第31話 お嬢様は釣りがヘタ。
次の日の朝。
メル達は、朝食を皆んなで頂く。
相変わらずネネは、アリスとセシルが甲斐甲斐しく世話を焼いている。
ネネは、笑顔でそれを受け入れていた。
そして、メルが言う。
「シャドウ〜今日は〜ボートで釣りするんだからね〜。
わかってる〜?
でも〜あれだね〜春の時より人数が〜多いから〜ボートが二つになるね〜。
シャドウ〜貴方〜分身できないの〜?」
「おっと!お嬢様!又、無理難題をおっしゃいますね。分身は、出来ません!
お嬢様!心配なさらずとも、爺もボートを漕いでくださりますから。」
「そうなの〜。
でも〜シャドウ〜いずれ〜分身できるようになりなさいよ〜!
分身して損はないのだから〜。」
メルの無茶振りに、お嬢様方も大笑いしている。
すると、ケインが追い討ちをかける。
「ハハハッ!シャドウ!メルの命令だからな。
シャドウも夏の宿題だ!
ハハハッ!」
するとローザが言う。
「いくら〜シャドウでも〜夏の間では無理よ〜。
そうね〜来年までの〜宿題ね〜。ふふふっ。」
シャドウは、苦笑いだ。
そして、思う。
(ハハハッ!ふふふっ。じゃないんですよ!
ケイン様とローザ様!
お二人が分身を肯定してしまうと、お嬢様が私が分身するものと思ってしまうではありませんか!
本当に!ケイン様もローザ様も!)
フォスター家に翻弄されるシャドウ。
すると、ネネが言う。
「シャドウのお兄ちゃん!
分身できるようになったら〜凄く便利だよ〜。
お仕事〜しながら〜遊べるし〜いいなぁ〜。
ネネ、分身できたら〜お米つくるネネと〜
王都に行って〜お姉ちゃん達と遊ぶネネ。
とても〜素敵〜!」
ケインが言う。
「じゃあ!ネネ!ネネも分身するか!?」
「ふふふっ。おじちゃん!
ネネは無理だよ〜魔力量がそんなに〜ないもん。
シャドウのお兄ちゃんは〜いっぱいあるから〜分身できるよね!」
ネネが目を輝かせてシャドウに言う。
シャドウは、ネネの期待の目にタジタジになる。
「まっまあ、努力します!ネネお嬢様。」
ネネは、とびきりの笑顔を見せる。
皆が、笑顔を弾けさせたのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
朝食が終わり、メル達お嬢様方は、屋敷の前にある湖の桟橋に居た。
セシルとアリスが、ネネと共に湖に泳いでいる小魚を見つけて、キャッキャとはしゃいでいる。
シェリルは、ミーアとメルと何やら喋りながらキャッキャとはしゃいでいた。
すると、爺とシャドウが竿を担いで桟橋にやってきたのだ。
アリス、ネネ、セシルがシャドウが漕ぐボートに乗り込む。
メルとミーア、シェリルが爺が漕ぐボートに乗り込む。
水面をスゥーと進むボート。
ボートを並走するように泳ぐ小魚たち。
それを指差し喜ぶシェリル。
メルとミーアは、そんな友達を見て満足気だ。
しばし、水上散歩を楽しみ、木々がせり出し木陰になっている場所でボートを固定した。
釣りの開始だ。
餌となる虫に、お嬢様方がキャアキャア言いながらも皆、笑顔だ。
そして、釣り糸を垂れる。
一番に釣り上げたのはネネだった。
アリス、セシルも釣り上げた。
しかし、こちらのボートではアタリすらない。
メルが言う。
「なんで〜?
なんで向こうばかり釣れるの〜?
爺〜撒き餌が足りないのでは〜ないの〜?」
「おかしいですな〜?
撒き餌もたっぷりしましたし、仕掛けも一緒なんですが。
何故か、魚がこちらに寄ってこないですな〜。」
爺が頭を傾げる。
メルは、爺の顔を見る。
すると、爺が言う。
「お嬢様!わかりましたぞ!
魚が寄ってこない原因は、お嬢様の魔眼です。
魚は、人に敏感なのです。
お嬢様が魔眼で見ているのが、魚にバレているのですよ。」
「えっ!そっそうなの〜!
よく見えたほうが〜いいと思って〜。
ごっごめん!ごめんね〜ミーアちゃん!シェリルちゃん!」
メルが魔眼を解除する。
そして、爺が撒き餌を再度する。
すると、すぐに効果があらわれる。
シェリルのウキが一気に沈みこんだ。
シェリルが竿をグイッとあげる。
「うっ!うっわぁ!凄い!凄い!
凄く引くよ!
おっ!おっとと!よし!」
シェリルが30センチくらいの魚を釣り上げた。
すると、次はミーアのウキが沈み込む。
「キャア〜!どっどうしたらいいの〜!」
「大丈夫ですよ!ミーアお嬢様。
そのまま、竿を上げたまま。
落ち着いて。魚に空気を吸わすのです。
すると、寄ってきますから。
はい!釣れましたね!」
ミーアが、ヤッタ〜!と喜ぶ。
ミーアの魚も30センチくらいの魚だった。
次は、メルの番だ。
ウキが、ピクピク動き出し、沈み込む。
メルは、ここだと言わんばかりに思いっきり合わす。
すると、ボートにめがけて魚が飛びこんできた。10センチほどの小魚だった。
「なっなんで〜なんで私だけ〜小さいの〜!」
皆が、笑う。
「失礼しちゃうわ〜!
爺〜この魚食べれるの〜?」
「皆さんの釣り上げられた魚は、レインボートラウトと言う魚で、美味しい魚ですよ。
焼いたらとても美味しいです。
しかし、………メルお嬢様の魚は………逃がしましょうか。」
「……がっ。ガクっ!なっなんで〜!
なんで私もレインボートラウト〜釣れないの〜!」
皆が、メルの言葉に笑う。
その後、メルも無事にレインボートラウトを釣り上げたのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
所変わって、トーア国。
王城の調理場で、料理長を捕まえて、話をしていた。
「料理長!メル達に喜んでもらう為には、料理長の腕にかかっているのだぞ!」
「はっはい!努力いたします!」
「料理長!王子!
やはり、海産物を食べて頂くのが一番だと思います!
そうですね………魚は当然ですが、エビやイカ、貝なども良いですね。」
「おお!そうだな!
料理長!どういった料理を出すのだ。」
「そうですね………エビやイカ、貝ならば、天ぷら、フライ両方ご用意してもよろしいかと。
同じ食材でも、違う味が楽しめます。
魚は、やはり焼きでしょうか。」
「おお!良いな!
魚は、焼きに、かぎるな!」
「待ってください!王子!
魚は、焼きというのは少し安易ではないでしょうか?」
「っ……安易って!ではどうするのだ!」
「煮付けなどはどうでしょう?
王国には、醤油という調味料はないでしょう?
新鮮に感じて貰えるのではないでしょうか?」
「成程な!そうだな!その通りだ!
それでいこう!料理長!頼むぞ!」
料理長は、顔を引き攣らせ、答える。
「……なんか、緊張しますな。
メル様がご満足していただけるか…。
確か……春、メル様はおにぎりと味噌汁を大変お気に召されたご様子でした。
朝食は、自信を持ってご用意させて頂くのですが……。
しかし、命の恩人のメル様です!
精一杯料理させて頂きます!」
その後も三人で話し込むのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
メル達は、釣りを終え屋敷の庭にテーブルを出して、座っている。
婆やが、お嬢様方の釣り上げたレインボートラウトをクシに刺して、焼き上げている。
「しかし、メルちゃん!
本当におかしかったわ。
やっと、釣れたと思ったら、こんなちっちゃいの!ふふふっ!」
「あっ!アリスちゃん〜わっるいんだ〜!
ふふふっ。自分でも〜おかしいよ〜思いっきり竿をグイッとしたら、魚が飛んできたんだよ〜。もう〜なんなの〜って感じ。」
セシルが言う。
「ふふふっ。メルちゃんは笑かす為に、わざとしているのかと思いましたわ〜。
でも本気なんですもの〜。それがまた、おかしくて〜。ふふふっ。」
「セシルちゃんまで〜!
ふふふっ。皆が〜楽しかったのなら〜それで良いよ〜!
でも〜私も釣ったからね〜レインボートラウト!」
シェリルが言う。
「それに比べて、ネネちゃん!
上手だったね!一番釣ってたんじゃない?」
ミーアが言う。
「一番大きいのも〜ネネちゃんが〜釣ったやつだよ〜。」
ネネが言う。
「ネネ、釣りしたこと〜あるもん!
海で釣ったんだよ〜
海の魚は〜もっと引くんだよ〜!」
「海で釣りかぁ〜いいなぁ〜!」
すると、婆やが言う。
「さあ、皆さん!焼けましたよ。
熱いですから、気をつけてくださいませ。」
皆、串を持ち、ガブリと一口。
「もぐもぐもぐもぐゴクン。
あつぅ〜。本当熱いね。
火傷しそうだったよ〜。」
皆、頷く。
「もぐもぐゴクン。でも、凄く美味しい!
塩で焼いただけなのに!なんでこんなに、美味しいの!ビックリだよ。」
「王国では、なかなか味わえないですわ〜。
とても貴重ですわ。」
婆やが言う。
「海がない王国では魚だけではなく、海産物自体がほぼありませんからね。
流通手段がありませんから。
腐らない冬ぐらいですか。
しかし、トーアに行かれるのでしょう?
トーアなら、海産物色々食べれますよ。
塩焼きだけでなく、煮付けという、トーアのなんでしたかしら?あっそうそう醤油とかいう調味料で煮たものも、美味しいそうですよ。」
「そうなんだ〜。
煮付けかぁ〜出てくるかな〜?
アラン王子〜そういうの考えてくれているかな〜?」
「アラン王子は〜そこまで〜考えてないだろうな〜。」
「でも、ジョルノ君が一緒に考えてくれてるのでしょ!大丈夫なんじゃない?」
「ジョルノ君次第ってとこあるよね。」
「ふふふっ。アラン王子には、悪いですが、私もそう思いますわ。」
「本当〜アラン王子は〜空気を読まないところあるからね〜。
ジョル君に期待しとこう!」
皆でアラン王子を信用していないのだ。
婆やは思う。
(ふふふっ。少しアラン王子が不憫に思いますが、お嬢様方が楽しそうにお話ししているので許して頂きましょう。ふふふっ。)
アラン王子を話のネタにして、お嬢様方は美味しい魚とおしゃべりを楽しんだのだった。
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