『幕間 不穏の影③』
聖歴
アルカディア
〝ディラ・フェイユ
ここは
高い天井に白い壁、部屋は円状の造りとなっており、背の高いステンドグラスの窓が立ち並んでいる。
円形の天窓からは陽の光が入る設計となっていた。
僕は日課の祈りを捧げるため、部屋の中央にへ足を運ぶと、入口正面・部屋の最奥にある女神を
好き好んでこうしているのではない。
女神への祈りは僕の役割なのだ。
けれど存外、祈りの時間は嫌いじゃなかった。
——何故かって?
……この場所は静かだから。
僕にとっては心穏やかでいられる数少ない場所、時間だった。
祈りを捧げていると「ギイイ……」と扉の開く音が聞えて来た。
この場所に入れる人間は限られている。
誰だろうか——と、思いながら
「ごめんなさい。失敗しちゃった」
鈴を鳴らしたような高い声——。
祈りの間に訪れた人物の第一声はそれだった。
彼女の
「大丈夫と
「う……本当に自信があったんですよ。予想外がなければ」
祈りの態勢を維持しながら、振り返らずに少女の言葉に耳を
「宝石が力を取り戻すなんて。
それによりによって〝
〝破壊の騎士〟
その単語を耳にして、眉がピクリと動く感覚があった。
「あ、
楽しそうな鈴の音が響く。
宝石は僕にとって宝石だ。
そんな
だが、それと少女の失敗は別の話。
「良く回る口だね」
言い訳など聞きたくない。
怒りは
「そんなに怒るとハゲますよ? ほら、いつものスマイルです♪」
しかし、こちらの怒りなど物ともせず、少女はルンルンと、いまにも踊り出しそうなテンションだ。
彼女はいつもこうだ。
前向きと言えばいいのか、恐れ知らずと言うか。
明るく馬鹿みたいに振舞う。
「……はあ、君と話すと疲れる」
怒っても
僕は折った
彼女は人差し指を両頬に添えて、えくぼを作り笑っている。
明るいこの場所ではその容姿がよく見て取れた。
髪色は鮮やかな
三つ編みで
ワンポイントとして側頭部に添えられた、三日月形の金の髪飾りが光に反射して
えくぼの作られた顔は幼さが見え隠れする造形をしており、ぷっくりとした
彼女は僕と視線が合うと、可愛らしいフリルのついた、けれど肩や胸元は
「これでも反省してるんですよ?」
「……どうだかね」
少女の
今だって、声を楽し気に
「でも、あのおっかない騎士様が守ってるんですから、
問題としているのはそこじゃない。
重要なのは〝彼女〟が僕の手の届かない場所に
それくらい考えればわかるだろうに、わざと気付かない振りをしているのか、安易な言動に感情が逆撫でられた。
「君の頭はお花畑か? 中に何が詰まっているのか一度
「冷たいなぁ。嫌いじゃないですけどね、貴方のそう言うところ」
少女は花が飛んだ様に「うふふ」と
可愛らしさを武器に人を
「僕は嫌いだよ、君のそう言うところ」
「もう、照れなくていいんですよ?」
少女は
この手の色仕掛けは、見飽きている。
(……やめよう。
言い返しても不毛な言い争いが続くだけだ)
続く言葉を飲み込んで、代わりにため息を吐き出した。
「それで、どうするんですか?」
そんな事、決まっている。
僕は、問いかける少女が
すれ違い
「迎えに行くよ。丁度よく用事もあるしね」
——その時はもうすぐだ。
相変わらず
(僕を従順な
くくっと口角が持ち上がった。
少女を追い抜いて扉の持ち手部分に手を掛けると、その背後から「ふふ」と鈴の音が響いた。
「とっても素敵な
視線を向けると、僕をそう呼んだ少女は頬を染め
幼い容姿に似合わず、
そして僕は
万人を愛し、愛される女神の——その代理人。
アルカディア神聖国の国主、そしてアルカディア教団を取り
教皇ノエル・ルクス・アルカディア。
それが僕に与えられた、役割と名前だ。
第一部 第二章
「忍び寄る闇と誓い」
終幕。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
次章
第一部 第三章
「動き出す歯車」
聖地巡礼が始まり、ルーカスはある人物と対面する。
そして知らされる真実とは——?
物語の歯車が、少しずつ回り出す。
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