プロローグその2

 ヴァルコニーで領民に挨拶をした後、正人は謁見の間に移動する。


 正人の隣に天使ウイルドが並び、その二人に続くように右にメイド姿の人工生命体ホムンクルス十二人と、執事姿の男装の麗人風の人工生命体ホムンクルス十二人が付き従う。


 この二十四人の人工生命体ホムンクルスはメイドや執事として正人に仕えるだけでなく、護衛として絶大な戦闘力も与えられており、それこそドラゴンあたりならともかく、鬼人オーガ兵一〇人くらいならば一人で殲滅させることができ、別名を女性戦闘団アマゾネスと畏敬を込めて呼ばれている。


 メイド姿の方はギリシア文字のαアルファからμミューまでの順に名が与えられており、執事姿の者たちはギリシア文字の最後の文字Ωオメガから始まりνニューまでの名が与えられている。


 配下の種族の代表たちが待っている謁見の間に入ると、完全武装した天使型アンドロイド二十四体が玉座までの道を作っている。

 彼女らはウイルドが指揮する戦乙女ヴァルキリーと名付けられた集団であり、彼女らにはルーン文字から名付けられている。


 本来ならウイルドが指揮するのだが、今のようにウイルドが正人の側に控えていたりする場合は、フェオと名付けられた個体が代理で指揮をとることになっている。


「大魔王様、万歳!!」


 正人が玉座に座ると、小鬼族ゴブリンの長“ダレ”がありったけの声量で叫ぶ。

 正人配下の中で、最も貧弱と思われる小鬼族ゴブリンが最初に声を挙げる栄誉を授けられたのは、最も早く配下になったのが彼ら小鬼族ゴブリンだからである。


「大魔王様、万歳!!!!」


 ダレの声の後に、全種族の者たちが唱和する。


 万歳三唱が終わると、正人は皆を労うように手を挙げて、玉座から謁見の間にいる者たちを見渡す。


 小鬼族ゴブリン鬼人族オーガ蜥蜴人族リザードマン人馬族ケンタウロス猪人族オークをはじめとする獣人族に竜人族ドラゴニュート吸血鬼族ヴァンパイア淫魔族サキュバス巨人族タイタンの族長はその巨体ゆえに謁見の間には入れなかったが、族長の息子が代理として参じている。


「今日、この城の落成とともに、私は“大魔王”としてこの世界に正式に君臨する。

 我に逆らいし者ども、我が意を汲み取れぬ者どもに、この場において宣戦を布告するものである!!」


 短いが力強くわかりやすい言葉に、謁見の間は歓声に包まれた。



 ーーー



「なんでこうなった?」


 謁見の間から、用意された豪華な私室に入るとウイルド相手にそう零す。


 それに対してウイルドは冷ややかに答える。


「正人様が、自分の正義感に基づいて動いた結果ではありませんか。」


 この世界は正人のいた地球とは違うのだから、その倫理観も社会制度も違うのだと何度も忠告したにも関わらず、それらの忠告を録に聞き入れもせずに行動した結果が、大魔王就任とこの世界のほとんどの国に向けた宣戦布告の発布である。


「でもさ、みんな人間とかに虐げられてたんだよ?

 そんなのおかしいじゃないか。」


 そう、正人の配下になった者たちは、奴隷にされたり搾取されたり、見た目が人と違うからと討伐対象にされていたりした者たちばかりだ。

 さらには、そんな者たちと共存していたからと迫害された人間もいる。


 確かに義侠心からの行動とみれば、正人の行動は正しいだろうとウイルドも思う。

 だが、


「正しいからといって、自分が行ったことがどのような結果をもたらすのか、今少し考えを巡らしてください。」


 あえて苦言を呈さなければならない。

 誰かがブレーキをかけなければ、正人は文字通りの大魔王となってしまうのだろうから。


「どうやら御自覚が無いようですので、これより資料室に参りましょう。

 そこで、この世界に来てより一〇年、その行動をよく振り返っていただくことにしましょう。」


 ウイルドは配下の天使型アンドロイドヴァルキリーに命じて正人を拘束すると、資料室に連行するのだった。




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