第一話 出立の朝、和やかなひと時
聖歴
早朝。空の闇が
ルーカス達は北の大神殿へ向かうため、聖都の北門に集合していた。
イリアの話によると、目的地は馬を数時間走らせた場所にあるとの事。
徒歩では時間が掛かるため、彼女は自分に与えられた教団内の権限を
今は軍馬を管理している
「神殿への道は、特にこれといった障害のない平野。ここから北上すればいいわ」
「迷う要素はなさそうですね」
「でも、手前の森は天然の
「なるほど。森の様子を詳しくお
「うん。この森は〝カルディエヌ〟と呼ばれていて——」
ロベルトとイリアが、地図を広げて移動経路を確認している。
その様子を見聞きしながら、ルーカスは夜明け前に入ったゼノンからの通信内容を思い起こしていた。
ピアス型のリンクベルが「リリリン」と、軽快な
『
応答して飛び込んできた一報は、寝起きで
「な——」
ルーカスは驚きに声を荒げそうになったが——静かな寝息を立て、寄り
銀色に輝く長い
目覚めるにはまだ少し早い時間だ。
ルーカスは彼女を起こしてしまわないように、と細心の注意を払ってベッドから抜け出すと、場所を隣の部屋へ移して会話を続けた。
「……ジュリアスが死んだ時の状況は?」
自殺の線は低いだろうと、ルーカスは踏んでいた。
戦場で
『見張りが立っていたんだけどね、
ルーカスは眉を
ジュリアスはアディシェス帝国の
彼の立場と、情報を得られると期待していたのもあって、警備は厳重だった。
誰にも気付かれず、どこぞの獣が侵入する余地などない。
とすれば考えられるのは、何者かが意図的にそれを行ったという事だ。
「アディシェス帝国……
『恐らくはね。……すまない、私の失態だ。君の
悔しさに
リンクベル越しに、ゼノンが歯を噛み締める様子が想像出来た。
「過ぎた事は悔やんでも仕方ない。帝国と魔神も気掛かりだが、今一番の問題は
止めなければ
『……わかっているよ。君に話したのは、もしかしたら私達の内部に、帝国側の協力者がいるかもと思ったからだ。こちらも準備が出来次第そちらへ向かうつもりだが、現状では君達が頼りだ。くれぐれも気を付けて。
——ルーカスの武運を祈る。
成し
それは皇太子という立場からだけでなく、友としての
「ああ、任せておけ。ゼノン」
寄せてくれる信頼と、
自分だけでなく多くの人々の命を負う大任。
だが、想いを
ルーカスに迷いはなかった。
ルーカスが回想を終えると「また、考え事?」と、心地よい
ロベルトは何処へ行ったのか——と視線を
イリア以外のメンバーも一緒だ。
視線をイリアへ戻すと、青空よりも
「何を考えていたの?」と。
「大した事じゃない、今朝の通信を思い出してただけだよ」
そう告げれば、イリアは表情を
通信の内容は彼女も知っている。
「帝国、魔神……。本当は、私達がこんな風に争ってる場合じゃないのにね」
見えない敵の影。
ジュリアス暗殺の裏側にある意図。
魔神の
それに——これから弟と対峙する事になるのだ。
その事に対して思うところも、やはりあるだろう。
ルーカスは
「大丈夫か? また、無理してないか?」
手触りの良い髪を
伏されていた瞳が上目
「大丈夫だよ。不安はちょっとあるけど、昨日話せた事で気持ちは固まってるし」
「本当か?」
「本当。そんなに心配しなくても、辛い時はちゃんと言うから」
「そうしてくれ。一人で抱え込むなよ」
「……もう、心配性なんだから」
会話のキャッチボールを繰り返すうちにイリアの表情が
そうは言ってもこの性分は簡単には変えられない。
「仕方ないだろ? それだけイリアが大切で特別なんだ」
と、耳元へ顔を寄せて
正面に向き直ると、頬を赤くして恥じらうイリアの姿がある。
そんなやりとりを繰り広げていると「ごほん、ごほん!」とわざとらしい咳払いが聞こえて、ルーカスは音がした方へ視線を向ける。
馬を引いたロベルトが、
ついでに全員の注目がこちらへ集まっている。
微笑ましそうに見守る双子の姉妹、視線を
「いやー、初夏だって言うのに、真夏みたいに暑いっすねぇ」
「お二人さーん、イチャつくのは構わんが、続きは全部終わってからにしてくれよー」
イリアは恥ずかしさに居た
背後で「ルーカスのバカ」と、低い
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