第十六話 王手へ詰めの一手
部隊が目指したのは森林地帯の中間付近にある、切り立った丘の
晴れていれば眼下にディチェス
今回は雨と霧の影響で視界が悪く、素の肉眼で視る事は困難だが、
それらに特化した団員により
「見つけましたよ、団長」
「敵軍ど真ん中。国旗を
偵察班の一人が〝
——
白銀の
「恐らくは第三、第五皇子のどちらかだな」
帝国には五人の王子が存在していたが、第二皇子は六年前の戦乱で討ち取り、第四皇子は産まれてすぐ病死したと聞いている。
そして第一皇子は病弱との噂があり、戦場へ出て来た事がない。
であれば、どちらかに
「
ルーカスは
彼らは
これで標的を見失う事はない。
ルーカスは次にロベルトへと視線を移した。
ロベルトはリンクベルの通信で本陣と連絡を取り、情報の伝達をしている最中だった。
「——はい、
彼の側へと歩み寄り、通信が終わったのを見計らって声を掛ける。
「あちらの状況はどうだ?」
「順調な様です。
「そうか。こちらの仕掛けるタイミングと
標的は補足出来たため、後は行動へ移すだけだ。
ルーカスは丘の上へ集った総勢五十名の団員を見渡した。
——機は
ルーカスは左腕に
かつてこの地で多くの命を奪い、大地を崩落させた
だが、恐れる必要はない。
破壊の力も、【塔】の
この力は今、道を切り開くために
ルーカスは息を大きく吸い込み、叫ぶ。
「
団員達から「おおお!!」と、雄叫びが上がる。
特務部隊はルーカスの掛け声を合図に、
魔術師隊が事前に〝
ルーカスは
全身に雨粒の
「コード『
声高らかに告げた。
『事前承認——
第三限定、
腕輪から
(——【塔】の
その特性は物質の崩壊。
破壊の力が物質を消し去る力だとすれば、崩壊の力は物質の
どちらも壊す事に特化した能力だ。
帝国軍の進行方向に対し、真横から迫ったルーカスは、大軍を目前にして
そして立ち止まると、後続にも停止の合図を送り、刀の
狙うは大地の崩落。
人に向けて直接力を振るうよりも、手っ取り早く大軍の排除と分断を
「
力が作用する様を
刀から大地へ、ルーカスの意に
底から響くような低い
予告なく大口を開けた地に、進軍中だった兵士が少なくない人数巻き込まれ、落ちる。
どれ程の深さとなっているのか、ルーカスも正確にはわからない。
雨音、地鳴り、恐怖を叫ぶ声の、
「見事に真っ二つだな」
「破壊の力ってのは何でもありっすね」
ディーンとハーシェルが目の上に手をかざして、割れた大地を見つめている。
空は
そして正しくは【塔】の
「敵将の反応、まだありますね。
「……そうか」
落ち着きのある高音が告げた。
地割れに飲み込まれてくれれば一気に片がついたのだが、そう上手くはいかないようだ。
かと言って、これ以上この地を破壊する訳にもいかないので、ルーカスは力の放出を止めると、地に刺した刀を抜く。
——と、胸の辺りに
口内に鉄の味が広がって、すぐさま口元を
それを見たロベルトとアイシャが「団長!?」と悲鳴を上げた。
急激に力を行使したため、制御が甘かったらしい。
アーネストが駆け寄りこちらの
しかし、ルーカスは手の甲で口元を
「おいおい、ほんとか?
「問題ない」
多少の痛みは慣れている。
何よりこの大一番で気弱な姿を見せれば、団員達が不安を抱き兼ねない。
ルーカスは親友の問い掛けに
するとアイシャから「せめてこちらをお使い下さい」と、レースの付いた白いハンカチを手渡された。
血で汚してしまうのは申し訳なく思ったが、突き返すのも無粋だ。
「ありがとう」と、お礼を伝えて
アディシェス軍が分断し、混乱している今が絶好の
「——さあ、行くぞ! 遅れるな!」
ルーカスは刀を左手に持ち変えると、敵軍へ向かって突っ込んだ。
この戦乱を終わらせるため、首級を狙う。
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