第37話 お嬢様のモノづくり

メル達は、近衛騎士団と一般兵士の訓練場から去った。

王太子は、その後その場に残り近衛騎士団に説教をしている。

メル達は、王太子妃に誘われてサロンにお茶を飲みに行くことになった。


サロンに行くと王妃も居て、王太子妃とともにメルだけ別室に連れて行ってしまった。


残されたお嬢様達とアラン王子とジョルノは、サロンの椅子に座り、給仕が入れるお茶とお菓子を楽しむことになった。


何やら落ち着かない様子のアラン王子。

その様子を見たセシルが口を開く。


「どうしましたか?アラン王子。

何やら落ち着かない様子ですが?」


「当たり前であろう。

王妃と王太子妃がメルを別室に連れて行ったのだぞ。

別室でお茶をしてるのだろうが……

そこで又メルが何を言うのか……

怖い。怖すぎる。」


それを聞いてジョルノが言う。


「ハハハッ!王子!そんなに心配するくらいメル様に弱味を握られているのですか?!

それは、ご自身の身から出たサビというものですよ。」


「…………ジョルノ……お前は良いよな!

お前は褒められることはあっても叱られることはないだろうから。」


ミーアが言う。


「怒られるような〜ことをしたのですか〜?

メルちゃんも〜嘘は言わないよ〜。」


シェリルが頷く。

そしてアリスが言う。


「しかし、メルちゃんの場慣れ感が凄いんだけど。王妃様と王太子妃に連れられて行く時もニコニコしながら行っちゃったし。緊張もしてないんだから。」


シェリルが言う。

「さっきの近衛騎士団への指摘なんかも、堂々としたもんだったね。

それに気づいたことも凄いけど、それを口にできることが凄いわ。」


セシルが言う。


「ふふふっ。それが、公爵令嬢のお姿なのでしょう。

王国国王陛下のお孫様なんですもの。

聖女ローザ様に幼き時から厳しく指導されたと言っておられましたわ。」


皆が一斉に納得したのだった。


その頃当人であるメルは、普段通りの有り様で、クリームたっぷりのケーキを堪能しながら、王妃と王太子妃と楽しくお喋りしていたのだ。

決してアラン王子が恐れているような話ではなく、メルから王妃や王太子妃にトーア国の食について色々聞いていたのだ。

メルのおっとりとしたいつもの口調で続く会話は、王妃も王太子妃も自然と笑顔が溢れる時間となったのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ラトリシア侵攻をメルの魔法によって阻止され、帝都に敗走した勇者サトルは荒れていた。


「皇帝!どうなっている!

あんな凄い魔法士がラトリシアにいるなど聞いていないぞ!」


「まあまあ、落ち着くのだサトルよ。

山二つを崩すほどの伝説級の魔法士がおるわけなかろう。

運が悪かったのだ。侵攻中に地震という天変地異がおこったのだ。本当に運が悪かった。」


「ちっ違う!あれは、魔法だ!

俺は見たんだ!山を覆いつくすような魔法陣と、やまびこのように響きわたるクエイクという声を!」


「まあ、山が崩れるほど揺れたようだから、木々が擦れる音などがそのように聞こえただけだろう!

何度も言うが、それが魔法などということはない。それができる魔法士など居ない。

元勇者パーティのレナ魔法士でも、そのような巨大な魔法は無理なのだ。

どれだけの魔力が必要だと思っているのだ。

魔力の面だけでも無理だと言える。

まあ、落ち着くのだ。」


「うるさい!馬鹿にしやがって!くそが!

ゆるさ………………zzzzz」


勇者サトルは、突然力が切れたように眠ったのだ。


すると、女性が二人現れたのだ。


年の頃は、20代前半。途轍もない美女であった。双子なのかパッと見て区別がつかない。

白い腰まで伸びた綺麗な髪。

前髪の一部がメッシュのように色が入っていて、その髪色が唯一違った。青色と赤色。


皇帝が口を開く。


「おお!ルリアナ!リリアナ!

