第19話 お嬢様は、無双する。
入学式から一週間が経った。
今日から本格的に授業が始まる。
この一週間は、学園内の各施設の見学や説明、自己紹介など学園に慣れることを優先された形になっていたのだ。
白馬車が馬車のロータリーに止まる。
メルとミーアが降りてくる。
しかし少し様子が違った。
「爺行ってきますね〜
ミーアちゃん〜少し急がないと〜
まさか〜ミーアちゃんの家の前で〜ミレーネお姉ちゃんに捕まるとは〜思わなかったよ〜。」
「でも〜メルちゃん〜放課後〜店にクッキーとケーキ食べにおいでって〜。
楽しみだよ〜。」
「まあ〜クッキーと〜ケーキは嬉しいけど〜遅刻は〜ダメなの〜!」
メルとミーアは駆けた。
なんとか、間に合って教室に駆け込む。
すると、アラン王子が沢山の女子に囲まれていた。
アランがトーア国の王子だと知るとクラスの貴族の女子がアピールしだしたのだ。
これがいつもの光景になりつつあった。
「あっ!ミーアちゃん〜いつもの後ろの席空いてるよ〜。遅いから〜空いてないと思ったのに〜人気ないのかな〜?」
「そうだね〜見晴らしいいのにね〜」
実はこの席。皆がわざと開けているのだ。
メルが好んでその席に座っているので、いつしかメルの席として、クラスの共通認識となっていたのだった。
そんなこと、メルとミーアは知らないが。
囲まれているアランの横を通り抜け席に着こうとしたメルにジョルノが声を掛ける。
「メル様、ミーア嬢おはようございます!」
「「ジョル君おはよう〜!」」
メルとミーアは挨拶した。
そして、席につく。
すると、リーナ先生が来て言う。
「さあさあ!席に付いてください!」
アランの元から女子がパッと離れる。
それを見たメルは、思わず笑う。
メルは、思っていた。
(王子だとわかってから〜皆んな必死だね〜
10歳で婚活ですか〜なんか〜馬鹿みたい〜。)
メルは、それが毎日可笑しくてしょうがないのだ。
アランがジョルノに言う。
「……今日もメルに挨拶出来なかった…」
「私は、しましたよ。お二人とも今日もお綺麗でした〜!」
「なっ!何を言って「どうしましたか?アランさん。」
アランはジョルノに八つ当たりしようとした時、リーナ先生に言葉を打ち消されたのだ。
「いっいえ。何もありません。」
「そうですか。
はい!皆さん!今週から本格的にお勉強していきますよ。
気持ちを入れ替えてください!
そして、頑張って学んでください!
いいですね!」
メルは大きな声で返事する。
「はっい!頑張ります!」
「あらあら。頑張るのは、フォスターさんだけですか?
皆さん頑張ってくださいね!」
「「「「「「「はい!」」」」」」」
メル以外の生徒も大きな声で返事したのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
1限目が始まる。
教室の扉が開けられ、ローブ姿の大人が颯爽と複数人入ってきた。
一気に貴族の女子がキャア〜と黄色い声を上げる。
メルは、思う。
(何?何なの〜?ただの宮廷魔法士だよね〜。あっ!レナおばちゃんだ!)
宮廷魔法士が黒板の前に等間隔で整列し、
教壇にレナが立った。
「皆さん!おはよう!
我らは、宮廷魔法士だ。
私は、宮廷魔法士長のレナだ。
元勇者パーティの魔法士レナと言ったほうが、挨拶になるかな?!
これから、週に一度魔法を教えに来る。
魔法学担当の宮廷魔法士だ。よろしく頼む。
魔法は、真剣に取り組めば必ず使えるようになる。
共に魔法を勉強していこう!」
すると、一人の生徒が手を挙げる。
「うん?質問か?!
では、君どうぞ!」
「はい!私は、セシル・ウーゴ。
魔法省を担当しているウーゴ伯爵の娘でございます。
私は、幼き頃から父の仕事の関係で魔法に近いところで育ってきました。
ひとつ、疑問がございます。
貴族の子供は、学園に入学するまでに、それなりに魔法について習っております。
平民に魔法学が必要なのでしょうか?
ふふふっ。平民の方には、魔法を扱うほどの魔力があるのかもわからないレベル。
いくら、学園が平等に学ぶ場と言っても、すでにスタートから違うのではないのでしょうか?」
例のセシル・ウーゴが同じクラスにいるのだ。
ラムザ王子の婚儀パーティで、ミーアを見下し男爵の娘に魔法をミーアに向けて撃つよう仕向けたあの、セシル・ウーゴだ。
ミーアが、小声でメルに言う。
「うわぁ〜又だよ〜。」
セシル・ウーゴは、何かにつけ平民、貴族という区別をしたがるのだ。
すると、席の一番前に座っていた女子が手を挙げる。
「アリスと申します。貴族の子は、頭がお悪い方ばかりなのでしょうか?
魔力のない人間なんていません。魔法学で魔法陣の仕組み、詠唱を教われば平民、貴族関係なく魔法は使えると思います!
