『幕間 不穏の影⑧ 時は満ちた』
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人間を罪に導く可能性がある欲望や感情。
これらは誰しもが少なからず持っているものだ。
ならば何故〝大罪〟と位置付けられているのか?
その
聖歴
アルカディア神聖国・
聖都へ戻ったノエルはオーラム神殿の地下祭壇で祭儀を済ませると、教団に巣食う病巣、
——時は満ちた。
歴史ある教団本部、ディラ・フェイユ
教団軍部の頂点は名目上、聖騎士長のアイゼンとなっているが、実権は
こちらの動きを察知した
だが、一介の
結果、無駄な抵抗に、無駄な血を流す事となった。
けれど、予想の
(何事にも犠牲はつきものだ。痛みなくして変革は
ノエルは苦しみに
ここは会議や決議を
部屋の中央・最奥に、先行した三人の
彼らがいるのは、一際大きな女神像が置かれた
ノエルは
広い室内に靴音が
視界に入った壁には、女神に関連した絵画や彫像が
絵画は
見るからに値が張るであろう品々だ。
見上げる事はしないが天井も意匠の
(惜しみなく財力を投じたとわかる内装の意図は、女神への忠誠と敬愛を表すためだと言うけど……苦しい言い訳だ)
意図を
ノエルとアイゼンが祭壇の前へ辿り着くと使徒の一人、アイゼンと同じ聖騎士の証である白銀の
彼女の頭頂部で
「
「ご苦労様、ラメド。それに〝ヌン〟と〝テッド〟もよくやってくれたね」
ノエルはヌンとテットと呼んだ使徒へ視線を向ける。
するとヌン——教団のシンボルカラーである白を基調とした、女性用の軍服を身に
彼女は【死神】の
その手には、女性の平均より少し高めの身長よりも丈のある、黒塗りの大鎌が握られている。
雪のように白い肌に、
そしてもう一人。
「ノエルサマ、こんな
招待客の到着はまだか?」
軍服の前面をオープンにして着崩し、筋肉質で粗野な印象の男性が首の骨を鳴らしてぼやいた。
彼は【
テットは使徒の中でも好戦的な性格で、拳を武器に戦う事を生き甲斐としている。
「アインが昨日の内に招待状を届けているから、
「なら、一番槍はオレだ! いいだろ?」
テットが手甲を組み合わせて関節を鳴らし、犬歯を
「好きにするといい」
反対する理由はない。
ノエルは足元に転がる、
手足を
「歯向かう者は容赦なく排除しろ」と使徒達に伝えたが、こいつらは別だ。
この手で
だが、発せられるはずの音は一切聞こえない。
使徒達と会話を
ノエルは彼らを見渡して、そこに見つけた一人の
自分より才ある者に
権力に物を言わせて
高価な装身具を身に着け、純白の祭服を
ジョセフ・ライネス主席
「これまで受けた
ノエルはその
腹ばいとなったジョセフは、毛が生えずつるりと光る頭と
休みなく口を動かして、申し訳なさそうな表情を作りながら、音とならない言葉で必死に語りかけて来る。
大方、我が身可愛さに
ノエルからすればジョセフのそんな姿は、
「くくっははは! 立場が逆転したね? 今度は僕がお前に痛みを与え、
弱者の側に回った気分はどうだい?」
ノエルはジョセフの顔が良く見えるようにしゃがんで、
頬の肉塊に押されて見辛かった茶色の瞳がノエルを、親の
そうした
依然、魔術の効果が続いているので、声は音として聞こえない。
一体何を
アイゼンはというと
唇の動きで言葉を読み取る事など、アイゼンにとっては造作もない事だろう。
「ジョセフ
取引に
……仮にも女神様に仕える者なら、最期くらい
アイゼンの返答にジョセフが目を見開いた。
呪詛という
驚くのも無理はない。
「残念だったね? アイゼンは僕の
アイン——ディアナがこいつらと繋がっていて、
知っていて捨て置いた。
こちらが察知していることを彼女自身も悟っていたし、害にはならなかったからだ。
ノエルは
「罪人を
ジョセフが青ざめてカタカタと震えている。
他の
中には封じられた声の代わりに、表情で「自分は悪くない」と、慈悲を
同情の余地はない。
「君達の罪は、
だから、僕に感謝するといい。
溜めこんだ怒りを
ノエルは、〝死〟を目前にして、見っともなく表情を変えて取り乱す彼らを横目に
「アイゼン、
準備が整い次第、
「イリア様の到着を待たなくてよろしいのですか?」
「
「は。
そうして、宴の準備は着々と進められて行き、舞台は幕を開ける。
——姉さんが
僕の神力が創り出す神の槍——〝
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