第34話 お嬢様の山崩し
メルは、鉱山ダンジョンから帰ってから父様から帝国がラトリシアに侵攻すると話を聞いた。
そして、その侵攻を止める為魔法で山を崩して道を塞ぐように言われたのだ。
父ケインが言うには、トーアに行くまでの丘から崩す山が見えるとのこと。
朝9時に帝国の場所を告げる狼煙が上がるから、参考にしろとのことだった。
そんなこんなで、朝、朝食を慌ただしく頂き、メル達お嬢様達は、白馬車に乗り込んだのだ。
白馬車の操車は爺だった。
シャドウは本来なら護衛として、同行するのだが、昨日の鉱石掘りで筋肉痛で寝込んでいるのだった。
そして、今その見晴らしの良い丘に爺とメルは立っていた。
他のお嬢様方は、後方で白馬車の中からメルの背中を見ているのだ。
「メルお嬢様。あの手前に見える山とその奥の山、わかりますか?
あの間にラトリシアに続く道があります。
なのであの山を崩して道を塞いで頂きたいのです。」
「ふむふむ。
人は居ないの〜?王国の諜報機関の人は〜?
巻き込まれない〜?」
「狼煙が朝9時に上がります。後数分です。
当然その場所に諜報機関の者がいます。
そして、同時に帝国兵の場所を知らす場所でもございます。
ラトリシアの民には、近づくなと連絡を入れておりますので、大丈夫ですよ。」
「わかった〜。あの手前の山を向こう側に〜奥の山を手前に崩して〜道を塞いでしまおうかな〜。
魔物が暴走するだろうから〜ラトリシア側には〜土壁を。
帝国側は、何もしなくていいよね〜。
そんなに〜戦いたいなら〜魔物と戦えば良いのよ〜。爺〜そう思わない?」
「メルお嬢様のおっしゃる通りです。
魔物と、しっかり戦ってもらいましょう!」
メルは、左手の指輪を触り、一つ外した。
そして、爺に手渡す。
メルが指輪を外した瞬間、メルの雰囲気が一変する。
神々しい雰囲気に包まれる。
白馬車から眺めているお嬢様方が、思わず
ため息のような息を飲んだ。
それぞれがメルに見惚れていた。
そして、狼煙が上がった。
山の丁度手前で上がったのだ。
メルは、それを見て山に向けて右手、手のひらを翳す。
一気に魔力を高める。
魔力が溢れ出し、上昇気流のように舞い上がる。
メルの金糸のような髪が、フワッと浮き上がり、背中にパラパラと落ちていく。
そして、メルの声が響きわたる。
"地の精霊よ。暴れなさい。地を揺らせ!"
" クエイク "
やまびこのように、メルの声が何重にも辺りに響く。
その瞬間、山を覆い尽くすような超巨大な魔法陣が現れ、" ドーン "という途轍もない音がしたかと思うと、山二つが猛烈に揺れだす。
そして、砂煙で辺りが煙る。
すると、手前の山の上半分が奥へと崩れ、奥の山の半分は、手前に崩れたのだ。
砂煙で煙る中、白馬車から見ているお嬢様方は、目をパチクリしている。
目の前で起きている現象を起こしたのが、親友のメルだということをわかっていながらも、信じられないといった感じだ。
砂煙が晴れた時、山は半分になり、そして、山と山がつながり、まるで誰も通さない砦のようになっていたのだ。
爺は、メルの背中を見て思う。
(………やはり、メルお嬢様のお力は、途轍もない。
まるで、神の所業。尊い。)
爺は、思わず跪き深く頭を下げていた。
そして言う。
「メルお嬢様!流石でございます!
これで、帝国も侵攻できないでしょう!
ありがとうございます!
ありがとうございます!」
メルは、ゆっくり優雅に振り向き、言う。
「ふふふっ。なんで〜?
なんで〜爺が礼を言うの〜?
爺〜膝が汚れるわ〜。
早く〜立って〜。爺に跪つかれたら〜私〜落ち着かないわ〜。私〜いつも爺にお世話かけているのに〜。
ラトリシア側には〜魔物が流入しないように〜土壁を展開しました。
……爺〜諜報機関の人達〜大丈夫かしら〜?
巻き込まれてないかな〜?」
爺は、跪いたまま答える。
「メルお嬢様。ラトリシアは、私の故郷なのです。故郷をお守り頂いたのです。
礼を言うのは当然ですよ。ありがとうございます。
あっ!それと諜報機関の者をご心配頂かなくても大丈夫です。
それなりの訓練をしておりますし、あの狼煙を上げたのは、私と婆やの娘と息子です。
一応、部隊を纏める隊長ですから大丈夫です。」
「ふふふっ。やっぱり〜爺と婆や〜只者ではないと〜思っていたけど〜諜報機関の偉いさんなんだぁ〜。
父様が〜爺に色々指示しているから〜そうなのかなぁ〜?って思ってたけど。
影の偉いさんに〜私お世話になっているの〜
良いのかな?」
「メルお嬢様!何をおっしゃいますか!
良いも悪いも!
私も婆やも、一生を掛けてメルお嬢様にお仕えいたします!
メルお嬢様は、尊きお方!
婆やも私も、既に心を決めております!」
メルは、とびっきりの笑顔で爺の顔の前に手を出しながら言う。
「ふふふっ。じゃあ〜爺〜早く立って〜。
爺の膝が汚れたら〜嫌なの〜。
爺の素晴らしい身だしなみが〜私〜
大好きなの〜!」
爺は、メルの手を取り立ち上がる。
「メルお嬢様!