助かったぞ!眠らせてくれたのだな!」


前髪が青のメッシュの女が答える。


「……闇に染まりきっていないから。

精神不安定。

このまま数日眠らせる。リリアナ。

この数日で闇に染める。」


前髪が赤いメッシュの女が答える。


「わかったわ。ルリアナ。

皇帝。予定通り冬に王国を。」


「おお!その通りだ!予定通り冬に王国を滅ぼすのだ!では、二人とも、そいつをその時までに使えるように頼むぞ!」


「「………では。」」


ルリアナとリリアナと呼ばれた女は、勇者サトルとともに、スッとその場から姿を消した。


この様子を気配を殺して見ていたのは、王国諜報機関"影"のジャックことレン。


「ルリアナ、リリアナ。やはりこの二人の力は要注意だな。」


そう呟いて、スッと姿を消したのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


メル達は、今夜の晩餐会に参加していた。

テーブルには所狭しと料理が並べられていた。

お嬢様達は、王国では見ない料理に興味津々だった。

次々と料理を堪能していた。


メルは、料理長に色々聞きながら料理を頂いていた。


「もぐもぐごくん。

う〜ん?料理長〜。このエビの天ぷらとか言うお料理〜中のエビが冷たいの〜どうしてかしら〜。」


「えっ!少々お待ちください!

………あっ!こっこれは!

めっメル様!大変申し訳ございません!

解凍が不完全だったようです!

申し訳ございません!

お体は、ご無事ですか!?」


すると、それを聞いたアラン王子とジョルノが凄い形相で立ち上がる。


「料理長!なんて失態を!

生のエビをメルに食べさせるなんて!」


「もっ申し訳ございません!」


「アラン王子〜ジョル君〜

私は〜大丈夫だわ〜。だいたいのことに体が耐性があるから〜。

そう怒らずに〜。ただお友達が食べないようにすぐにエビの天ぷらを片付けてくださいね〜。」


給仕が一斉にエビ天ぷらを片付ける。


「めっメル様!誠に申し訳ございませんでした!」


「気にしなくて大丈夫です〜。

それよりも〜エビを凍らせて保存しているのね〜。魔法かしら。」


「あっ。はっはい。船から荷上げするときにアイスの魔法で氷漬けにいたします。

それで、城に来てからは氷をつかって溶けないよう保存温度に気をつけます。

料理に使うときは、解凍して……今回のミスは表面しか解凍できていなかったのが原因でございます。エビの身の芯の部分が解凍しきれていませんでした。申し訳ございません!」


「ふふふっ。もう良いわ〜謝らなくて〜。」


その時晩餐会を行なっている扉が開き、爺が入ってきた。


「爺〜!何処に行っていたの〜?

爺もお料理を頂いて〜」


「ハハハッ!お嬢様。

お嬢様にお仕えしている身で、お嬢様とトーア国の王子様と食事を共になど滅相もございません。

私は、ここに来るまでに済ませて参りました。

お嬢様。ラトリシアの様子を見に行っておりました。お嬢様!流石でございました。

ラトリシアは、お嬢様が立てられた土壁によって、魔物の流入もなく、いたって平和でございました。ありがとうございます。

お嬢様。ラトリシア国王から、お礼の品を預かってきております。良いお土産になるかと。

ラトリシアの特産の特級の蜂蜜でございます。

沢山いただきましたので、他のお嬢様のお土産にもなるでしょう。

領地に戻りましたら婆やに小瓶に詰めさせましょう!」


「まあ〜蜂蜜〜!素敵だわ〜!

ラトリシアは蜂蜜が特産なのね〜!

山崩ししたかいがありました!

