第二十七話 それぞれの理念
『イリアさん、城門の向こうで戦ってるの! 一人で魔獣を
一心不乱に走り続け、そうして——ルーカスはようやくの思いで北西の城門前へと
全身を汗が伝い、息が上がって呼吸が苦しく感じられた。
斬り
幸いなのは救助活動が進んでいることだろうか。
高く
その後ろ、外へと続く道を確認すると——跳ね橋が上がった状態になっている。
(
魔獣が侵入しないようにと取られた
「だんちょ、早すぎ……っ!」
「……橋が、上がってしまっていますね」
ルーカスが状況の確認をしていると、ハーシェルとロベルトが追い付いた。
振り返って見れば、二人も汗を
それは彼らの後から現れたアイシャとアーネストも同様だった。
(跳ね橋——
ならばどうするかと、ルーカスは考える。
視線を
「シャノン!」
声を張って名を呼ぶ。
桃色の髪が
ルーカスは見つけた妹の姿を追って、門に付属して構築された
中の
「お兄様、こっち!」
引かれて
彼らは街道の方を
視線の先はおそらく、彼女が戦う戦場だろう。
(何故、見ているだけで誰も動こうとしない?)
ルーカスは彼らの姿に、焦りと苛立ちを
「あそこ!」
指を追って、その先を見る。
——そこは
空中に展開した無数の魔法陣から
広範囲に点在する
余波が地を
あれは【太陽】のレーシュの代名詞でもある大規模
彼女の姿は
そして何故、誰も助けに行こうとしないのか、その答えも明白だった。
近付くものは何であれ、無差別に消し去るあの光。
それを恐れて、誰も近付けないでいるのだ。
(……近付きたくても近寄れないと言った方が正しいか)
みすみす出て行ったところで、彼女の魔術に巻き込まれるだけ。
足手まといになるとわかっているから動けないのだ。
跳ね橋は上がり、閉じられた城門の向こうで一人戦うイリアに想いを
「ごめんなさい、お兄様。私じゃこの距離は跳べなくて」
「いや、この距離は正攻法では無理だ」
シャノンが悔しそうに唇を
城壁の外周には外敵を防ぐため
防衛機構であるため簡単に越えられるような
深く、そして広く。
対岸までは約百メートルの
「シェリルが居てくれれば良かったんだけど、その……怪我は大した事ないんだけどね。
気を失っちゃって、リシアと負傷した人達と一緒に、教会に……」
リンクベルの通話で怪我をしたとは聞いたが、シェリルがそんな事になっていたとは思っておらず、ルーカスは顔を
シャノンを見ると「あ、でもほんと大丈夫だから心配しないでね?」と慌てて付け加えられた。
(そう言うのであれば大丈夫なのだろうが……シェリルも心配だ)
「シェリルがいなくても何とかしなきゃって。私だけでもあっちへ行こうと思って、軍の魔術師にお願いしたんだけど、危険だからって手伝ってくれないの」
跳ね橋は水路に
それが上げられてしまった今、あちら側へ渡る
(だが、確かに。
魔術師の協力があれば話は別だろう)
シャノンが
すると話を聞いていたのだろう魔術師の一人が顔を
「当たり前だろう! あんな
「でも、イリアさん一人戦わせていい訳ないでしょ!」
「それは……っ! そうだとしても、君が行っても無駄に命を捨てに行くようなものだ!」
「自分の命惜しさに、何も出来ずにいるよりマシよ! 貴方達はそれで恥ずかしくないの!?」
魔術師の言い分がシャノンの
その剣幕に
「オレたちだってそう思ったさ! でも、あの方は『跳ね橋を上げてここには近付かないで』と言ったんだ!」
「わかるだろう? 次元が違うんだ」
「無意味に出て行ったところで、私達では足を引っ張るだけなんだよ……」
「だからって……!」
シャノンも必死だが、それに負けないくらい彼らも苦し気な表情を浮かべている。
「シャノン、落ち着け」
ルーカスはシャノンの肩へ手を添え、言葉を
納得いかない様子のシャノンが「でも!」と抗議の視線を向けて
だがルーカスは首を横に振り、それを
「気持ちはわかる。けど、彼らだって何も感じていない訳じゃない」
始めはルーカスも「何故誰も助けに行かないのか?」と苛立ちを覚えた。
しかし冷静になって状況を確認すれば、
今の彼女——記憶を失う前の〝旋律の戦姫〟と
彼らの決断は、無策であの場へ出たとしても彼女の助けにはなれないと、理解しているからこそ。
それを
「大丈夫。俺が何とかする」
ルーカスはシャノンを
眉尻を下げ不安に揺れる大きな紅の瞳がルーカスを見上げ、「うん」と頷いたシャノンが肩を震わせ唇を
「すまないな。お前達も、ただ見ているだけと言うのは辛かっただろう」
ルーカスがシャノンに代わって謝罪を
「いえ、お恥ずかしいところをお見せしました」
「申し訳ありません、ルーカス団長」
「私達にもっと力があれば……」
理念と伴わない現実との差異に、己の無力を痛感している彼らを責める事は出来ない。
そして今一番になすべきは不毛な言い争いではなく、根本の原因である
ルーカスは
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