第二十四話 雷鳴を轟かせる旋律
イリアは
〝歌〟こそが、自分の力である事を思い出して、守るべきものを護り、立ち塞がる敵を撃ち
『そして神なる
ドラゴンのブレスを防ぐ障壁を維持しながら、先の歌の続きを
イリアの
『響け、雷鳴の賛歌』
視界を
『恐れよ、聖なる
障壁を解き、ドラゴンへ向かって歩を進める。
すると、足元に何かが当たり金属のこすれる音がした。
視線を落とせば、銀色の剣があった。
シェリルが手放した、彼女の剣だ。
扱い方は——心得がある。
『天より
重量感のある剣を、軽やかな動作で持ち上げ、ドラゴンへ向かって
視線を少し上へ、黒いローブの少女へ向ければ、唇を薄く開き歯を噛んで、両手を合わせるのが見えた。
眉を吊り上げて桃色の瞳がこちらを
イリアを取り囲む様に、
紫のマナが満ち、雷鳴の賛歌が今こそ体現する。
『いざ
天から
灰毛の
一撃を耐えたドラゴンと金獅子には、追い打ちをかけるように幾重もの稲妻が落ちた。
それは幻影が霧と成り果てるまで止まらない。
「この……!」
少女が指を鳴らして、
『紫電よ』
歌声に応えて
この歌声が続く限り、術は永続する。
そしてそれは意思一つで、手足のように操る事が出来た。
運よく
牙を
剣筋が一本の線を
そしてその頃には、雷に撃たれ続けた
少女の歯ぎしりする姿が見えた。
だが、何度幻影が向かって来ようと同じだ。
シャノンとシェリルがくりっとした紅の瞳をさらに大きく見開き、立ち尽くしてこちらを見ていた。
とても驚いた様子だ。
イリアは彼女達の負傷が心配だった。
シャノンは左腕が動かない様子だし、シェリルは血を吐いていた。内臓が傷ついているのかもしれない。
早急に治療の必要がある。
だが、負傷の度合いによっては治療に繊細な作業が
治癒術は使えるが、あの少女を相手に、その余裕はない。
ならば——と、イリアは二人よりも後方で気を失い倒れているリシアを見つめ、
『聖なる光、厄災を払え』
〝
リシアの倒れる地面に魔法陣が出現し、淡いマナがその身を包み、程なくして彼女は
「……あ、れ? わたし……」
リシアはゆっくりと頭と体を起こすと、周囲に視線を向けていた。
「リシアちゃん、シャノちゃんとシェリちゃんの治療をお願い」
イリアは短く告げた。
リシアからは「え?!」と驚いた声がして、状況を飲み込めずおどおどしている。
(けれど、大丈夫)
彼女は
以前、自分を助けてくれた実力は本物だ。
きっとすぐに状況を把握して治療に当たってくれる。
だからイリアは迷わず前を向く事が出来た。
黒いローブの少女は
イリアは対抗するかのように歌声を響かせる。
そうすれば雷光が発生し幻影を掻き消した。
稀に雷から逃れ、迫って来る敵があったとしても、
そんな攻防がしばらく繰り広げられ、状況は
「——ああっもう! めんどくさいなぁ!」
少女が金切り声をあげ、かなぐり捨てる様に言い放った。
相当苛立ちを募らせている様だ。
こちらとしてもそろそろ状況を
次の手を——と考えたところで、少女はすっと両手を広げて見せた。
黒いローブが音を立て風に
「怪我させるなって言われたけど……ちょーっと痛い目にあってもらうよ?」
(……何をするつもり?)
大気のマナが震え、風がざわめき始めて、嫌な予感しかしなかった。
吹き付ける風にひりつくような痛みを感じながら、イリアは少女を
背後にはシャノンとシェリル、そして二人を治療するリシアがいる。
それに周囲には未だ意識を失った人々が倒れている。
(私が守る。誰も傷つけさせない——!)
その時だった。
「——そこまでだ」
陽光を反射する銀色の剣先が四方から向けられ、少女は腕を広げた姿勢のままピタリと静止した。
剣を携えた彼らが身に
エターク王国軍で規定されている軍服だ。
遠目でわかり辛いが、短髪で金髪の青年と、短髪より少し長めの銀髪で眼鏡の青年が少女の左右から剣を向け、琥珀色の長い髪を一つに束ねた青年が少女の背後から、そして正面からは
こちらからは後ろ姿しか見えないが、それが誰であるのかは
肩下まで伸びた漆黒の後ろ髪を一つに束ね、エターク王国の国旗である
一瞬、顔が
——彼だ。
間違えようがない。
「ルーカスさん……!」
「お兄様!」
イリアは彼の名を口にしていた。
同時にシャノンとシェリルの声も
彼が来てくれた。
その事実に嬉しさと安心感が胸を占めた。
『君を助け、君の力になる』
名を
単純に王都で起きた騒動を鎮圧するために来たとも考えられる。
けれど、例えそうだったとしても。
彼が駆け付けてくれた事を嬉しく思う気持ちに嘘はない。
どんな形であれ、彼が来てくれたと言う事実がたまらなく嬉しかった。
剣を向けられた少女に動きはない。四方から
(彼が来てくれたのなら、大丈夫)
その強さは伝え聞くだけだったが、不思議と信じる事ができた。
ぷつりと、イリアは自身の中で、張り詰めた緊張の糸が切れる音を聞いて、力が抜けた。
足がふらつき、バランスを保つことができない。
倒れそうになって、崩れて——その場に膝を付き、座り込んでしまった。
「大丈夫ですか!?」
双子の姉妹を治療しているリシアの焦った声が聞こえた。
シャノンとシェリルも「イリアさん!」と、名前を呼んでいる。
急に座り込んだから心配させてしまったのだろう。
イリアは振り返り、困ったように笑って見せた。
「大丈夫、ちょっと力が抜けちゃっただけ」
何だか格好がつかなくて、照れ隠しに頬を掻いて笑って見せた。
その様子にこちらの無事を確かめた三人は、ほっと安堵のため息をついていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます