第八話 ルーカスと幼馴染
騎士団本部は、王城のほど近くにある。
両者は渡り廊下で行き来が可能だ。
騎士団本部の外に設けられた演習場からは、白をベースとした壁に屋根は赤色の、
王城と同じ配色の、けれども形状は異なり
そうして特務部隊の執務室へと続く廊下を歩いていたところで、一人の青年に声を掛けられる。
「やあルーカス。久しぶりだね」
まず飛び込んできたのは、キラキラと
閉じられた瞳は山なりの
髪色は彼の
身長体格はルーカスと変わらない位。
その両脇には帯剣して、王国軍を
ルーカスが青年に対して臣下の礼を取ると、青年の瞳を覆っていた
その美しさから宝石の
「ゼノン殿下。ご
彼はゼノン・ティル・グランルージュ・エターク。
エターク王国第一王子、王位継承権第一位にあるこの国の
「
ゼノンが肩を
だが人の目のある場所で、皇太子の立場にある彼への礼を失する訳にはいかない。
「
「その頑固さは
「これから仕事なのですが」
「気にするな。
(……横暴だ)
そうは思うが——この
本来であればこの後、国境の偵察から戻った団員、幼馴染でもあるディーンから報告を聞き、新たな任務を任せる予定だったがやむを得ない。
ルーカスは渋々、命令に
「
こうなったらディーンも巻き添えだ——と、ちょっとした
それに、久しぶりに幼馴染が集まる良い口実になるだろう、とも考えた。
「ディーンが帰って来てるのか。それは是非とも呼ばないとね」
ゼノンが嬉々として護衛を伝令に走らせる。
ルーカス、ゼノン、ディーン——三人は幼少期を共に過ごした同い年の幼馴染。
その仲は公然の事実として知られている。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ルーカスはゼノンに連れられて、王城内の彼の私室へと場所を移した。
「勝手知ったる部屋だろう? 楽に
と、ゼノンに
ソファは座り心地が良く、座面は赤の布地にダマスク柄、金のフレームで作られた高級品だ。
部屋の広さや間取りは公爵邸よりひと回り大きい程度だが、家具や室内の装飾は金に彩られた物が多く、どれも名の知れた一流品が取り揃えられていた。
流石、王城と言わざるを得ない。
これまでも幾度となく訪れ、その頃から大きく変わらない幼馴染の部屋を見回していると、王宮の侍女が訪れた。
侍女は上品な
そうして自身の仕事を終えると、速やかに退出した。
ルーカスはそれを見届けて、用意されたティーポットを手に取り、カップへ紅茶を
ルーカスとゼノンの二人分。
注ぎ終えると、それぞれの席のテーブルの上へ置いた。
ルーカスはカップを持ち、唇に寄せて紅茶を一口含む。
「茶葉も一流品だな」と、思いながら独特の
「……それで、聞きたい事は?」
カップを手に持ったまま、ゼノンに問い掛ける。
「銀髪の歌姫」
カップを手に取り、紅茶を口に含んだゼノンの視線がルーカスへ向いた。
「彼女を拾ってから職務も手に付かない程、ご
「誰がそんな事を……。定時上がりを心掛けているだけで、そんなんじゃない」
「叔父上と同じくワーカホリックな君が定時上がりねぇ。しかも騎士団で保護も出来たのに、有無を言わさず公爵家の客として迎え入れただろ?」
反論出来ずに押し黙る。
彼女を守らねば、との思いから気が急いて、公爵家の客として迎え保護した事は確かだ。
「冷静沈着と評価される君が、感情に流されて私的な行動を取るなんて、見事に
娯楽に飢えた噂好きの貴族にとって、この手の話題は何よりの好物だ。
ある事ない事、尾ひれがついて回っているのだろう。
「で、何者なんだい?」
「それはオレも気になるな~」
ゼノンに続いて、部屋の出入り口から低くて陽気な男の声がした。
視線を向ければ、声の主——日焼けした肌に
容姿は整っていると言えるだろうが、着崩した軍服や、男がお洒落と称して顎に生やしている僅かな髭から
「ディーン、早かったね」
ゼノンが
ディーン・アシュリー。
彼はアシュリー
ルーカスにとっては部下でもある。
「
彼はテーブルの前に辿り着くと、まずケーキスタンドを
そして、その中からマカロンを一つ
「で、何者なの? ルーカスを射止めた銀髪の歌姫は」
二人の視線がルーカスに突き刺さった。
どちらも
ルーカスは視線から逃れるように
元より彼女の事は話すつもりでいた。
だが、こうも面白半分に迫られると、
(俺とイリアはそんな関係じゃないんだけどな……)
彼女はかつて
幼馴染達が期待しているような関係とは程遠い。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます