寄せる!)
ロベルトは対象を視界に
『
その体に黒く色を変えた
「これは——マナの、流れが……?」
「くそっ、何だ!?」
「シン……! ベート……!」
どうやら無事に成功したようだ。
突然倒れ込んだ二人の使徒の
「おっしゃ!」
「成功ですね!」
「今のうちに
まともに動けるのはラメドだけ。
少し遅れてロベルトも、剣を
「小細工を! まとめて消し飛ばしてあげましょう」
ラメドの剣が、これまでにない
「悪いがその一撃は振らせないぜ!」
ラメドの相手となったのはディーンだ。
振り抜かれようとする剣を大剣が
ハーシェルとアーネストは彼女の横を通り過ぎ、シンとベートへ迫った。
最優先で落とすべきは、シン。
「その首もらった!」
無防備に
——だがその横で、ベートがにたりと口角を上げた。
「……なんてな。ツァディー!」
「飛んで……っ! 〝アルタイル〟!」
奪われた視界の中で——。
「うああっ!!」
「ぐぅッ!」
「がは!」
——仲間達の叫び声が響いた。
何が、起きているのか。
それを知る前に、ロベルトは熱を帯びた何かに身体を
そして——。
「茶番は終わりです。王国の騎士達よ、お眠りなさい」
勝ちを確信した時こそ、最も警戒せよ。とは誰の言葉だったか。
見えた勝ちの目に、抱いた慢心が
ロベルトは己の判断の甘さを悔いながら、身を
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