カタリナ視点

第12話 王女の予定外

「一体全体、どういうことなの?! わたくしは第一王女なのよ。なのに、この扱いは何?」



 すべて順風満帆に進んでいた人生。華々しい喝采、様々な栄誉。

 わたくしが歩けばすべての人間が頭を垂れ、視線を流すだけで見目好い貴公子たちが先を争いダンスを申し込んで来る。


 唯一不満なのは、婚約者である公爵家のファビアンが、年下のクセにやたら小うるさいこと。

 

 やれ予算を使い過ぎるな、侍女や侍従に無理を言うな。


(わたくしにはそれが許されているのに、ファビアンは何を気にしているのかしら)


 とはいえ身分はわきまえているらしく従順ではあるし、家柄はもちろん顔もスタイルも良い。

 

 アクセサリーのひとつだと思えば、多少のかたさは目をつぶれないこともない。


 そう、思っていた。


 けれど男爵家のマルケスに出会い、その考えは変わった。


(彼こそわたくしが求めていた相手だわ!)


 求めればすぐ応じてくれる気働き。

 女主人を常に褒めたたえることを忘れず、容姿はといえば天界の神の如く美麗を極めている。


 繊細な金髪に、秀麗な白い顔。長いまつげが、海色の瞳に濃い深みを落として、最高!


 多少身分が低いけど、一応は貴族。

 わたくしが父王にねだれば、きっと好きに引き上げて貰うことが出来る。

 それにわたくしが飼ってあげるのも一興。


 夜は満足させてくれて、"結婚前にあなたに手を出すことは出来ない"とかたくなだったファビアンとは大違い。

 わたくしを尊重したいからとか言っていたけど、それならわたくしの希望を聞いてくれるべきでしょうに。


「マルケスが良いわ」


 思い切りが良いのが、わたくしの魅力のひとつ。


 ファビアンに婚約破棄を言い渡し、新しい婚約者にマルケスを望んだ。

 未来は薔薇色に開けているはずだった。


 なのに。


 どうして今までのように買い物が出来ないの?


 ドレス代のツケをファビアンに回せば、「もう婚約者ではないから」と突き返される。

 わたくしの下僕のくせに、何を言っているのかしら。


 かと言って、貧乏貴族のマルケスに支払い能力はない。彼は愛玩用だし。


(ファビアンったら、わたくしが婚約を破棄したから、ねているのね)


 別にはべることを禁じたわけではないのに。

 

(難しい年頃だこと)

 

 家来として許しがたい行為だけど、長年に免じて許してやるわ。


 呆れたけれど、わたくしは寛大だから。



 そのうちに、なぜか周りの態度が変わってきた。


 茶会に出ても夜会に出ても。以前のようにわたくしを褒める声が減っている?


(ドレスや宝石にかける金額が減ったせいだわ)


 ファビアンの我儘ワガママのシワ寄せがわたくしに来ているなんて、どこまで迷惑なのかしら。

 しかもチラと見かけたファビアンは、丸眼鏡のダサい娘を連れ歩いていた。


 自棄になるにもほどがあるでしょう。高位貴族としての品格は守らないと。



 そんなある日、宝飾店で久々にファビアンと再会した。


 わたくしを横目に、いくつもの指輪を並べている。これでご機嫌を取ろうというの?

 でも豪華さが足りないわ。久しく離れている間に、わたくしの好みを忘れたのかしら。


 そっとアドバイスをしたら、違う相手に贈るのだと言う。

 なぁに、それ! 話にならない。


 甘い顔をしていたから、つけあがっているのね。

 王女として命じたら、訳が分からないことを言って後ろも見ずに去って行ったわ。


 帰りの馬車でファビアンの文句を言っていると、マルケスが賛同しながら素敵な提案をしてきたの。



 わたくしは、その提案をぜひ実行するようマルケスに言ったわ。


 だってファビアンの丸眼鏡を苛めて、隣国の王太子妃にも泡を吹かせることが出来る素晴らしい作戦だったもの。


 そうしたら。マルケスは捕まり、ボロボロになって返された。


 白皙の貴公子といった面影はどこへやら。顔がおかしく歪んでいるの。おまけに夜の従事が出来なくなったって、どういうこと?


 そんなマルケスとの結婚なんて、お断りよ!!


 わたくしは大声で泣き喚いて父王に訴えたけれど、聞き入れて貰えなかった。


 そして今、粗末な馬車に乗せられ、マルケスとふたり、辺境の田舎へと送られている。


 王都には父王の許しがない限り戻れないと宣言された。


 どうして? わたくしが何をしたの?

 わたくしは第一王女なの。皆に敬われ、大切にされるべき存在なのに!!



 父王やファビアンはいつ、わたくしを迎えに来てくれるの?


 婚約破棄なんて、ほんのシャレじゃない。よくあるファッションじゃない。

 どうしてこんなことになったのかしら。


 わたくしには約束された、未来があったはずなのに──。

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