甘いものは〜大好物です〜」


メルが爺に満面の笑顔を見せる。

爺が思い描いていた笑顔そのものであった。


メルは、料理長に声をかけた。


「料理長〜!海産物の保存状況をみたいわ〜。王国でも海産物を扱う何かヒントがあるかもしれないから〜。

調理場に入るのは〜ダメかしら〜。」


「かっ構いませんが、海産物を王国で扱う。

なかなか難しいと思いますが…

トーアから王国に輸送中に溶けて腐ってしまうと思うのですが。アイスの魔法も頻繁にかけると食材を痛めてしまいますし。」


「そうだよね〜。だから〜見たいのです〜。

私なら〜なんとか出来るかもしれないから〜。ひとつアイデアはあるの〜。

では、今から見ても良ろしくて〜?」


「あっ!はい。」


するとアラン王子が立ち上がる。


「では、私も同行しよう。何かあってはならんからな。」


すると、メルが制止する。


「アラン王子〜良いわ〜。

爺が〜戻ったので〜爺に同行してもらいます。

アラン王子〜ゲストは〜私だけではありませんよ〜。ホストとして〜この場に残り、場を盛り上げてくださいませ。」


「うっ。そっそうか。わっわかった。」


メルは、爺とともに料理長に付いて行ってしまったのだった。


シェリルがアラン王子に言う。


「さあ!アラン王子!盛り上げて!」


ミーアが言う。


「楽しみだわ〜何してくださるのかしら〜ふふふっ。」


シェリルとミーアの無茶振りが飛んだのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


調理場に来たメル。


調理人達は、何事かと端による。


「メル様。これが海産物を保存している箱でございます。」


それは、1メートルくらいの木の箱だった。

上がパカっと開けれるようになっていた。


そこに氷が所狭しと入っており、これで冷凍した海産物を冷やしているのだった。


「ふふふっ。なるほど〜。まあ予想していた通りですね〜。でもこれだと〜大変でしょう?氷を詰めないとダメだし〜氷のせいで〜食材もあまり入らないでしょう。

凍らせていれば、食材はどれくらいもつの?」


「……まあ、そんなに保存したことがないのでなんとも言えませんが、ずっと凍っているならばそれこそ、一年でも大丈夫だと思うのですが…ずっと凍らすことが難しいのですが。」


「では〜私が氷を入れなくても溶けない箱を作りましょうか。

それなら、トーア国から王国までの海産物の輸送も大丈夫ですよね〜。箱はこれだけですか〜?」


「いっいえ、こちら使っていない箱がございます。」


「では、この箱を使わせてもらいますね〜。」


メルは魔法袋から領地の鉱山ダンジョンで採取したミスリルの鉱石を少しとりだす。

そして、ゴーレムの魔石も取り出す。


メルは、手を翳し錬金を始める。


(箱の蓋の内側にアイスの魔法陣を展開して〜蓋の表に魔石を〜。

ミスリルで魔石を固定して〜魔石取り替えできるようにして〜シャドウ印を忘れないように〜。)


メルは、手を戻した。錬金終了である。


料理長は、メルが何をしているのか訳がわからずポカーンとしていた。


「できたの〜そうね〜

シャドウ印の冷凍……シャドウ印の冷凍庫!

名前は〜そうしましょう!」


「はっはあ……冷凍庫ですか?」


「そうだよ〜コップに水を入れてください。

それで〜この箱に入れてみて〜」


料理長は、頭を傾げながらメルが言う通りにコップに水を入れて箱の中に入れて蓋を閉める。


「ふふふっ。この箱に入れたら自然とアイスの魔法が発動するようにしました〜。

魔石の魔力を使って〜。

開けて見て〜。」


料理長は、箱の蓋を開ける。


「………凍っている……!凍っています!」


水を入れたコップの水が凍っていたのだ。


「これだと〜氷が必要ないでしょう〜。

それに〜沢山入るでしょう!

これなら王国に海産物も〜運べると思わない?」


「こっこれは凄い!間違いなく運べます!

………メル様……こっこの冷凍庫頂いてもよろしいので?」


「ふふふっ。元々ここの箱じゃない。良いわ〜。魔石は魔力が減ってきたら、このシャドウの印が青から黄色、黄色から赤に変わるから〜。赤色は魔力がなくなったってことだからね〜魔石交換しないとダメだよ〜。」


「わっわかりました!」


すると、爺が口を開く。


「ハハハッ!素晴らしい!お嬢様!素晴らしいですぞ!

爺は思ったのですが、そこにある棚を冷凍庫にすれば収納もしやすくなると思いますぞ!

それに、お嬢様!野菜などは冷凍するより、ただ冷やすことができれば、この棚の上下で冷凍と……冷蔵を切り分けしたら、婆やが喜びそうですぞ!婆やに聞けばもっとアイデアがわくかもしれません!」


「ふふふっ。そうだね〜領地に戻ったら〜婆やに言ってみよう〜!

婆やが喜んでくれるといいなぁ〜!」


「ハハハッ!喜びますとも!」


シャドウ印の冷凍庫の誕生であった。

後に、サイラスの商業ギルドでシャドウ印の冷蔵冷凍庫として販売され、大ヒットを記録するのだった。

それだけでなく、商人用の荷馬車に取り付ける冷凍庫も販売され、トーアから海産物が王国に輸入され、王国でもいつでも海産物が食べることができるようになるのであった。

これはすぐ後の話である。

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