第十四話 欺瞞に満ちた願い
ノエルは万人が想像する、教皇に相応しい慈愛に満ちた表情で言った。
「僕が願うのは
直前まで、凍えるような殺気を発していた事が嘘のように。
(それほどイリアを大切に思っていると言う事だろうが……)
「ならば何故?」と、そんな思いばかりが浮かんで、ルーカスはノエルをじっと見つめ続けた。
「その様子、納得が行かないみたいだね。……いいだろう、説明してあげるよ」
そうして、ノエルは語る。
「怪我を負わせたのは、記憶を封じるため。必要に
姉さんの
本来は保護するはずだったんだよ。でも、手違いがあってね。
転移魔術でエターク王国方面へ渡ってしまった時には、それはもう焦ったさ」
ノエルは
後ろに並び立った使徒たちが、ゆっくりとフードを手で後ろへとずらす。
顔の上半分を隠した仮面も外され、彼らの容姿が
「ベート」
先程、魔術を使った使徒だ。
十の宝石がはめ込まれ、装飾の
燃える様な
「ツァディー」
左端に立つ使徒、小柄で細身の少女だ。
眉根を下げ緊張した
色彩のはっきりとした
「シン」
右端の使徒は細身の男、整った容姿の好青年だ。
海を思わせる青い髪、前髪は正面から見て左側だけ長く、優し気な
「それから、アイン」
そしてベートの右隣、
「姉さんに
ベート、ツァディー、シンが丁寧に頭を下げた。
アインと呼ばれた使徒はソファの背もたれの上に立て
イリアの姿で
(イリアの実の弟であり教団のトップ、教皇ノエル。
そして
——彼らが、彼女を
ルーカスは目の前の五人を視界に
疑問はまだある。
そうするに至った
ルーカスは再度問い掛ける。
核心へ至る答えを求めて——。
「何故、
(そこまでする理由とは一体?)
イリアと同じ青いノエルの瞳が伏せられ、表情に
「守るためだよ」
静かに
「奴らから
「……奴らとは?」
「
ノエルは首を
まるで試す様な問い掛けだな、とルーカスは思った。
持ち合わせた過去の情報を掘り起こし、しばし思案する。
(教皇である彼が奴らと呼ぶ者……)
過去のルキウス様との会話が脳裏を過った。
『
——と、ルーカスに語って見せた事がある。
「……
教皇と共に神聖国の政治を
彼らしか思い浮かばない。
ノエルは
「ご
十人の
話を聞く限り、教皇ノエルと
「そうだとしても、こんな……。回りくどいやり方をする必要があったのですか?」
「僕にも——いや、教団にも色々と事情がある」
事情とやらが何なのか、質問を重ねようと口を開きかけたが——「悪いけど、
そう言われてしまっては無理に聞き出す事も出来ない。
ルーカスは大人しく
「イリアを力ずくで連れ帰ろうとした件は、どう説明されますか?」
〝謎の襲撃者による王都混乱を狙った事件〟として処理された、
白昼堂々王都で暴れた、
父が教団に問い合わせた際は「知らぬ
「その件については謝罪する。
ノエルの視線がアインと呼ばれたイリアの姿をした彼女に向けられる。
アインはと言うと、立て
「
でも、桃色の双子ちゃんが『魔術なんて関係なーい、遊びたーい!』って言うから遊んであげたの。
桃色の双子ちゃんも、レーシュも楽しんでたでしょ?
ちょっとやりすぎちゃったかなぁって思うけど。抵抗されたらねじ伏せたくなるじゃない?」
にっこり微笑んで「ね?」と可愛らしく首を
「まったく。僕としても大切な物は手の届く場所に置いておきたくて、彼女に迎えを頼んだけど、あそこまでするとは思わなくてね」
「——
「わかってるよ。言葉のあやだ」
イリアを〝物〟と表現した事に不快感を示せば、ノエルは眉根を下げて
(話は大体わかった。
聞きたい事も、話せないと言われた事情以外は、
となると、あと残る疑問は一つだ。
内密に手紙を届けさせ、この場に呼び出した理由——。
(教皇ノエルは、何を思って俺をこの場に呼んだのか……)
昨晩、彼が夜の街に居たのも、ご丁寧にイリアの身に起きた事情を語ってみせた事も、単なる偶然や好意でない事はわかっている。
ノエルは自分に何を求めているのかと、ルーカスは身構えた。
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