第十六話 過ぎ去る嵐
城郭都市オレオール、王城前。
早朝のルーカスと教皇ノエルの対談は秘密裏に行われ、その場に居た者以外に知られる事なく終わりを告げた。
そして今日は、教皇ノエル
巡礼団の見送り
騎士団からも多くの人員が動員され、王都の外へと続く北東の門までの道のりを守り固めている。
緊張感のある雰囲気の中、両サイドをハチまで刈り上げた金髪を乱雑に掻きながら、ハーシェルが「ふああ」とあくびを
その
緊張感がなく気の抜けたあくびを繰り返すハーシェルに、両隣のアイシャとアーネストが
アイシャの
(ハーシェルはいつも通りだな……)
ルーカスは心の中で苦笑いを浮かべつつ、隣で顔色を変える事なく、
巡礼団の出発する時間が
警備に立つルーカスの耳に、王城の方から
自然と視線が音の方へと向かう。
見れば
馬上には当然、人影があった。
桃色の髪を頭頂部で丸くまとめ、鮮やかな紅の瞳、そして年齢
馬上からこちらの姿を
ユリエルが
「母上、どうかされたのですか?」
小走りになり、
そうして白馬はルーカスの前で動きを止めて、ユリエルが慣れた様子でその背から飛び降りる。
「またしばらく会えなくなるでしょう? その前にと思ってね」
「そう……ですね。シャノン、シェリル、父上とはゆっくり話せましたか?」
「ええ。今朝、邸宅で別れの挨拶を済ませて来たわ」
——実は母とこうして話すのは、あの庭園の夜以来だった。
一昨日は最終調整の会議と確認作業があり、昨日も朝から忙しく職務に追われた。
昨晩はイリアと夜の祭典へ出掛けたが、母は
今朝も教皇ノエルに呼び出され朝早く出かけたので、時間に余裕を持って、顔を合わせるタイミングがなかったのだ。
特務部隊の団員と、警備に立つ騎士たちから、好奇の目が向けられている。
周りの視線とあの夜以来と言う事もあり、ルーカスは
しかしこの後、ユリエルは巡礼団の護衛として公爵家の領地ラツィエルへ立つため、場所を移している時間はない。
持ち場と姿勢を維持したまま、取り留めのない話を続け——時間が過ぎ去って行った。
「——そろそろ時間ね」
出立の時間が迫り、ユリエルが名残惜しそうに
母には領主の仕事があるため、またすぐに会うのは難しい。
別れの言葉としてはありきたりだが、道中の無事と体調を
周囲がにわかにざわつく。
しかし
待機の姿勢を崩さず、母の行動に対して
すると耳元で「この前は傷を
あの夜の事を言っているのだろうと、すぐに理解できた。
「……いえ、俺の方こそ心配をかけてすみません」
こちらも大人気のない態度を取ってしまったため、お互い様だとルーカスは思った。
肩へ回された腕にぎゅっと力が
そうした後、母の腕はゆっくりと離れて行った。
「ルーカス、これだけは忘れないで。離れていても、どれだけ大きくなっても、貴方は私にとって大切な息子。母はいつでも貴方の幸せを願っているわ」
母の想いに、胸の内と目頭に熱いものが込み上げる。
だがこの場で
「十分わかっています、母上。……道中お気をつけて」
「ええ、行ってくるわ」
ユリエルが淡い
その
「イリアちゃんと仲良くね! ちゃんと想いを伝えるのよー!」
駆け
目を丸くする団員と、騎士の視線が痛い。
ルーカスは好奇心に満ちた視線から逃れるように
(母上、無茶ぶりはやめてください……)
ユリエルの奇行を
——教皇の巡礼団が出発する時間となった。
ユリエルが先頭を白馬で進み、その後ろにラツィエルから連れて来た護衛の騎士たちが続く。
護衛の騎士は前後で半数に分かれ、間に教皇を乗せた馬車が走る。
馬車のキャビンには教団の
聖騎士長アイゼンと
姿の見えないアイン、ツァディーは教皇と共に馬車に乗っているのだろう。
教皇を守るラツィエルの騎士の列の後ろには信徒が続き、徒歩もしくは荷車で移動している。
白銀の鎧を身に着けた教団の聖騎士の姿も最後尾にあり、有事への護衛も万全そうだ。
一団は信徒の歩幅に合わせ、ゆっくりと進む。
ルーカスを含め警備に立った騎士らは、
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