第一章 ゴブリンたち 第四話 里の者たち
「環濠集落だな、まるで。」
ダァが里に入って行くのを見送ると、正人たちは里の外で待たされている。
「かんごう・・・、なんだそれ?」
ダァに代わり、正人の隣に座ったダギが疑問を口にする。
「
簡単な説明だが、ダギはそれで納得したようだ。
「ですが、水の入っていない
そう指摘したのはメイド型
「水が不足しているというわけではなさそうですが。」
そしてもう一人、
ニューはミューとそっくりな姿をしているが、それもそのはず、双子の姉妹として誕生しているのだ。
そしてこの二人には、他の仲間たちとは別の役割も与えられている。
ここに来るまでにダギとダァが話していたところによると、里の中で農作物を育てているとのことだから、水不足ということではないだろうと予測されるのだ。なにせ農作物を育てるには、大量の水を必要とするのだから。
「里の中に大きな池があるんだ。その池の水を使って農作物を育てている。」
飲料用をはじめとする生活用水には、井戸を掘って賄っているとのことだ。
いくら大きな池があるとはいえ、旱魃などで涸れる可能性がある。そのために分けて使用しているのだという。
地下で水脈が繋がっていたら、分けていても無駄な気がするのだが、そこはあえて言わないでいる。
尤も、少し離れたところに万年雪に覆われた高い山々が連なる山脈があるので、簡単に枯渇することはないと思われる。
そんなことを考えていると、
「
アルファの指摘が耳に入ってくる。
「まったくアイツは・・・」
ダギが呆れたように呟くと、近くにいる部下に手土産を持たせて里に走らせる。
「婚約者もいるんだから、もう少し落ち着いてほしいものなんだがなあ。」
ぼやくダギ。
「へえ。ダァには婚約者がいるのか。」
「ああ。アイツももう一〇歳だからな。人族の慣習はどうかは知らんが、俺たち
「そうなのか。人族なら、早ければ十五歳くらいだな。」
「そうか十五歳か。
ダギはそう言って笑う。
今までは職務に忠実にという意識からか、
「十五歳で結婚できるのも、王侯貴族か後継が早く欲しい裕福な家くらいのものさ。
たいていは二〇歳前後でするもんだよ。」
「二〇歳前後か。
彼らの認識では二〇歳は壮年期になり、二十五歳で初老と呼ばれるのだとか。
寿命も三十五歳から四〇歳というところらしい。
「まあ、うちの
ダギの祖父はもう五〇歳になるとか。里では最長老にあたるそうだ。
「うちは長生きの家系らしくてな。曾祖父さんは六〇まで生きたそうだ。」
人間に換算すると一〇〇歳くらいに相当するのだろうか?
正人はふとそう考える。
ダギとの会話は、色々と
ーーー
「祖父ちゃん!!」
ダァは里の中でも
「ダァ!族長は大事な会議の最中だぞ!」
叱りつけるのは父のダレだ。
「それに、”祖父ちゃん”ではなく族長と呼べと言っているだろう!きちんと公私の別を弁えろ!!」
「いいじゃんか、そんなこと。」
ダァは唇を尖らせて言う。
「お前にとっては細かいことかもしれんが、里の秩序のためには重要なことだ。」
ダレとしては大人として扱いたいのだが、本人にその自覚がない。自覚を促すために婚約者も決めたのだが・・・
「ダレ、そこまでにしておけ。」
族長がそう言って親子のやり取りを止める。
「ダァ、何があったのかを説明してくれるか?」
ダァが来るまでは
ダレとしては族長のこの態度も問題だと思っている。
周囲の者からしたら、公平さを損なっているのではないかと言われかねない行為だからだ。
そんな苦虫を噛み潰したような表情のダレを無視して、族長はダァと話を続ける。
「ほう、人間が我らと通商を求めに来たと。」
話を聞き、族長は目を細めて呟き、
「通商?人間たちがか?」
ダレは驚いたように口にする。
族長とダレは顔を見合わせ、
「その通商とは何を取り引きしようとしているのだ?」
ダレがダァに問いかける。
実のところ、族長やダレには人間たちがこの
事実、この里の近くにある人間の街と取り引きがあるものの、それは木材が主力産品であって、工芸品や農作物はあまり売れない。売れるとしたら、冬に備えての
そのことを彼らは良く理解しており、だからこそ人間が通商を求めてくるなどとは思えないのだ。
「あれれ?」
ダァは自分の手や周りを見る。
相手が持たせたはずの手土産を忘れてきたことに、やっと気づいた。
「ダァ!!手土産を忘れてるぞ!!」
ここで、ダギが走らせた部下が到着する。
「これが相手の人間からの手土産になります。」
こういう時の手土産というのは、文字通りの手土産と売りたい商品のふた通りの意味がある。
綺麗な装飾を施された木箱を丁重に開けると、見たこともない透明度のガラスのコップと、薄い茶色をした粉状のものが現れる。しかもガラスのコップには、これまた見事な細工が施されており、手先が器用なことで知られるドワーフたちですら、おそらくは作り得ないものに思われる。
「ほぉっ!!」
感嘆の声を上げる族長。
「これは砂糖か!!」
薄い茶色の粉を舐めたダレは大きな声をあげて驚いている。
どちらも相当な高級品だが、それに見合う物がこの里にあるとは思えない。
そして、おそらくは相手もそのことを知っているはず。
ならば、なにを求めて通商などと言うのだろうか?
族長とダレは再度、顔を見合わせて頷く。
「ダァよ。その客人を里まで案内して差し上げなさい。」
その言葉を聞くと、ダァは喜び勇んで走り出した。
その後ろ姿を見ながら、
「ダァの話では少人数で来ているという。ならば、我らにとって悪い話を持ってきたというわけではあるまいて。」
族長は自分に言い聞かせるように口にし、それを聞いたダレも大きく頷いていた。
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