第一章 二話 出会い。

「あれ?人間じゃないか?

 どうしたんだろう、こんな森の奥で。」


 最初に正人らを発見したのは、この辺りでは最大の部族であるダー族族長の末息子ダァだった。

 もちろん、ダァ一人だけがここにいるのではなく、自警隊の一員としてここにいるのだ。


「ダァ、何を見つけたんだ?」


 声をかけたのはダァの何番目かは忘れたが、かなり上の方の兄“ダギ”だ。今回の自警隊隊長を務めている。


「あそこに人間がいる。」


 ダギは末弟が指し示す方向を見て、


「確かに人間のようだが・・・。」


 人間がこんな森の奥深くまで来ることはほとんどなく、それに人間が来るとしたら逆方向からのはずだ。

 なにせ、人間が来た方角には険しい山岳地帯があり、そこに住んでいるのは坑人ドワーフか巨人族くらいで、人間が住んでいるとは聞いたことがない。


 そしてもう一つ疑念があるのだが、ダギはそれをこの場では口にしなかった。


「奇妙だな。男一人に後は女ばかり五人、いや六人か。」


 この数が逆ならばダギにも理解できるが、女の方が多いというのは理解し難い。なにせ、人間たちは自分たち小鬼族ゴブリンは人間の女を襲うものだとしているのだ。

 それなのに、小鬼族ゴブリンの住む森に行くのに、明らかに女の方が多い商隊など組むはずがない。


 考えながら人間たちの様子を伺うが、


「!!」


 女の一人と視線が合った。


「どうしました、隊長?」


 部下の一人が声をかけてくる。


「あちらも、こっちに気付いてる。」


「まさか?」


 部下が疑念を漏らすが、ダギはそんなことよりも思考を巡らしている。


 気づいているのに何もしてこないというのは、少なくとも敵対しようという意思はないと思われる。

 そうはいっても、友好的であるとは限らない。

 それに、目が合った女は相当な手練れに見える。


 このまま先に行かせると、自分たちの部族の里に到達してしまうことになる。もしもの場合、里に犠牲者が出る可能性もある。

 だからその前に、あの一団の目的を明らかにしなければならない。そのためには接触を図るしかないだろう。


「あの人間たちに接触しよう。敵対する意思は無さそうに見えるが、だからと言って何もしないで里まで行かせるわけにはいかないからな。」


 ダギはそう部下に言うと、奇妙な人間の一団を先回りすることにした。



 ーーー



ご主人様マイ・ロード小鬼族ゴブリンたちは私たちに気づいたようです。」


 正人にそう報告するのはアルファだ。メイド型人工生命体ホムンクルスのリーダーである彼女は、正人の最側近といってもよい立場にある。正人が最初に作成した人工生命体ホムンクルスであり、その為か正人の拘りが詰まっている。


 長く美しい艶やかな黒髪が似合う日本人形のような姿を持ち、他のメイド型人工生命体ホムンクルスとは違って服装も和服を着ている。


「そうみたいだね。」


 正人の方も小鬼族ゴブリンたちの動きは掴んでいる。

 これは、ウイルドに徹底的に叩き込まれた“探知魔法”のおかげだ。

 身の安全を守るには、まずは相手を探知することからと、最初に覚えさせられたのが探索魔法だった。


「思ったより早い接触になりそうだね。」


 荷台の上で大きく伸びをする正人。


 ちなみにこの荷台を引いているのは、農業用運搬車両てあり、それを運転しているのはイオタ。藍色の長髪と大きな丸眼鏡が特徴的なメイド型人工生命体ホムンクルスである。

 服装も普段とは違い、つなぎの作業服を着ている。


ご主人様マイ・ロードぉ、もっとスピードを出していいですかぁ?」


 間延びした声で許可をもらおうとするイオタに、


「ダメ。」


 と一言。


「相手に接触してもらわないといけないのに、スピードなんか出したら相手が追いつけなくなるだろ?」


 正人はそう言うのだが、イオタは不満なようである。


農業用運搬車この子の運転席って、クッションが弱くてお尻が痛いんですよぉ。少しでも早く小鬼族ゴブリンの里に着いて、解放したいんですよぉ。」


 半分、泣きが入ったような声で許可を求める。


「最初からわかってることだろ、クッションが弱いことは。なんで対策をしないかなあ。」


 ぼやく正人だが、ぼやいてばかりもいられない。探知魔法によれば、そろそろ小鬼族ゴブリンと接触する頃合いなのだから。



 ーーー



「ごごがら先は、小鬼族われわれの里。何が用が?」


 現れた小鬼族ゴブリンたちは人語を使い、問いかけるのだが、種族的な特性なのか口腔や発声組織の構造の問題なのか、濁音がやたらと多くて聞き取りづらい。


「%#〆々〒#%」


 正人が返した言葉に小鬼族ゴブリンの面々は驚愕の表情を浮かべ、それぞれの顔を見合わせている。

 その中で一人、人懐っこい表情をした小鬼族ゴブリンが飛び出してきた。


「%°☆$×〆〒€」


 感心した様子でダギとの間に割り込んできたのが、正人とダァとの出会いだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る