第二話 北の大神殿で待つ者
ルーカス達は聖都から馬で〝
難所は神殿手前の森。
天然の
森の入口付近で下馬して、そこからは徒歩での移動。
進路を塞ぐ
——しかして、ルーカス達は北の大神殿に辿り着く。
神殿は大陸の北端、天を
敷地の境界線から神殿へ続く道は、白い石材の敷き詰められた
通路を進んで行けば、
神殿の外装は
壁は黄金のアラベスク
正面からは三角形に見える屋根、道中の
通路も建物も、風化が
術式の心臓部がある場所だけに、教団の管理が行き届いているのだろう、とルーカスは思った。
そして、通路の終着点。
そこまで長くない石造りの階段の上——神殿の入口には二人の男女の姿があった。
一人は
「お、やっとおいでなすったな。待ちくたびれたぜ」
ルーカスが階下から様子を
その
聖騎士が
【
「来ましたね、レーシュ。そして救国の英雄——いや、【
刃物のように鋭利なラメドの瞳が、ルーカスを射抜く。
事情を知らない団員の内、ハーシェルとアーネストが
ロベルトは思い当たる節があるのか、
ルーカスが使徒であることは国家機密。
だというのに、こうもあからさまな言い方をされては取り
「……軽い口だな、何のための
声を低めて
「聖下の策が
「戦う前から勝った気でいるとは。
「
ラメドは態度を
同じだけの気迫をルーカスも視線に
——だったが、「クク」と
「ヤル気満々でイイ殺気だ。何なら、オレ様と遊ぶか? まとめて相手してやんぜ?」
テットが右手を差し出し「かかってこい」と言わんばかりに人差し指を動かして見せた。
安い挑発に乗るつもりはないが、戦闘となる事はわかっていた事だ。
仲間達が身構え、ルーカスも刀へ手を
想定内の状況。
必要とあらば武を持って制するだけである。
しかし、テットの言動を受けて、意外にもラメドは放っていた殺気を
「テット、
「あ? ラメドもヤル気だったろ?」
「……聖下の、命令に逆らうのですか?」
「だってこいつらどうみたって雑魚だろが。どうせ
テットがこれ見よがしに親指を突き立てた拳を下にして、こちらを
彼が戦闘狂なのは有名な話で、その戦闘能力の高さは知っている。
だが、この人数差を
すると「さっきから黙って聞いていれば……」と、
ルーカスの瞳に映り込んだのは、赤と白を基調とした軍服。
肩のラインで切り
後頭部で三つ編みのハーフアップに
ルーカスの妹、双子の姉妹の姉、シャノンの背中だった。
「使徒っていうのは礼儀のない
再三の
「あァ!? んッだと!?」
青筋立てたテットが声を
シャノンは
「お望みなら私が相手になるわ、
シャノンの言葉を聞いたテットは何を思ったのか——突如、
階段の上から下へ。
質量のある身体に重力が乗って落ち、着地の衝撃で
ゆらり、とテットが起き上がる。
彼の
「女だてらに
どうやら〝駄犬〟と呼ばれたのが、最上級の
「……まあいいでしょう。『先手はテットに』と
ラメドが
「そうこなくちゃなァ!!」
テットは両手の拳を突き合わせて口角の端を上げて笑い、シャノンも剣を引く様子はない。
「いつでも掛かって来なさい、駄犬!」
最早、対戦カードは決まったも同然だった。
ルーカスの背後で盛大な溜息と「……まったく、シャノンお姉様は」とぼやくシェリルの声が聞こえた。
「お兄様、
言うと同時に、緩くウェーブの掛かった長い桃色の髪を
テットは嫌な顔をするどころか、笑顔を深めて「二対一か! たぎるなぁッ!」と
ルーカスは勇ましく立つ妹達を見つめて、拳を握り締めた。
(だが、シャノンとシェリルは騎士。ここで私情を挟むのは——違う)
彼女達も相応の覚悟を持って、戦いに身を投じている。
心配だから、妹だから、と特別扱いするのは、騎士の
ルーカスがこの場ですべき事は、兄として妹達を案じる事ではない。
一人の騎士として、彼女達の意思を受け止め、信じて託す事こそ、今必要な事。
ルーカスは
「シャノン、シェリル。ここは任せたぞ」
そうして仲間達には「行くぞ」と声を掛け、テットと向き合う妹達を追い越して前へ。
神殿へ向かって歩を進めた。
「任せて。こんな
「お任せください。お兄様、イリアお
不安を感じさせない明るい
(シャノンとシェリルならばきっと、やり
二人を信じて。
ルーカスは振り返らずに前へ進んだ。
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