異世界にて天空の城をもらいました〜思うままに過ごしていたら、大魔王と呼ばれてしまった〜

久万聖

プロローグその1

「大魔王様、万歳!!」


 地上に新しく築かれた巨大な城のバルコニーに現れたその存在を見た者たちが、一斉にそう歓声をあげる。

 歓声をあげるものたちの種族は様々だ。小鬼族ゴブリン鬼人族オーガといった鬼族、猪人族オーク人馬族ケンタウロス等の獣人たち。蜥蜴人族リザードマン竜人族ドラゴニュートらもおり、さらには吸血鬼族ヴァンパイア淫魔族サキュバス等、魔族と呼ばれる者たち。身長10メートルを超える巨人族もいる。

 そして、大魔王と呼ばれる者の統治を受け入れた人間たち。


 大魔王の地上における居城として築かれた“リルフェン城”の主殿の上空には、これまた宙空に浮かぶ城の威容が他を圧するかのようにそびえている。


 大魔王と呼ばれた者はバルコニーから手を振ると、奥に戻っていく。その姿に歓声が再び大きくなっていった。



 ーーー



「なんでこうなったんだ?」


 大魔王と呼ばれた者、山井正人やまい・まさとは自室のソファに崩れ落ちるように座り込むと、思わずぼやきが出てくる。


 この世界に転移?転生?したのは5年前。

 その時にこの世界の創造主という存在により、宙空に浮かぶ城を貰ってこの世界にやってきた。


 この世界に来ることになった理由も酷いものだった。

 なんでも創造主の部下の手違いで死ぬことになり、その罪滅ぼしのためということなのだが・・・。



 ーーー



「申し訳ありません!!

 まさか同姓同名の他人にあのような人生を送らせてしまいまして・・・」


「同姓同名?」


 あの世とやらなのだろうか?

 テーブルを挟んだ向かいの椅子に座っているのは創造主と呼ばれる存在で、自分の座る席の横に土下座して弁明しているのが創造主の部下。一般的には天使と呼ばれる存在らしい。


「同姓同名でも、生年月日は違うんだろ?

 それなのになんで間違うんだ?」


 当然の疑問をぶつけると、創造主は本来なら見せてはいけないものだと前置きした上で、ファイルのようなものを手渡してくる。


「・・・、なにこれ?」


 ページをめくってすぐに飛び込んでくる基本データ。


山井正人やまのい・まさと?」


 完全に同じ漢字だ。

 同姓同名というのはすでに言われていたが、読みだけかと思ったら読みは違うが漢字は同じ。

 しかも、“やまい”と“やまのい”って・・・。


 血液型O型RHマイナス。これも同じ。

 RHマイナスって少なかった気がするのだが・・・?

 星座も同じで干支も同じ・・・


 まさかと思い、生年月日を確認すると、


「ここまで同じかよ!!」


 思わず絶叫してしまう。


 生年月日に生まれた時間まで同じって、これはミスしない方がおかしいレベルだろう。

 しかも、生まれた病院まで・・・。


 思わず眉間を抑える正人に、


「間違えた理由はよくわかったかと思う。

 この者の犯した失態を、どうか許してやってほしい。」


 創造主は頭を下げる。


「そんな、謝らないでください。」


 慌てて創造主を止める。


「それよりも、一つだけ教えていただきたいのですが?」


「それは、本来なら貴方が歩む人生を送るはずだった山井正人やまのい・まさとのことですね?」


「はい。」


「彼なら・・・」


 創造主は正人の疑問に答える。

 創造主の言葉によると、その人物は若い頃に重病に侵されたものの回復し、現在では結婚もして幸福な家庭を築いているのだという。


「嫉ましいですか?」


 不意に創造主から尋ねられる。


「そりゃ、羨ましいとは思いますが、嫉ましいとは思いません。

 彼の両親は、きっと必死になって支えてくれたのでしょうから。」


 羨ましいのは、支えてくれる家族の存在だ。自分にはそんなのは居なかった。いや、居なかったというのは少し語弊があるか。

 自分が難病に侵され2年が過ぎたある日、家族は居なくなった。

 自分になにも言うことなく、姿を消したのだ。

 それ以来、両親や兄弟たちとは一度も会ったことはない。


 見舞いに来るのは遠く離れたところに住む両祖父母と、海外で起業した伯父さんくらいのもの。それも年に一度か二度くらいのものだった。


「そうですか。

 ただ、私たちとしても手違いで死なせてしまったことに、深く謝罪をいたします。」


 創造主は言葉通りに深々と頭を下げる。


「そして、代わりと言うのもおかしいのですが、別の世界で生きてみたいとは思いませんか?」


 本来ならば、元の世界に戻すのが筋だとは思いますがと付け加えつつ、提案をしてくる。


「元の世界には戻れないのですよね?」


「残念ながら、元の世界に戻るには輪廻の中に入らなければなりません。

 元の世界に生まれ変わるには、少なくとも100年の時が必要になりましょう。」


 それでも人間として生まれ変わるとは限らないとのことだ。


「他の世界・・・。」


 逡巡する時間は無かった。


「わかりました。

 ご提案を受け入れます。」


 そう答え、幾つかの要望をだすと、創造主はそのほとんどを受け入れる。

 それも、自分たちのミスが原因なのだからとのことだ。


 そして幾つかの取り決めをした後、正人の横で平身低頭していた天使を見ながら


「この子も連れて行ってください。

 今回のミスを取り返す機会をあげて欲しいのです。」


 そう創造主が要望を伝える。

 名誉挽回と言われたら、それを断る理由はない。


 了承を得た創造主が天使の名を呼ぼうとした時、正人が慌てて、


「その名前は、真名(まな)ではないのですか?」


「ええ、そうですがどうかしましたか?」


「いえ、天使とかって、真の名を知られてはならないとかって本で読んだもので・・・」


「なるほど、そういうことでしたか。」


 オカルト系の本の中には、天使や悪魔は真の名を知られてはならないというものがあり、正人はそのことを気にしているらしい。


「それならば、貴方が呼び名をつけてあげてください。

 貴女もそれで良いですね?」


 正人にそう提案すると同時に、天使にも確認を取る。

 天使の方が、それでかまわないと返答したため正人は少し考える。


「“ウイルド”でどうかな?」


「は、はい、それでかまいません。」


 天使はそう答え、


「ウイルドとは、随分と意味深な名前ですね。」


 と創造主は感想を述べる。


「意味深とは?」


 疑問を抱く天使に、


「その意味はいずれわかる時が来るでしょう。」


 と、創造主は天使に言うと、


「さあ、新たな世界での生を楽しんで来なさい。」


 正人に向き直り、新たな世界への扉を開く。


「はい、行ってきます。」


 正人は創造主に笑顔で返事をすると、ウイルドと名を付けた天使とともに扉を通って行った。




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