第二十五話 愛に狂う者
一切の手出しを許されなかった宴が終わり、ルーカスは後味の悪さを噛み締めていた。
それは恐らく皆が感じており、
彼らがやって来たのは、そんな時だ。
扉より現れる人物が誰であるのか。
視認するよりも早く
「ギインッ!」と金属のぶつかる音が響き渡る。
「——いいねェ!
楽し気な男の大声音が
まず目についたのは、
そのように派手な髪型をした男が、二本を交差させたフェイヴァの槍に、
腕もさることながら、全体の体格も筋肉で
ルーカスは男を、戦場で
【
戦闘狂として知られ、
フェイヴァは
ちょうどルーカスの隣へ並ぶイリアの前に退避する形となり、フェイヴァは来訪者達を
「
低音域だが女性のものとわかる透明感のある声が、フェイヴァをカフと呼んで
声の主はラメド。
遠目にも輝いて見える白銀の
「オレが敬意を払うのはただ一人。使徒の名を
珍しく
両翼に聖騎士長アイゼンと、六名の
フェイヴァの言動に動じないノエルに代わり、感情を
「この
ラメドが
彼女は使徒の中でも、教皇への
感情の起伏が少なく、怒りに任せて行動を起こすタイプには見えない彼女だが、忠誠心の高さが〝使徒の本能〟に直結するものであるなら、本能が色濃く働いた結果
「
テットが舌なめずりして、値踏みするような視線を向けて来た。
二人はすぐにでも、襲い掛かって来そうな
そんな彼らの間に立つノエルは至って冷静に
「いいんだ、ラメド。
テットも今は下がれ」
「何でだよ! 一番槍はオレって約束だろ!?」
「『今は』と言ったんだ。言葉の意味は……わかるだろう?」
低くて
イリアと同じ青い瞳が、欠けて行く月のように細められ、殺気が極寒を感じさせる冷気となってノエルから放たれた。
あの若さでどこまでの闇を経験すれば、このような
「わ、わかったよ、待つって!」
至近距離で浴びたなら、たまったものではないだろう。
テットはすっかり
「良い子だ」
ノエルはテットの肩を叩くと、また一歩前へ出た。
フェイヴァに向けられた槍を恐れる様子など
距離を詰めたノエルの指先が、伸びた穂先に触れて、押し
「そう警戒せずとも、話をするだけだ」
と、すれ違い様に告げて、フェイヴァの横を通り抜けた。
フェイヴァは槍の角度を変えて、穂先をノエルの背に向けている。
ノエルはそれすら楽しむように口角を上げ、
そうしてルーカスとイリアの眼前へ
先程までの殺気は、どこへやら。
まるで別人のようだ。
「久しぶりだね、
「……ノエル」
「教皇聖下にご
ルーカスは胸に手を当て、
彼に思うところはあるが、神聖国の国主であり、教団の頂点を
下げた頭を持ち上げると——「パンッ」と
隣に居たはずのイリアが
ノエルは張られた頬を気にする素振りもなく、微笑みを崩さずに顔の角度を正面へ戻した。
「そんな顔しないで、
イリアと変わらないくらい白く、けれども彼女よりも大きなノエルの手が、イリアの頬を撫でる。
「悲しむ必要はないよ。奴らはこれまで散々、僕らをいい様に扱ってくれたんだ。当然の
「だからってこんな強引なやり方じゃ、何も解決しない。
「お願いノエル、もう止めて! 今ならまだ、別の方法だって——」
同じ瞳の色を持つ、二人の視線が交差する。
「残念だけど、時間がないんだよ。わかっているだろう? それに正直、世界の人々がどうなろうと、知った事じゃない。僕は姉さんを救えるなら、何だってする」
「どうして、そこまで……っ」
感情の波に乗せられて、彼女の瞳が大きく揺れ動いている。
ノエルは払い落とされた手を再度、イリアの頬へ
「僕の宝石……。たった一人残された、家族。
……〝愛〟に狂うのは、一族の
イリアが息を飲み、
ノエルの表情を見れば、嫌でも理解する。
彼は心底、
執着、狂愛……。
家族へ向ける親愛と呼ぶには重く、深く。
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