第25話 お嬢様は守る

週明けの月曜日。

一眼目の魔法学の授業で事件が起きる。


「魔法を使える者は、実際に的に向けて魔法を打ってみよう!

順番に前の者が居なくなってから打つのだぞ!

魔法をまだ使えない者は、魔力を動かす練習だ。

別れてやるぞ!良いな!では、別れろ。

メルちゃんは、私と創造魔法について、話をしよう!」


皆それぞれ別れて、始めたのだった。


アリス、シェリル、ミーアは魔法グループで的に向けて魔法を放つグループのほうに行く。


メルは、レナと創造魔法について、ああでもない、こうでもないと話を始めていた。


アリスが魔法を放ち、的に当たっているか確認に行った時であった。


「きゃあ!」

魔法グループのほうで悲鳴が上がった。


アリスの背後から、セシル・ウーゴが魔法を放ったのだった。


悲鳴を聞いたレナとメルは、視線をそちらに移す。


アリスに向かっていくサンダー。

サンダーは、"バリバリバリッ"と凄い音でアリスに迫る。

アリスは、恐怖で、その場所に立ちすくむ。


レナが叫ぶ。

「よっよけろ!よけるんだ!」


メルが言う。

「レナおばちゃん〜大丈夫よ!」


サンダーがアリスに当たる瞬間、障壁が現れた。


"カツン"という音を残して、弾いて後ろに逸れて行ったのだ。


レナが叫ぶ!


「取り押さえろ!

メルちゃん!瞬間的に障壁を張ってくれたの?!」


「違うよ〜オート障壁だよ〜。

創造魔法で作った魔法なの〜魔法とか、物理攻撃とかを感知したら自動で障壁を張る魔法なの〜。前に〜アリスちゃんに掛けていたの〜何か起きてからでは〜遅いから〜。」


「自動で感知して、障壁を張る………それは凄い……たっ助かったよメルちゃん!」


魔法士が魔法を放ったアリスを取り押さえた。


取り押さえられてから、セシルは自分のしたことの重大さをわかったのか、真っ青の顔で震えていた。


アリスは、その場に、へたり込んでいた。


レナは、セシルに向かって言う。

「おっお前!なっ何をしたのかわかっているのか!

初級魔法でも殺傷力は、あるのだぞ!

人に向けて撃つのは罪だぞ!

連れて行け!」


「待ちなさい!

レナ魔法士長!待ちなさい!」


マーガレット第二王女の声が響き渡った。


「どこに連れて行くのですか?!

その子は、学園の生徒です。

学園で起きたことは、学園で処理します。」


「しっしかし、マーガレット王女様。

人に向けて魔法を打つのは、罪です。

魔法省でもそう定めております!」


「レナ魔法士長!控えなさい!

学園は、私が任されています!

学園で起きたこと、裁くのは魔法省でも、陛下でもありません!

私が然るべき対処をいたします!

レナ魔法士長。お願い。

引いてください。」


「うっ。ぐぐぐっ。わっわかりました。

お前達、その子を王女様の前へ。」


「ありがとう。レナ魔法士長。

リーナ先生。その子を理事室へ連れて行ってくださいませ。」


マーガレット王女の言葉を受け、リーナ先生がセシルを連れて出て行った。


マーガレット王女は、アリスの側に行き、頭を撫でながら言う。


「怪我はありせんね。アリスちゃん。」


「はっはい。めっメルちゃんが、障壁を知らない間に張ってくれていたみたいで、弾いてくれました。」


「ふふふっ。そう〜でも〜怖い思いをしたわね〜。

一応保健室で〜気持ちを落ち着けていらっしゃい。

魔法士の貴方。彼女を保健室へ。」


魔法士がアリスを保健室に連れて行く。


マーガレット王女がメルに言う。


「メルちゃん〜本当に〜ありがとう。

助かったわ〜。」


「マーガレットお姉ちゃん〜アリスちゃんはお友達なの〜。守るって約束したの〜。

シェリルちゃんにも掛けているの〜。

ミーアちゃんには〜学園に入る前に掛けているの〜」


シェリルとミーアがビックリしている。

ミーアが言う。

「メルちゃん〜いつかけたの〜?

