『幕間 不穏の影⑥』
聖歴
ナビア連合王国より南。
ホド連邦共和国の北東に位置する大陸、火山地帯手前の町マルス、その町はずれにある神殿。
鉄分を多く含んだ土が周囲を赤茶に染める光景の中、神秘的な外観と白の色彩が相まって異質さすら感じる神殿に巡礼団は立ち寄っていた。
神殿を
活発な活動を繰り返す火の山は危険と
その影響だろうと誰もが思った。
聖騎士団長アイゼンは倒れたノエルを背負って運び、一行は神殿へと滞在することになった。
用意された客室にアイゼンの手によって運び込まれたノエルは今頃、【審判】の
アインは他の
部屋の内装や家具はあからさまに
外に面した白い壁には高い窓が
アインはソファへ浅く座ると、身を乗り出してローテーブルに地図を広げ、着席した二人の
そして、地図に
「ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ。次でようやく折り返し地点ね」
アインが数えたのは
巡る神殿は全部で
エターク王国領地ラツィエルのターコイズ神殿。
王都オレオールと北西の港町ミトラの中間にあるアダマス神殿。
ナビア連合王国首都ザフィエルよりほんの少し北の森にあるパール神殿。
そして今いる大陸の火山地帯にあるルビー神殿。
「……長い道のりだな。女神を
そう
白地に黒のラインと赤のマントが映えるローブを着たベートは、
その手には
「ま、今回に関しては根回し済みなので大丈夫ですよ。いざとなったら
「簡単に言うが、そう何度も使える
そのため【魔術師】の
過度な魔術の行使はマナ欠乏症を引き起こし、下手をすれば生命活動に支障をきたして死に至ることもある。
それはアインも承知の上で発言した。
彼の反応を見るために。
思った通り、いい感じに感情を顔へ出して、綺麗な顔を
「あっは!
「だとしても、本能に従い無駄に命を浪費するつもりは
「ふぅん。まあ、私も同意見だけどね? 自分の意志と関係なく振り回されるなんて、まっぴらだもの」
ベートの言う本能とは——女神の祝福を受けて
個々で気持ちの大きさに差が見られ、
——が、根底には必ず存在する感情で、時として
アインは宿す
(……ほんっと、気持ち悪い。まるで呪いね)
大きな声では言えないので、地図を見るために乗り出していた体をソファの背面に押し付けながら、心の中で
すると——隣に座ったツァディーが「ねえ、ディアナちゃん」と、星色のウェーブがかった
ディアナ——それはアインの名の一つだった。
「なぁに? ステラ」
名を呼ばれたディアナは、【星】のツァディーの本当の名を呼び返した。
するとステラはうつむいて、
「
「それはステラの方がよーく
「……わかんない。この力は、万能じゃない」
ステラが右の手のひらを胸の高さに持ち上げると、手の中に
その中では
それは
未来を
「……星は
ステラの言葉と共に、手の中の天球が
〝破滅〟を
すると——部屋の入口の方から「だが、もはや
声の主は【正義】の
壁を背に
後頭部で一つにまとめて
「この事態を
ラメドの言う事は間違っていない、とディアナは思った。
「とは言え、一番の大罪人は、
「せめてあと一年、早くわかっていればな……」
「
「そのためには犠牲も
「はい……わかって、います……」
ベートとラメドの言葉にステラは
だが、ディアナには苦痛に
絶望は
(ふふふ。こんなだから【悪魔】なんて呼ばれる
ディアナは自分の異常性をしっかりと認識していた。
およそ
そんな事を考えていると、コンコンと、何かを叩く音がした。
続いて扉の開閉音が響いて、ディアナが部屋の入口へと視線を動かすと、白い扉の後ろから純白の祭服を着た、青年が入室した。
海を思わせる青髪を持ち、優し気な
彼はノエルの診察と治療を行っているはずの使徒シン。
きっと診察が終わったのだろう。
「あ、ノエル様は大丈夫そうですかー?」
「うん、疲れが出たんだろう。一日ゆっくり休めば問題ないよ。あの方は気が付くなり『休んでられない。先を急がないと』の
先を急ぐ理由は知れている。
ノエルは宝石のためならば、あらゆる事をやってのけ、犠牲も
だから、自分の体の不調を理由に立ち止まりたくはないのだろう。
「ノエル様らしい」とディアナは笑った。
そうは言っても
「焦りは
「元より丈夫な
「今は回復に専念してもらおう」
ラメド、ベートが口々に言って、ステラはこくこくと首を縦に振っていた。
思いがけず時間が空くこととなったが、ちょうどいいかもしれない——そうディアナは思った。
(やることはたーくさんあるもの。時間は有効活用しないと)
(——ノエル様を
そうしてディアナはまたくすりと笑うのだった。
第一部 第三章
「動き出す歯車」
終幕。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
次章
第一部 第四章
「隠された世界の真実」
救援に向かう船上でイリアとの関係に変化が……?
そして、訪れたナビアの地でルーカスは知る。
残酷な運命を——。
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