第38話 お嬢様は魚市場へ

昨晩は、お嬢様達はフカフカのベッドで眠り、皆笑顔で起床した。


アリスとセシルは朝からネネの髪を整えてあげたり、世話を焼いている。


ネネはニコニコ笑顔だった。


しかしそこにメルの姿がない。


シェリルが言う。


「メルちゃん何処に行ったの?

朝起きたら居なかったんだけど。」


ミーアが答える。


「なんか〜まだ暗い内に出て行ったわ〜。

料理長さんと〜爺と朝市を見に行くとか〜。

海産物を見るんだって〜

私たまたま目が覚めた時言ってたよ〜。」


するとセシルがネネの髪を整えながら、メルへの尊敬の言葉を言い出した。


「本当にメルちゃんは凄いですわ。

公爵令嬢とは、こうあるべきなのですね。

サイラス様が王国にお米を広げようとしていますでしょ?

それは、今年の秋の小麦の収穫が芳しくない、いえ、今までないくらいの不作で食糧危機になると言われています。

お米を早急に広げようとされているのです。

メルちゃんは、お米……おにぎりの具材になりそうな物を市場に視察に行かれたのですね。

昨日も晩餐会の時、料理長に熱心に話を聞かれていましたもの。

バカンス中だというのに、王国の民の為に……。お友達として尊敬いたしますし、自分がメルちゃんと同じ行動ができないのが、とても歯痒いですわ。」


お嬢様達は、皆セシルの言葉に頷いた。


シェリルが言う。

「でも、小麦が不作で食糧危機になるっていう情報を知っているセシルちゃんもたいしたもんだよ。

そこは、流石伯爵令嬢じゃない?」


セシルが言う。

「情報を得て、それに対してどう動くのか。

私は、まだ行動に移せていないですから…。」


アリスが言う。


「セシルちゃん。私たちまだ10歳11歳よ。

普通は、情報を得ても動けないんじゃない?

大人達に任せるしか普通はないよ。

メルちゃんの場合は、サイラス様やレナ様みたいなお父様の寄子の方々がいらっしゃるし、爺や婆やのような手助けしてくれる人がいる。周りの大人がメルちゃんの言葉に聞く耳を持っているのが凄いんだよ。」


セシルが言う。


「人を動かす力がメルちゃんにはあるということですわ。

やっぱり私は尊敬しますわ。」


セシルは目を輝かせながら、そう強く言ったのであった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



皆がまだ寝ている時に王城を出たメルと料理長と爺。

料理長の案内で、まず港の水揚げを見に行った。


港の少し開けた所に所狭しと荷馬車が並んでいる。


メル達は料理長も含めて、フォスター家の白馬車で来ていた。

王城用の海産物は、何も言わなくても最高級の海産物が城に運ばれてくるのだ。

なので料理長は、あくまで案内の為に同行しているのだ。


料理長が港の関係者に白馬車の白馬を見ておくように告げ、料理長の案内で港を歩くメル。

爺は、メルに危険がないよう注意しながら歩いていた。


料理長は、王城専属の料理長ということもあり、すれ違う人達から一目置かれているようだ。

すると少し開けた所で、かなりの人が集まっていた。なにやら掛け声のようなものが聞こえる。


(金貨300!さあないか!こちら350!

350さあないか!こちら380!ないか!

380!さらに声はないか!

ないようなのでそちらの方!金貨380枚でお買い上げ!ありがとうございました!)


見ると、メルの体の2倍以上あるかと思われる巨大な魚が地面に置かれていたのだ。


「料理長〜あの魚〜魔物?

凄く大きいね〜。なんなの?」


「メル様!あれは、魔物ではありませんよ。

マグロと言う魚です!

体はデカいですが、人を襲うことはありません!」


「金貨380枚〜高級魚なのね〜。

ここで〜さっきみたいに買い値を言うと買えるんだ〜」


「まあ、そうですね。あのような形をセリと言います。

まあ、私はセリに参加することはないですが。

王城の分は最高級の物を取り置きしてくれていますからね。

セリ合うことはありません。

良い物は、セリにかけて価格を吊り上げるんですよ。まあ、これも漁業という命がけの仕事をしている者の金の稼ぎ方の一つです。

それはそうと!マグロ!メル様、気になるのではないですか!メル様!どうぞこちらへ!」


料理長がメルを促して、先に歩いて行く。


そこには、魚や貝やエビ、海産物を広げている店が連なっていた。


メルは、興味津々でキョロキョロ見ていた。


沢山の人が行き交っているので、小さなメルが突き飛ばされないよう爺がメルを守るように動いていた。


そして、料理長が一つの店で足を止めて店主らしき者に声をかける。


「久しぶりに来たぞ!

元気にしてるか!」


「これはこれは!料理長自ら!

どうされましたか!」


「今日は大切なお客様をお連れしたんだ!

お前達でもわかるだろう!

メル様だ!命を助けて頂いた恩人だぞ!」


「えっ!メル様!

あっ!本当だ!メル様だ!

メル様!あの時はありがとうございました!

おかげで商売も続けることができています!

ありがとうございます!」


メルは、笑顔で手を振る。


料理長が言う。


「おい!マグロ水揚げされているようだな!

最高級のマグロは取り置きしてるんだろうな。」


「勿論でございます!

見られますか!どうぞ、中へ!

メル様も!

