第四話 水の都市・花のザフィエル
聖歴
その日の早朝、救援要請を受けてエターク王国から船でナビアを目指したルーカス
ナビア連合王国・首都ザフィエル——。
水の
建物の立ち並ぶ土地は水路で六つの区画に分かれており、その形状は花の花弁のようであった。
王都オレオールに通ずる構造から、オレオールは星、ザフィエルは花、星花の双子都市と言われる事もある。
寒色系や白に塗られた屋根や建物が多く、合間を
しかしその美しき
到着早々、ルーカス達は目にした光景に言葉を失った。
街中の至る所に、震災と魔獣襲撃の
また、道端に倒れ込んでいる人もいて——イリアとリシアは、その姿を見るなり髪を
「大丈夫ですか!?」
「う……うぅ……」
「……マナ欠乏症だね。治癒術じゃ、治せない」
倒れた人の状態を魔術で
一般的な治癒術は体内のマナを活性化させる事で、細胞の再生を促し怪我を治癒させる。
マナ欠乏症は、体内を
軽症であれば自然治癒するが、重度の場合は不足したマナを
(ザフィエルの状況、話には聞いていたが——)
予想よりもずっと悪い状況に、ルーカスは眉根を寄せた。
街の復興はままならず、動いている人達も元気がない。
恐らくマナ欠乏症の影響なのだろうが、歩いているそばからふらつき倒れ込む人影もあり、健常な人を探すのが難しい。
街の
すると、アイシャの大きく開かれた
「大気のマナが薄いですね。それに、何と言うか……体内のマナを消費して、魔術を
「言われて見ればそうですね。ほんの少し
アイシャの発言にアーネストが同意を
マナとは、世界樹から生み出される神秘的力の
人の体内にも存在していて生命の維持に欠かせず、魔術・マナ機関の原動力ともなっている物質だ。
創世の時代より大気には当然のようにマナが満ちており、魔術を行使する際など、マナの密度の濃い場所では視覚化する事もある。
そして人は無意識下にマナを体内で
そのマナが薄くなっている——つまり、
そればかりか、体内に保有するマナが何らかの
(今感じている息苦しさも、それが原因か?)
ナビア側がどこまで情報を掴んでいるかはわからないが、もしそうであるなら、一刻も早く原因を突き止める必要があるだろう。
「ほー、魔術師にしかわからない感覚ってやつか?」
「おまえは何も感じないのか?」
「
ハーシェルがけろりと言って
「こう言う時は、ハーシェルの図太さが頼もしく見えますね」
二人の会話を見ていたロベルトが、感心した様子でルーカスに
「だな、短所すら長所に思えてくるから不思議だ」
魔術の
だと言うのに、それを物ともせず平然といつもの調子を見せるハーシェルは、何故だかロベルトの言うように頼もしく見え、
「お兄様」
不意に背後から声が掛かる。
振り返れば双子の妹達がルーカスを見ており、シェリルが長い桃髪を揺らして一歩前へ出た。
「この後の行動は、まずは王宮へ——ですか?」
「そうだな。もどかしいが、勝手な行動は出来ない」
救援のために来たとは言え、こちらで好きに動いて支障があっても困る。
「なら、お
と、シャノンがハーフアップもまとめた髪を後ろ背に
——そうして、ルーカス達は街の中心部に位置する宮殿へと向かう。
(まずは救援物資の受け渡しと——その後、情報の共有と確認のために女王と
街の
水路に囲まれたナビアの宮殿がある中心部へ。
六つの区画の陸地から
宮殿のある区画の一帯は、以前イリアが展開した領域魔術『
(おそらくこれは、
彼の能力の本質は、二つ名が
見た目と装備もいかにもと言った重装備の騎士なのだが、防御と結界の魔術に精通しており、彼ならばこのような芸当は
着々と歩みを進めて行くと、宮殿の外観が見えて来た。
宮殿の屋根は青くドーム状の形をしており、壁は白くレンガ調の石積みで、要所には円柱が
入口付近には衛兵の姿があり、彼らはこちらに気付くと一斉に礼を取った。
ルーカスは皆に制止の合図を送り、衛兵へ歩み寄る。
「エターク王国騎士団所属、特務部隊団長ルーカスだ。貴国の救援要請を受け、応援に駆け付けた。取り付いでもらえるか?」
「王国の皆様、お待ちしておりました。どうぞ宮殿内へ、ご案内致します」
「ああ、よろしく頼む」
事前にしっかりこちらの訪問が周知されていたのだろう。
そこからは円滑に事が運び、救援物資の受け渡し等、迅速に作業は進められて行った。
しかして、ルーカスとイリアは確認作業の最中呼び出しを受け——謁見に臨む。
【女帝】の
この国の女王陛下、カルミア・ローリエ・ナビアとの謁見に。
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