第十七話 憩いの酒宴
特務部隊の一班は、王都内の酒場で酒の席を
発端はハーシェルだ。
執務室に戻るなり「たまにはみんなでパーッと
確かにこの一ヶ月余りを振り返ってみると——。
度重なる魔獣討伐任務に、
長期の休みなど持っての他で、たまにはガス抜きも必要だろうと思い許可した。
——そんな訳で、区切りのいいところで仕事を切り上げた団員たちと、ハーシェルの行きつけだと言う酒場をルーカスは訪れていた。
酒場は吹き抜け構造の二階建てで、一階は数多くのテーブル席とカウンター席も用意されており見た目にも規模の大きな店だ。
二階の広さは一階の三分の一ほどのスペースで、吹き抜け構造のため下から上の様子が
更に席の仕切りにはパーテーションが
ルーカス達はその二階の角の席へ通され、丸いテーブルをぐるっと囲む様に椅子へ着席した。
メンバーは席順にルーカス、アイシャ、ロベルト、アーネスト、ハーシェルの五名だ。
テーブルの上には肉、魚、野菜などのおかずや、酒のつまみになりそうな品が並び、ジョッキグラスに入った
エールが到着してうきうきとした様子のハーシェルが、ジョッキグラスを片手に持ち上げる。
そして
「おつかれっしたー!」
乾杯の
それを合図に
ささやかな
ルーカスは乾杯を交わしたグラスを手元に戻した。
隣を見ればグラスに口をつけ、
アイシャ、ロベルト、アーネストも迷うことなく
彼らのグラスの液体は総じて
実はエールではなく、お茶を頼んでいたのだ。
「あれ? だんちょー、エールじゃないんすか?」
「ああ、エールはちょっと。俺は遠慮しておく」
「せっかくの酒の場なんすから、そう言わずに! あ、そうだエールが苦手ならいいものが。ちょっと待ってて下さいね」
「あ、いや、俺は——」
理由があって飲酒は控えているのだが、それを伝える間もなくハーシェルは席を立ち、一階へと降りて行ってしまった。
(行動力があるのは良い事だが、こちらの話も聞いてくれ……)
その様子を正面やや斜めの位置から見ていたらしいアーネストが「すみません、団長」と申し訳なさそうに
「あいつ浮かれてるんですよ。なんだかんだ、団長たちとこうして酒の席を
「そう言われてみると……そうだったか?」
ルーカスが特務部隊団長に
〝ディチェス平原の争乱〟そしてナビア連合王国が誕生するきっかけとなった〝ザハル・トレス・プルムブル独立戦争〟での功績を
以前から交流のあったディーンやロベルトを
その間にこのような席を
職務に
「はは。団長は昔からこういう場が苦手でしたもんね」
隣のロベルトが笑って見せた。
「団長」という呼び方はそのままだが、職務中でないためいつもの敬語は
今でこそ立場が逆転しているが、ロベルトは騎士学校時代の先輩だ。
昔は先輩と
付き合いがある
「苦手と言う訳ではないんだけどな」
ルーカスはロベルトの見立てを否定するように
こういった場はむしろ好きな方だ。
ただ、酒の席となると個人的について回る問題があって、自然と避けるようになっただけである。
ロベルトの方へ顔を向ければ——
何故かエールの入ったジョッキを両手に
普段のキリッとして頼りがいのある彼女からは想像出来ない姿に、何かあったのかと心配になった。
「アイシャ? 大丈夫か?」
ルーカスが声を掛けると、アイシャの肩が跳ねた。
「はい!? だ、大丈夫です!」
アルコールのせいもあるのだろうが、みるみる顔が赤くなっていく。
手も
それに驚いたのかアイシャが、
「何するのよ。気安く触らないで」
「グラスを落とす前に戻しただけだろう」
ロベルトとアイシャ、二人は旧知の仲だ。
余計な口を挟んでも悪いので、ルーカスは彼らのやりとりを見守る事にした。
「緊張しすぎだよ。ほら、息止めてないで呼吸して」
「止めてない。ちゃんと呼吸してるわ」
「
眉尻を下げたロベルトが困ったように笑う。
「ロベルトさんとアイシャさんは幼馴染なんでしたっけ?」
普段見られない光景を目の当たりにして、関係性を認知してはいたものの、再度確認するかのようにアーネストが疑問を投げかけた。
——そう、二人は幼馴染だ。
それは一班の誰もが知る事実だった。
「ああ、親が事業の関係で
「ちょっ! 余計な事言わないでロベルト」
「仲が良いんですね」
「まあね。オレにとっては妹みたいなものだよ」
頬を赤く染めて
「セクハラよ、それ」とぶすっとした表情を浮かべるアイシャに対し「オレたちの仲で今更じゃないか?」とロベルトは
その行動は妹分に対する「
双子の姉妹がいるルーカスには、その気持ちがよくわかった。
(妹は無条件に可愛いよな)
ルーカスの場合、歳が離れている事もあって余計にそう思うのかもしれない。
ふわふわの桃髪の双子の姉妹との思い出が浮かび上がり、自然と口元が
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