滑りやすいのでメル様気をつけて下さい!」


料理長に続いてメルと爺も中に入る。


中に入ると言っても並べてある食材の端を通ってその奥に行っただけだが。


奥には大きな箱が置いてあった。


「さあ、見てください!

最高級のマグロです!」


店主が箱の蓋をはずす。

現れたのは、先程の金貨380枚のマグロよりもう一回り大きいマグロだった。


「うわぁ〜とても大きいわ〜

さっきのより大きい〜!」


料理長がドヤ顔でメルに言う。


「どうです!これが、今日の水揚げされた一番のマグロです!

おい!店主!半身捌いてくれ!

メル様は、おにぎりの具材をお探しなんだ。」


「おお!おにぎりの具材ですか!ということは、ネギトロですね!

わかりました!すぐ捌きますね!」


そう店主は言うと大きなノコギリのような物でマグロを捌きだした。


その横で料理長は、持ってきていた箱からネギを出して刻み出した。

箱にはお米も入っていた。


どんどん店主は切り分けていく。


赤身とトロと呼ばれる脂の乗った部位など切り分けていた。


料理長は切り分けられた赤身を手に取り、包丁で切っていく。

そして、皿に醤油とよばれる調味料を入れて、メルに言う。


「メル様!これは、マグロの赤身の刺身という生で頂く料理です。

生が抵抗あるかもしれませんが、食べてみてください!とても美味しいので!

執事の方もどうぞ!」


メルと爺は、きりたての赤身の刺身を醤油を少し付けて食べる。


「もぐもぐごくん。うわあ〜美味しい〜

口あたりがサッパリしてるけど、この醤油がまざりあって、奥深い味だわ〜。」


「ほう!こっこれは美味いですな!

米に合いそうですな!」


メルも爺もそう絶賛しながら更に食べる。


料理長が言う。


「美味いでしょう!これも米に合うんですが、おにぎりには今からつくるネギトロが最高なんですよ!」


そう言って料理長は脂ののったトロと言われる部位を細かく包丁できりだした。

最後は叩くようにペースト状にする。

そこに先程刻んだネギをまぜる。

そして醤油を少し足らす。

そして、持ってきたお米でおにぎりを握る。

中にネギトロを入れて。


料理長は2個おにぎりを握った。


「一個づつ、食べてみてください。

その前に、ネギトロだけ先に食べますか?」


そう言っておにぎりとスプーンにネギトロを乗せて渡した。


メルと爺はまずスプーンに乗ったネギトロを食べる。


「うわぁ〜何これ〜凄い!溶けたよ!

ネギと醤油とマグロの〜凄いハーモニーだよ〜」


「これは、たまりませんな!おにぎりの方も頂きます。

もぐもぐもぐもぐごくん。

最高です!もう他に言葉は要らないでしょう!」


メルも一心不乱におにぎりを頬張っている。


そんなメルの姿を見て料理長も笑顔だ。


すると、店主が何やら焼きだした。

そして、焼いた魚の身をほぐしその身にマヨネーズを混ぜる。

料理長がそれを見ておにぎりを握る。

中の具材は店主が今用意したものだ。


料理長が言う。


「メル様!店主が用意した具材で鮭という魚の塩漬けを焼いてマヨネーズを和えた、鮭マヨおにぎりです。」


メルと爺は鮭マヨおにぎりに手を伸ばす。


もう二人に言葉は無かった。


うんうんと頷きながら満足そうに、おにぎりを頬ばるのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


王城では、朝食がお嬢様達に振る舞われていた。


「メルは帰ってこないではないか!

どうなっているんだ?

メルもお腹が空いておるであろうに。」


アラン王子が朝食を担当している料理人に言う。


「……おっ恐らく、朝食は市場で食べられているかと…。料理長がお米を炊いて持っていっておられるので…。

現地でおにぎりを食されると申しておりました。」


「市場に行くとは聞いたが、朝食は聞いてないぞ。おにぎりくらい、ここでも作れるだろうに!」


アラン王子がそう言った時、扉が開いてメルと爺、料理長が入ってきた。


メルが言う。


「王子は〜わかってないわ〜。

王子〜マグロって魚見たことある〜?」


「まっマグロか?知っているぞ!赤身の魚だ。」


「どれくらいの〜大きさなのか〜知ってる〜?」


「そっそれは………」


「知らないでしょう。

現地に行って〜実際に水揚げされた物を見ないと〜何もわからないわ〜。

私の体の倍くらいある大きな魚なの〜

金貨380枚でセリにかかってたわ〜。

何も見ないで金貨380枚、それだけ聞いたらそんな高級魚おにぎりにするのは無理だと思うでしょう。

でも実際に、現地で捌いてもらって〜

マグロのほんの一部で沢山の〜おにぎり具材が〜できることが〜わかったわ〜。

とても有意義な視察でした〜。

本当に料理長には〜感謝してもしきれないくらいだよ〜。料理長ありがとう。」


「滅相もございません!メル様のお力になれたのなら幸いでございます。」


「アラン王子も〜もっと〜ご自分が食されている食材について〜詳しく知ることが〜

大切ですよ〜。

一匹のマグロを取るのにどれだけの人がかかっているのか〜マグロが民の口に入る前に、セリという形で売買されているとか〜知らないなら〜知るべきです。

一国の王子なんだから〜。」


「………はっはい。精進します。…」


アラン王子は、メルに諭されて、小さくなるのだった。

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遺伝の力で無双する!創造魔法を駆使して世界を平和に!お嬢様は世界最強!? ヒロロ @takuhiro3130165

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