全然知らないよ〜。」


「ミーアちゃんは〜学園に入る前だよ〜。

領地に遊びに行った時。

シェリルちゃんとアリスちゃんには〜

社会見学の発表のすぐ後だよ〜。

守るって言った時だよ〜。」


シェリルとミーアが顔を見合わせて、"あの時だ "と言っていた。


マーガレット王女が生徒達を集めて語り出す。


「皆さん。少しよろしいですか。

このクラスのことは、聖女ローザから注意して見ておくように言われておりました。

何故だか〜わかりますよね〜。

教会の教えの際にも、揉め事がありましたね。

聖女ローザが心配されておりました。

貴族の子と平民の子でクラスが二つに分かれてしまっていると。

いつか、問題がおきるのではないかと。

それで、リーナ先生と注意して見ていました。


皆さん。魔法は、便利な物です。

しかし、攻撃魔法は所詮、魔物退治や戦争の道具でしかありません。

それを〜しっかりと認識していただきたいのです。

決して人に向けて撃つものではないと。

戦争で、国を守る為に撃つ魔法と別物であることを認識してください。

仲間に向けて撃つものではありませんよ!

特に貴族の子達!

少し勘違いが過ぎますよ!

貴方達は、親が貴族であって、貴方達は、なんら他の民と変わりはありません!

親の爵位という服を着て、他の民を見下すような態度は改めなさい!

メルちゃんのように、友達を守る、民を治療する為に、魔法を学んでください。

メルちゃん〜貴方が〜良く言う言葉を教えてあげてください。

殺すのは?」


「殺すのは〜魔物。

人ではないの〜。殺して良いのは〜魔物だけなの。」


「そうですね〜。

メルちゃんの言う通りです〜。

皆さん〜!わかりましたね。」


マーガレット王女の説教は、子供達に届いているのか?

メルは、クラスメートを見て、貴族の子達には余り響いていないような気がしてならなかったのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


理事室で、アリスは泣き崩れていた。

怒りに任せて、魔法を放ってしまったことに、今になって自分のした事が、大罪だと認識したのだ。


マーガレット王女に、厳しく叱責され頭が真っ白になっていた。


アリスは思う。

(わっ私は、なっ何故?あれだけ怒っていたのだろう。

………嫉妬?メル様が振り向いてくれないから?

私のような最低な者に……メル様が振り向いてくれないのは…当然です。)


その時、理事室の扉が開き入ってきたのは、セシルの父親のウーゴ伯爵だった。


「おっお前は!なっなんてことをしてくれたんだ!」


セシルに叱責の言葉をぶつけるウーゴ伯爵。


「ごっごめんなさい!ごめんなさい!父様………うっうっうっ。」


「マーガレット王女様!

たっ大変申し訳ございませんでした!

レナ魔法士長から、マーガレット王女様が学園内の問題で済ませて頂いたと聞きました。

あっありがとうございます。」


「………セシルさんもまだ10歳と子供。

守るべき民です。

しかし、やったことは許されることではありません。

なので叱責はいたしました。

被害者の子供もいるのです。

ウーゴ伯爵。わかっていますか?

貴方は、一時貴族派として民に対して横暴な行動をしていました。

子供は、貴方の背中を見て育っていますよ。

貴方の影響が無かったと言い切れますか?!

貴方は、どうお考えですか?

キシリア姫の兄として、ご自分は民のリーダーとして、真っ当な姿勢を子供に見せていましたか?」


「……………誠に……申し訳ございません。

あの頃は、自分の野望ばかりでございました。しっしかし………いっ今は、………これからしっかりとセシルに真っ当な姿勢を見せていきます。」


その時、扉が開いてリーナ先生とともに、アリスとアリスに付き添ってメルが理事室に入ってきた。


マーガレット王女が言う。

「ウーゴ伯爵。被害者のアリスさんです。」


ウーゴ伯爵は、すぐさま立ち上がりアリスの前で、土下座をした。


「アリス殿!申し訳ございませんでした!

けっ怪我がなくて、よっ良かった!

しかし、セシルのやったことの償いは私が私が変わってさせて頂く!

もっ申し訳ございませんでした!」


セシルがウーゴ伯爵の隣りで同じ様に土下座をして言う。


「ごっごめんなさい!ごめんなさい!