有難き幸せでございます。ハハハッ!」
「ふふふっ。
じゃあ〜トーア国にいきましょうかぁ〜!」
メルと爺は、手を取りながら白馬車に向かうのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
帝国視点。
勇者ノボルは意気揚々と、兵達を引き連れ町を朝出発した。
そして、山と山に挟まれたラトリシアに続く道に近づいてきた。
「見えてきたな!
皆、気合を入れ直せよ!
あの道を抜ければラトリシアだ!
目一杯暴れてもらうからな!」
その時、ノボルは不意に山を見た。
" 地の精霊よ!暴れなさい。地を揺らせ!"
" クエイク "
と言う声が辺りに響く。
山の上に超巨大な魔法陣が現れたのをノボルは確認したのだ。
その瞬間、ドーンという音がしたと思ったら、体が宙に浮いたのだ。
その後地面に叩きつけられ、立ちあがろうとするが、凄い揺れで立ち上がることができない。
地面に這いつくばることしかできなかったのだ。
ノボルは視線だけは、先を捉えていた。
両端の山は崩れ、進むべき道が塞がれる。
揺れが収まってからも、ノボルは地面に這いつくばったまま、砂煙が収まるのを待った。
そして、砂煙が収まる。
ノボルは唖然とした。道がなくなり、目の前には、砦のように姿を変えた山。
すると、兵が騒ぎだす。
「まっ魔物が!途轍もない数の魔物がこちらに向かってきます!
暴走しています!」
ノボルは、ハッと意識を覚醒させ指示する。
「まっ魔物を食い止めろ!
町が襲われるぞ!」
魔物は、Aランクの魔物も混じっている。
ここから、帝国は長い時間魔物との戦闘になるのであった。
それを、遠目に眺めているのが、王国諜報機関"影"の"クイーン"ことラムと"ジャック"ことレン。
「すっ凄いわ。こっこれがお嬢様のお力。
母様と父様が一生を掛けてお仕えするというだけあるわ。」
「すっ凄まじいな!
本当に、遠隔で侵攻を止められた。
早くお会いしたいな!」
すると、二人の背後にスッと影が現れる。
「報告いたします。
ラトリシア側にも魔物が流入しましたが、土壁が現れ、魔物の流入を食い止めました。
魔物達は、土壁に阻まれたからか、山に戻っていきました。」
影は、報告を終えてスッと消える。
「ラトリシア側には、お嬢様が土壁を張ったのね。
魔物が流入することも全てお嬢様は想定されていたのね。
凄いわ!
ますます、お嬢様にお会いしたいわ!」
その後、帝国対魔物の戦いを見る二人。
帝国は、なんとかボロボロになりながら魔物を退けたのだった。
本当にボロボロだった。ノボルもしかりだ。
剣を杖がわりにしないと歩けない状態だった。
ラトリシアに侵攻する意欲も削がれ、町へと引き返したのだ。
そのボロボロの姿は、まるで敗走のようで、"クイーン""ジャック"ことラムとレンは可笑しくて大笑いしたのだった。
「ふふふっ!レン!私は、ケイン様に報告してくるわ!
ラトリシア侵攻は、もうないでしょう!
じゃあ!レンは引き続き監視をよろしく!」
そう言ってラムは、スッと消えたのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ハハハッ!シャドウ!
筋肉痛だって?!
情けねえやつだな!」
ベッドから起き上がろうとして、体をビクっとして、やめるシャドウ。そして言う。
「いっイタタ。
けっケイン様!
あれだけの鉱石を掘ったのです。
イタっ!
筋肉痛にもなりますよ!」
「ハハハッ!それで、トーアに行くメル達の護衛が出来ないなんて、お前、何やってんだか。
まあ、爺が代わりに同行してくれてるから良いけどな。
お前、なんでメルに手伝って貰わなかったんだ?
メルなら、土魔法で簡単に掘り出すだろうに。」
「………つっ土魔法……。
そっその手がありましたか。
しっ失念しておりました。
魔法の天才でした。お嬢様は。イタタ。」
「ハハハッ!まあ、良い!
シャドウ!お前も夏休みだ!
ゆっくりしとけ!」
すると、ケインの背後にスッと現れる影。
"クイーン"ことラムだった。
「ケイン様、直接ご報告をと思い馳せ参じました。
帝国のラトリシア侵攻。
メルお嬢様の遠隔の魔法、"クエイク"で、山崩しされ、行手を阻みました。
その後、魔物が帝国側に流入し、帝国は、何とか魔物を退けましたが、ボロボロの状態で、まるで敗走のように町へ引き上げました。
侵攻する意欲は残ってないと思われます。」
「そうか!メルが見事にやってくれたか!
魔物が流入か。ラトリシア側は?」
「ラトリシア側には、お嬢様が土壁を張られたようです。
ラトリシア側には流入しておりません。」
「ハハハッ!そうか!そうか!
わかった!
ラム!2日もすれば、メルも帰ってくるぞ。
会っていったらどうだ?」
「お会いしたいのは山々なんですが、帝国の監視に戻らないと。
母様と父様に叱られますから。」
すると、ラムの背後で声がした。
婆やだ。
「ラム。奥様が久しぶりに貴方とお茶が飲みたいとおっしゃっておられます。お茶くらい飲む時間は許されますよ。」
「母様!頂いてよろしいのですか?」
「奥様が待ってらっしゃいますよ。
旦那様もご一緒にどうぞ。
シャドウ様は、こちらにお持ちいたしますから、体を労ってあげてくださいませ。」
婆やは、そう言うと、ラムを優しく抱きしめたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます