第二十六話 相容れない道
〝愛しているから、それ以外の全てを犠牲にしてでも、
ノエルがイリアへ向ける重く、深く、純粋なる〝愛〟。
その想いの
同じくらいの目線にある彼の、本来は
割り込んだ事で不快感を
余裕すら感じさせる笑顔をノエルは見せた。
ルーカスは〝愛〟の
「聖下は多くの人に憎まれ、イリアを悲しませる事になるとわかっていても、この道を進むのですか?」
「
「……ああ、そうだな」
理解出来る、という点については
かつて
あの時の絶望と、
思い起こせば、胸が
(もう二度と、愛する者を失いたくない)
だからこそ、イリアに
彼女の身代わりになる、誰かがいれば——と。
情けない事に、今もどこかでそう考えてしまう自分がいて、ルーカスは己の心の弱さに笑ってしまった。
「なら、僕の手を取る選択もあるだろう?」
おもむろに、ノエルが手のひらを差し出した。
理解が
(彼の想いは、本当に……痛いほどよくわかる)
しかしそれは、イリアが望む最善ではないと、ルーカスは知っていた。
背中に隠したイリアを振り返ると、
その表情は、言うまでもない。
(イリアの笑顔が見たいのに、ここ最近は悲しそうな表情ばかりだな)
ルーカスは
「心配せずとも大丈夫だ」と伝えるためであったが、根底には、自分が見たいと願う笑顔を、彼女にも
ルーカスは前方へ向き直りノエルを
「俺が貴方の手を取る事はない。彼女を〝
『仕方がないから』と、
瞳を
ノエルから笑顔が消えた。
彼は差し出した手を
「は……ははッ! とんだ理想主義者だな。それがどれほど困難で、可能性の低いものか理解してるか?」
「
今度はルーカスが、手のひらを差し出して見せた。
けれど、ノエルがその手を取る事はなく。
「僕は不確かなものに
と、瞳を細め、鼻で笑われた。
それでもルーカスは、ノエルと争わずに済む道があるなら——と、対話を続ける。
「実現するための努力こそ、今すべき事だろう?」
「
「ほんの一時でも、立ち止まる事は出来ないか?」
「立ち止まって、叶わない夢を
「夢は……夢を
「それこそ
対話の中に
彼は願った事があるのだ。
夢を。叶わない願いを。
願っては破れ、
「——無駄話は、終わりだ」
ノエルが
「僕達の道が、
「……そうか」
ルーカスは選ばれる事のなかった選択肢を、そっと仕舞うかのように、差し出した手のひらを握り
——彼が
不確かなものは必要とせず、愛する者の想いすら力で
〝愛〟と言う共通の感情を持ってはいても、表現の仕方、
ノエルの背が遠ざかって行く——。
行く先には、
対話の間、静かに見守っていた仲間達が、ルーカスとイリアの両翼に寄って身構えた。
ノエルが使徒達の元へ戻ると、宴の招待状を届けた小悪魔的な少女、使徒アインがノエルに抱き着いて、何かを
「話が終わったってんなら、
両の拳を交互に打ちつけて鳴らし、
お預けもくらっているし、戦いたくて仕方ないのだろう。
ルーカスは刀の
いずれも一筋縄ではいかない相手だ。
(あちらがやる気ならば、
だが、封印の魔術が解除されていないこの状況下での戦闘は、こちらが不利である。
苦戦は
(だとしても、屈することはない。
どれほど困難な道であろうと、想いを
——ところが、ルーカスの予想に反して、戦闘が始まる事はなかった。
「下がれと言っただろう。ここでやりあうつもりは、
「えぇ!? まだお預けかよ……」
がっくりと肩を落としたテットが、子犬のようにしょんぼりしている。
あちらとすればこちらの能力が制限されている今こそ、
「何故だ?」
ノエルの意向が
「
……
ノエルは
「北の大神殿」と聞いて、イリアが迷うことなく
「
「そう、術式の心臓部。
僕達を止めたいなら、明日そこへおいで」
ノエルはそう言い残して——ベートの魔術が生み出すマナの
今日、何度か見た、魔術による転移だろう。
一足先に決戦の地へ向かったのだと、安易に予想出来た。
ルーカスは刀の
決戦は明日。
北の大神殿、
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