第32話 お嬢様は、ダンジョンに行く
ここは、帝国の帝城。
煌びやかな装飾の部屋に、煌びやかな服を着た男。
皇帝であった。
その皇帝の前に座っているのが、邪神教が召喚したと言われる勇者ノボル。
年頃は、15歳くらいの少年である。
「皇帝!いつになったら王国を攻めるんだ!
俺は、さっさと王国をぶっ潰して、俺の元の世界に帰りたいんだ!
Aランクの魔物を狩れるようになったんだ!
もう!いいだろう!
早く攻めさせろ!」
「フフフッ。まあ、待て。
勇者ノボル。
王国を潰すのは、そう容易いことではないんだ。なんせ、元勇者パーティがいる国だからな。
慎重にやらねばならん。
四方から囲み込むつもりだったが、邪神教のガーラがしくじりおった。
………まあ、冬まで待て。王国は、今年小麦が不作になるだろうとのこと。
すれば、食料難に陥り戦争にも、大きく影響するだろう。
だから、決戦は冬だ。」
「遅い!何故?!そこまで恐れる?!
俺は、もう暴れたくて仕方がない!
もうよい!俺一人でその元勇者パーティとかいうのをぶっ倒してきてやる!
それなら、王国を恐れる必要がなくなるのだろう!」
「まあ、待て。ノボル。
う〜ん。そうだな。
………フフフッ。では、ノボル。
力試しといこうではないか。
邪神教のガーラがしくじり、トーアを取れなかった為、東側から王国を攻め立てることができん。
なので、ノボル。トーアの隣にあるラトリシアを落としてきてくれ。
帝国の北東側に面している国だ。
山と山の間にラトリシアに続く道がある。
お前の力試しには持ってこいだ。
兵を三万与える。ラトリシアを取ってこい。
すれば、ノボルが元の世界に帰る時が早まるだろう!」
「ヨシっ!早速行ってくる!
ラトリシアを取ったら即、王国を攻めるからな!」
勇者ノボルは、意気揚々と部屋を出ていく。
残った皇帝が呟く。
「フフフッ。ラトリシアが取れれば、儲け物。
そんなに、元の世界に帰りたいのか。
……帰れるかどうかは知らんけどな。
フフフッハッハッハ!」
皇帝の高笑いが響く中、これを見ていた影が二つ。
皇帝の部屋から影がスゥっと消える。
そして帝都の、とある飯屋に影二つ、スゥっと現れた。
王国諜報機関"影"の"クイーン"ことラムと"ジャック"ことレンだった。
「ふざけてるよな!
遊び感覚で国を落とそうとしてやがる。」
「声が大きいわ。"ジャック"。
もう、昼にも出撃しそうな感じね。
となれば、明日の朝にはラトリシアに。
"キング"と、"エース"に報告しなきゃ。
ラトリシアを取らすわけにいかないわ。
貴方は、このまま偵察を。
私は、報告に。」
すると、"クイーン"がスゥっと消える。
それを見て、残った"ジャック"は肉をガブリと齧りつく。
すると、スゥっと、"クイーン"が戻ってくる。
「レン!こないだ、母様が言ってたわ。
肉ばかり食べないで野菜も食べなさいと。
怒ってたわよ!」
「チェッ!母様にチクッたのは、姉さんだろ!言うなよな!
肉は、俺の楽しみなんだから。」
「肉が楽しみはいいわ。野菜も食べなさいってことよ。
わかった?サラダを注文しといてあげるわ。
じゃあ、行ってくる。」
"ジャック"ことレンは、しかめっ面をしながら肉をガブリ。
「母様も姉さんもわかってないよ。
育ちざかりの16歳だぜ。
肉だろうよ!
父様なんかは、肉はしっかりと食べるんだぞと言ってくれるのにな。」
そこに現れるサラダ。
「………姉さん。マジで注文してやがった。
いらないのに。」
そう言いながら、嫌々口にサラダをかき込む"ジャック"ことレン。
「野菜って草だよな……肉食獣は、食わないよな!
必要あんのかよ!
