第15話 新しく踏み出す
「まさかあんな無茶をなさるなんて」
この地にも静かに春が来て、雪が大地に溶け消えてからも、マリアは思い出したようにわたくしに言う。
あの後わたくしとアニタは、山に住む狩人とやらに背負われ、城へ届けられた。
わたくしを探すため、雪山で右往左往していた兵たちも
気絶していたわたくしがベッドで目を覚ますと、マリアからは
いわく、王都からの噂を信じて、わたくしのことを"身勝手なヒドイ王女だと思っていたことを許して欲しい"ということだった。
"幼い子どもを助けようと単身山に走る王族なんてみたことない。貴族にもいやしない"。
"どうか末永い忠誠を尽くしたい"と、村どころか領地をあげて言われた時には驚いた。
わたくしが身勝手で自分本位な王女なのは、間違ってないわ。
だってわたくしは第一王女で、それが許される身ですもの。でも。
(考えてみたら"王女"として命じることを封じられてても、"領主"としては命令出来たのよね)
この地はわたくしに与えられているのだから。
(思い浮かばなかったわ。わたくしらしい)
クスッと、苦笑いがもれる。
わたくしを助けた狩人は称えられるべきだから、礼を述べに山小屋へ行ったら、小屋から熊みたいな大男が出てきた。
頑強で、わたくしの何倍もある大きな体躯。
その男の声が、山で意識を失う前に聞いた声と似ていた気がするのは、触れないでおこうと思うの。
王女のわたくしに事情があるみたいに、きっと山の神にだって理由や都合があるでしょうから。
(ふふん。わたくしだって、"察する"ということを覚えたのよ)
機嫌良くしていると、マリアがいつもの笑顔で言った。
「王女様、春の種まきが楽しみですね」
「そうね。説明書が細かくて詳しかったから、きっとうまく育つと思うわ」
王都からはその後、わたくしが送った手紙の返事として、たくさんの荷が届いていた。
頼んでいた甘みが作れる
父王が詳しい人間に相談したみたい。
荷の宛先がわたくしであることまで、話したかどうかはわからないけれど。
びっしりと解説された栽培方法や精製方法が見覚えのある字だったから、わたくしは手紙に向かってそっと「ありがとう」と呟いた。
何度も「周りを大切にするように」と、わたくしに言い続けていた人。
耳横で言われていた時は、それがどういう意味が分かってなかった。
(心で人と繋がれば、あたたかな気持ちを贈り合えるということだったのね)
この地は寒いけど、マリアやアニタ、それに皆、わたくしの周りはとてもあたたい。
マルケスはいつか帰ってくるだろう。
それまでにこの辺境は、きっとずっと豊かになっているから!!
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