第二十九話 共に立つ戦場~破壊の騎士と旋律の戦姫~
光の雨の中へ飛び込んだルーカスは、
イリアのいる場所は舞う土が邪魔して目では見えないが——微かに聞こえる歌声が
『——輝いて
歌が聞こえる。
美しい高音の、力強い歌声が。
ルーカスは落ちる光線を、反復する動きで素早く
歌声のする方へと——。
そうして、視界が晴れた一瞬。
(ようやく見つけた)
『……っ
少し苦しそうな歌声が響く。
彼女の苦痛を表すかのように、紫電の
どれほどの時間、攻防を続けていたのか——正確なところはわからないが、決して短くはない時間、魔術を維持してきたのだろう。
頬には汗が伝い、疲労が垣間見える。
ルーカスは速度を早め、走った。
イリアの居る場所まであと数メートルの位置まで迫った時。
光から
ルーカスは刀の
イリアの
ルーカスは落ちて来る光線を避けながら、彼女の近くへと歩み寄り、その瞳を見つめ返す。
「……来てくれたんだ」
イリアの唇が
「遅くなってすまない」
「ううん。ありがとう、ルーカス」
名前を、呼び捨てにされた。
その事にルーカスは驚きを隠せなかった。
(まさか、記憶が——?)
そう思ったが「グオアア!」と空気を震わす獣の雄叫びを聞き、思考を中断した。
振り返れば、接近する
金毛の獣は
ルーカスは刀を眼前で水平に構えるとその
『撃ち
イリアの歌が響き、天からの
「グガァァ!」と痛みに
ルーカスは一歩後ろへ跳んで下がる。
そうすれば、見計らったようにすかさず追撃の光が降り注ぎ、白い炎が
イリアの
(ロベルトからの連絡はまだか?)
そう思った時だった。
ピアス型のリンクベルが「リリリン」とリングトーンを鳴らし、着信を
ルーカスはすぐさま応答し、声に耳を
『団長! 申請通りました。行使コードは——』
告げられたコードを頭の中で反復し、ルーカスは口角の端を上げた。
ようやく鍵が揃った、と。
「イリア、悪い。あと少しの間、魔獣を
隣に並び立ち告げればイリアは
『
魔獣が
「第二限定解除! コード『
『コード確認。第二限定、
左腕の腕輪の
輝きは腕輪だけに
『神なる
イリアの歌声が聞こえる中、解き放たれた力は、炎のようにうねり揺らめいて、ルーカスを包んで輝きを増していった。
全身を駆け巡る血が、
ちりちりと焼けるような痛みもある。
だがこの程度、耐えられない痛みではない。
(——
念じると、全身を包んだ光が一斉に
力は燃え盛る炎のような紅いオーラとなって大きく揺らめいた。
『
イリアの歌声と共に、光の雨が降って魔獣を撃ち
そうして舞い上がった土煙の中、見える
その場で
紅い斬撃は
「破壊の力……いつ見てもその力は
イリアの
第一限定解除は限定的に〝破壊の力〟を刀に伝わせ作用させる。
対して第二限定解除は刀に
「知ってるだろ? 使い方を
「そうだね。でも、今のルーカスなら大丈夫。でしょう?」
「……ああ。残りも破壊する」
「うん、援護は任せて」
ルーカスは再度刀身へと力を
そうしてイリアが歌を
言葉を交わさずとも彼女の動きが理解出来る。
ルーカスはイリアとの連携に心地よい一体感を感じながら、
救国の英雄、あるいは破壊の騎士と呼ばれる
それぞれの持つ
——程なくして、点在していた
ルーカスは力の開放を終え、けれども警戒を忘れずに周囲を見渡した。
彼女も同様に周囲へ目を向け、全ての
「……終わり、だね」
「だな。見える範囲には
「ん、良かった……」
力なく微笑んだイリアがふらりと体を揺らす。
重力に引かれて、彼女の体が後方へ
「イリア!」
ルーカスは慌てて刀を手放し、イリアへ手を伸ばした。
腕を捕まえて崩れる体を抱き留め、地面へ
そうして彼女の背へ手を回し、上半身を起こして支えた。
しっとりと汗ばんだ体は熱を持ち、浅い呼吸を繰り返して顔色が悪い。
相当無理をしたのだろう。
「悪い、無理をさせたな」
「ううん、大丈夫。でも、少し、やすませて……」
そう言い残して彼女は
——意識を失ったようだ。
苦しそうな息遣いが聞こえる。
長時間、魔術を行使した
「……ごめん。ありがとう、イリア」
ルーカスは眠るイリアを抱き締めた。
彼女の存在を
イリアのお陰で、王都への魔獣被害は劇的に
その事に感謝しつつも、騎士として守ると誓ったのに有事に傍に居られなかった事、そればかりか負担を
(——けれど、間に合った)
手遅れになる前に、大切な人を守れた。
彼女のぬくもりは、この腕の中にある。
「君が無事で、本当に良かった」
温かなイリアの体温と、呼吸を感じて安堵したルーカスの頬を、温かな雫が
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