…………でも……母様怖いから……
仕方がないか。」
そう自分で納得しながら、サラダを食べるレンであった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
メル達お嬢様方は、領地の北エリア、鉱山ダンジョンエリアにシャドウを護衛として引き連れて、やって来ていた。
メル、ミーアは二度目だが、アリスをはじめ他のお嬢様方は初めての来訪の為、王都と違った雰囲気の賑わいを見せる鉱山ダンジョンエリアの街に興味深々であった。
アリスとセシルに手を繋がれたネネも、ニコニコ笑顔で楽しそうにしていた。
シェリルが言う。
「凄い賑わい!
皆、冒険者なのね!体の大きな人が多いわ!
ダンジョンって冒険者には、稼ぎが良いのだろうね!
冒険者ギルドに登録しないと、ダンジョンには入れないのかしら?
メルちゃん!どうなの?魔法を魔物に向けて打ってみたいわ。」
「どうなのかな〜?春に来た時は〜ダンジョンには〜入らなかったから〜。
シャドウ〜どうなの?」
「お嬢様。ダンジョンは出入り自由ですよ。
そのかわり、あくまで何があっても自己責任です。
ダンジョン内で何が起きようが、誰も助けてくれません。
敵は、魔物だけではありません。冒険者の中には、冒険者を襲って金品を奪う奴らもいます。そういうことが起きるという覚悟があるなら、出入り自由ですよ。」
「鉱石も〜取れるのでしょう〜?!」
「そうですね。
しかし、大半の冒険者が行ける地下3階までは、取り尽くされているでしょうね。
地下4階なら少しはあるでしょう。
地下5階は、おそらくこの辺の冒険者は行けないでしょうから、地下5階まで行くと取り放題でしょう。」
「シャドウ〜地下5階の魔物強いの〜?
出来たら〜お土産に鉱石欲しいんだけど〜。
ミーアちゃんの〜父様が喜ぶの〜。」
「私と、お嬢様なら楽勝ですよ。
強い魔物と言っても、Cランクです。
私とお嬢様なら、一撃で事済みます。
ダンジョンに入られますか?
入るなら、お嬢様、他のお嬢様方に必ず障壁を掛けてくださいよ。
お嬢様の障壁さえあれば、大丈夫です。」
シャドウの言葉にお嬢様方が歓喜の声を上げる。皆、ダンジョンに興味があるのだ。
「シャドウ〜皆んなには〜オート障壁を掛けているの〜ネネちゃんも〜。
シャドウも障壁いるの〜?」
「ハハハッ!お嬢様!私は必要ありませんよ!わかってて、言ったでしょ。
それでは、鉱石を掘る為のツルハシを購入して、ダンジョンに参りましょう!」
お嬢様達は、魔物相手に魔法が当たるか?など、思い思いの声を上げていたのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
その頃、領地の屋敷では、ケインと爺、ローザ、婆やが、"クイーン"ことラムから報告を受けていた。
「本当に!帝国は舐めてるな!
力試しにラトリシアを落とすだと!
ふざけるな!」
「ケイン様。恐らく、明日朝にはラトリシアと帝国の国境辺りを通過すると思いますよ。
どうします?」
「どうするも、侵攻を止めるに決まってる!
丁度明日、メル達がトーアに行く。
爺!トーアとの国境あたりの丘から、ラトリシアの山が見えるな!
メルに山を崩させろ。それで侵攻は止まる。」
「はっ!承知しました。
お嬢様には、何とお伝えするのですか?」
「そのまま伝える。
帝国の悪い奴らが、遊び半分でラトリシア国に侵攻しようとしているから、その道を潰してくれと。」
「承知しました。では、私が現地で、あの山ということをお伝えしたらよろしいですね。」
「おお!それで頼む。」
"クイーン"ことラムが驚愕の表情で言う。
「まっ待ってください!