自分が自分が貴方に対して何故あれだけの怒りを持っていたのか……今となっては……

わからないのです。ごめんなさい!ごめんなさい!」


アリスが言う。


「……お二人とも。頭を上げてください。

私は、友達が守ってくれたので怪我もしていません。

私もセシルさん。貴方に常に喧嘩腰で返していたので、怒りをぶつけられることも、理解しています。

友達のおかげで無事なのです。

もう、これで良いです。

謝罪を受け入れます。」


そう言ってアリスは、メルを見る。


メルが言う。

「………と言っても〜クラスの貴族の子達も見ています。

噂が〜立ちますよ。

なので〜アリスちゃんのご両親の耳にも入るでしょう。

ウーゴ伯爵。アリスちゃんのご両親にも謝罪は必要だと思います。

そこは、大人の責任を果たしてくださいませ。

子供同士の事は〜マーガレットお姉ちゃん〜。クラスで解決します。

アリスちゃん〜それで良いのよね〜。」


「うん。これを機会に皆が仲良くなれるようなきっかけになればと思うんだ。

メルちゃん!そうでしょう?!」


「ふふふっ。そうだね。その通りだよ〜。」


マーガレット王女が言う。

「わかりました。

リーナ先生。クラスで良く話し合ってください。

クラスで解決に至る様持っていってください。良いですね。」


「承知いたしました。」


クラスで解決する事となったのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


そして、次の日。


メルは、クラスの様子がおかしい事に気がつく。

貴族の子達、とくに女子が明らかセシル・ウーゴをハブっているのが見てとれた。


なので、メルは自然を振る舞いながらセシル・ウーゴを注意して、見ていた。

すれ違いざまに、セシルの姿を見たり、机の横を通る際にセシルを見たり気に掛けていたのだった。


そして、5時限目社会の時間を利用して、リーナ先生が話し合いの時間を持ったのだった。


「昨日、あのようなことが起きました。

しかし、あれは、クラスが二つに分かれているのに起因していると先生は考えています。

いかにして、クラスが一つに纏まることが出来るか!

それについて、皆さんの意見を聞きたいと思います。意見をお願いします。」


すると、一人の生徒が手を挙げる。

伯爵令嬢だ。セシル・ウーゴが問題を起こしてから、新たなリーダーとなった子である。


「正直、人に魔法を向ける者がこのクラスにいることが、怖くて仕方ありませんわ。

あのようなことを起こして、何故ぬけぬけとまだ授業を受けているのか気がしれませんわ!」


貴族の子達を中心に"そうだ!そうだ!"と声が上がる。


「罪ではないのですか!罪を犯した者は、学園に来るな!と言いたいですわ!」


伯爵令嬢に同調して、子爵令嬢が言う。


すると、手を挙げる者がいた。

アラン王子の従者のジョルノだった。


「リーナ先生!

この話し合いは、クラスを纏める話し合いですよね。

セシルさんを糾弾する会ではありませんよね。

では、お二人の発言は的を得ているものとは思えません!」


ジョルノの発言で、メルは拍手をして立ち上がった。


「その通りだよ!流石!ジョル君!」


すると、伯爵令嬢が言う。


「メル様!被害者のアリスさんはメル様の親友ではありませんか!

それでは、アリスさんが可哀想ですわ。」


メルが言う。

「何故?何故可哀想なの?

アリスちゃんは〜怪我してないわ〜。

私が守ったもの〜。

可哀想というなら〜可哀想なのは〜セシルさんよ〜。

貴方達〜。一体何してるの〜?

ハブるだけではなく〜貴方達つまらないことを〜セシルさんにしてるよね〜。

私〜注意してみてたのよ〜。

セシルさんの席の横を通る際に〜彼女の教科書を見たもの〜。

先生〜セシルさんの教科書。酷い落書きをされて〜いますよ〜。

筆跡鑑定すれば〜誰がしたかは〜すぐにわかると思います。

それと〜セシルさんの制服に靴の跡が付いているのは〜何故でしょう?もしかして、蹴ったりしてないでしょうね〜?」


クラスが騒然とする。

すると、リーナ先生がセシルのところに行き、教科書を確認する。


「なっなんなんですか!これは!

酷い落書きです!

それと、制服に靴の跡が付いています!

貴方達イジメをしているのですか!」


リーナ先生が凄い剣幕で言う。


するとアリスが言う。


「……なっなんなんですか!

本当に!本当に貴方達は影でコソコソと!

卑怯極まりない!

セシルさんは、昨日ちゃんと謝罪してくれました!

家まできて、両親にも!

セシルさんと私は、入学からぶつかり合ってきました!

セシルさんは、貴方達みたいに影で隠れてするような卑怯なことは、しませんでしたよ!

貴方達のほうが怖いです!」


伯爵令嬢や貴族の子達は、誰もが知らぬ存ぜずの態度を取り出したのだった。


この日は、話し合いどころではなくなったのだった。

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