ケイン様と父様!アッサリと話を終えていますが、やっ山ですよ!お嬢様に山を崩さすと安易に言いすぎではないですか?」
すると、婆やが言う。
「ラム。貴方は、お嬢様のお力を知らないのです。
お嬢様のお力なら、山崩しなど容易くこなされます。私と"キング"が一生を掛けてお仕えするお方なんです。
ラム。レンにも言っておきなさい。
お嬢様の魔法に巻き込まれないように注意しなさいと。」
ラムは、母である婆やの口から"一生を掛けてお仕えするお方"という言葉が出たことにも、ビックリしたのだった。
ローザがケインに言う。
「ケイン〜。山崩しだけにしといてね〜。
人を殺めることは、いけない事と教えているのだから〜。
殺して良いのは、魔物だけと言っているのよ〜。
帝国と戦争になったら〜人を殺めないで良いような方法をメルちゃんに〜教えないと〜。
子供に〜人を殺める事をさせるのは〜大人として駄目だから〜。」
ケインは、ローザの頭を撫でながら言う。
「わかってるよ。ローザ。
メルには、人を殺めることはさせない。
あくまで、侵攻の道を塞ぐだけだ。
……そうだな。
ラム!明日、朝、帝国の位置を示す狼煙を上げろ。
それで人は、巻き込まれんだろ。
その後、魔物が流れてきて魔物にやられるのはメルには関係ない。
良いな!ラム!狼煙だ。」
「……あっ。はい!承知しました。」
婆やが言う。
「お嬢様が、おっしゃる言葉が目に浮かびますわ。
"戦いたかったら、魔物と戦えば良いのよ"
ですね。」
爺が言う。
「ハハハッ。そうだな。
お嬢様は、そうおっしゃるだろうな。
では、旦那様、明日9時に、あの丘に着くようにいたします。
奴らも、今日手前の街で休み、明日の朝出るでしょうから、恐らくそのあたりの時間でしょう。」
「そうだな。それで頼む。
ラム9時で位置を知らせる狼煙をあげろ。」
「はっ!承知しました。
あの……母様と父様が、そこまでお嬢様に熱を上げているとなると……ラムもお嬢様に興味深々です。
ラムも早くお嬢様に会いとうございます。」
婆やが言う。
「ふふふっ。ラム。
貴方は、まだ駄目よ。
帝国との事が済んでからね。
そうしないと、ラムがお嬢様から離れなくなったら困るもの。
それだけ、お嬢様は魅力的だと言うことです。」
「母様、そんなことを聞いたら余計にお嬢様に会いたくなります!」
皆が笑った。
"クイーン"ことラムは、メルに思い馳せるのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
メル達は、ツルハシを購入し、今ダンジョンの入口に、やってきた。
すると、お決まりの出来事がメル達を襲う。
ダンジョンから出てきた冒険者に絡まれたのだ。
「おいおい!ダンジョンだぜ!
どこのお嬢様達か知らねえが、お前らが来るところじゃねえ!
………ハハハッ!そうだそうだな。
どうしても、ダンジョンに入りたいと言うなら、通行料払って貰おうか!
有金全て出しな!」
シャドウが、ヤレヤレと言った感じで冒険者を対処しようとした時、メルがツカツカと冒険者の前に出て行き言う。
「貴方〜冒険者?その割に〜全く強く無いみたい〜。魔力も〜シャドウの100分の1くらい〜?もっと低いかしら〜。よくそんなんで冒険者してるね〜!」
「おい!お前なめんなよ!」
シャドウが直ぐ様、冒険者とメルの間に入る。
「お嬢様!私より前に出ないで下さい!
いつも言ってるのに!「何ゴチャゴチャ言ってんだ!」
シャドウが、メルに言っている最中に、冒険者がシャドウに殴りかかる。
シャドウは、それを、見ずに避け、クルッと回転して裏拳で冒険者を殴り飛ばす。
冒険者は、吹っ飛び壁にぶつかり、のびる。
冒険者の仲間が剣に手をかける。
「抜いたら、お前達一人残らず殺すぞ。
私は、聖獣フェンリルのシャドウ!」
すると、メルがシャドウの頭をパコンと叩く。
「もう〜シャドウは何回言ったら〜わかるのかしら〜。
殺して良いのは〜魔物だけ!
人を殺してはいけません!
何回言わせるのかしら〜。
父様は〜シャドウに、何を教えているのでしょうか?!
母様に〜言いつけないと〜駄目ですね!」
冒険者の仲間達は、聖獣フェンリルのシャドウと知り、すでに戦闘意欲はなくなっていた。
シャドウが言う。
「おっお嬢様!ローザ様に言い付けるのは……やめてください。
ローザ様……怖いので。」
「ふふふっ。じゃあ〜わかりましたね〜
殺して良いのは〜魔物だけ!いい!」
「はっはい。承知しました!」
二人のやり取りの間に、冒険者達は逃げ去っていたのだった。
お嬢様方は、二人のやり取りを見て、大笑いしていたのだった。
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