貴族の子が特別と言う物言いはおかしいと思います。」
「頭が悪いですって!失礼な!」
ウーゴ・セシルが言い返そうとしたところで、レナが手で制する。そして、言った。
「……失礼なことを言ったのは、ウーゴさん。其方だぞ。
アリスさんの言う通りだ。
この世に魔力のない者などいない。
まあ、魔力の総量には差があるがな。
しかし、皆生きて行く為に必要な魔力はあるのだ。人の活力みたいな物だからな。
魔法学で魔法陣を理解し、詠唱も覚えれば必ず卒業までに初級魔法は使えるようになる。
中級魔法を使えるようになるかと言えば、それはなかなか難しいがな!
卒業する頃に中級魔法が使える者は殆んどいない。
居たら、宮廷魔法士の道が開ける。
では、聞くぞ!
今、初級魔法を使える者は、どれだけいる?
手を挙げろ!」
数人が手を挙げる。
メルとミーアも手を挙げる。
セシル・ウーゴも鼻高々に手を挙げている。
「では、中級を使える者は?」
メル以外が手を下げる。
メルは、必死に手を挙げる。
「今、初級魔法が使えるとしても、卒業する頃何人が中級に辿りつけているかな?
多分殆んどいないだろう。
それだけ、初級から中級に移るのは難しいんだ!だから、今魔法を使えなくても、すぐに追いつく。初級魔法が使えるからと言って、調子に乗らないほうがいい。」
その時メルが、手を挙げたまま、立ち上がる。
「レナおばちゃん〜!
私〜さっきから〜ずっと手を挙げているよ〜中級魔法使えるって〜
なんで〜無視してるの〜!
意地悪してるの〜!」
レナは、焦って言う。
「あわわわわ。めっメルちゃん!
意地悪なんてしてないよ。
めっメルちゃん!おばちゃん今、凄い良い話をしてるんだ。めっメルちゃんが中級魔法を無詠唱で使えるの知ってるし!」
「中級魔法〜だけじゃないもん!
上級魔法も無詠唱で〜使えるもん!
それに〜創造魔法で〜上級魔法なんて霞むような魔法を沢山作ってるもん!
中級魔法くらいで、宮廷魔法士になれるって余りにもレベルが低すぎでしょ〜
母様がいつも〜言ってるもの〜
宮廷魔法士で上級魔法使えるの〜レナおばちゃんだけって〜情けないって〜
そんなことで〜国を守れるのかしら〜って。」
「めっメルちゃん!ごめん!無視してごめん!もう勘弁してあげて〜。
おばちゃんの部下が死にそうな顔になってるから〜」
アランは、呟く。
「メルは、やっぱり素晴らしい女性だ。
上級魔法にとどまらず、創造魔法も!
やはり嫁に嫁にきてもらわねば!」
その横でジョルノは思う。
(アラン王子〜。無理無理。レベルが違いすぎる!)
魔法士は落ち込んでいたが、レナが後ろを見て喝をいれた。
そして、レナは語りだす。
「……おっほん。
えっと。話はそれたが、魔法は皆に可能性があるということだ。
それで、今日は、最初の魔法学と言うことで
魔道具を持ってきた。
皆の魔力量と、どの属性に適正があるのか?
それを、調べてやる。
魔道具は、三つある。
それでは、速やかにそれぞれに並べ!
順番に調べてやる。」
一斉に列に並ぶクラスメート。
魔道具は、水晶タイプの物だった。
輝く色で、属性適正を見るのだ。
魔力量は、光量で判定する。
セシル・ウーゴは、風と火と水の三属性に適正があった。
鼻高々に満足気にしていた。
ミーアの番になる。
「おっ!キャスバルのとこの!
よし!水晶に手を翳して力を込めて見ろ。」
ミーアは、レナに言われた通り、手を翳して力を込めた。
「ほう!凄いな!火と風、水、雷!
4属性だ!特に火が強い!
魔力量もそこそこあるな!
鍛治の手伝いしてるだけあるな!
凄いぞ!」
ミーアは、火が強いと言われたことがとても嬉しかったのだ。鍛治に火は必要不可欠だからだ。
次は、メルの番だ。すると、レナが言う。
「えっ!メルちゃんもするの!
めっメルちゃんはしなくてもいいでしょう!
いっ今更でしょう!」
「あっ!また〜レナおばちゃん意地悪する〜
平等!平等にして〜!
マーガレットお姉ちゃんに言い付けるよ〜!」
「うぐぐぐぐ。めっメルちゃん!
魔力を込めすぎたらダメだからね!
メルちゃんの魔力凄いんだから!
わっわかってる!
聞いてる!ね!メルちゃん!聞いてる!
おい、お前ら皆で魔道具を抑えろ!いいな!メルちゃん!優しく優しくだよ!」
「うるさいな〜。魔力を抑える指輪してるから〜大丈夫だよ〜。
それじゃあ行くよ〜!」
メルは水晶に手を翳す。
水晶が七色に光輝き、眩い光が教室に広がる。
魔法士達が腰を抜かす。
「めっメルちゃん!ストップ!ストップ!
お願い!魔道具が潰れてしまう!やめて〜!」
「もう!レナおばちゃん〜!うるさいな〜。
まだ全然魔力込めてないのに〜」
「メルちゃん〜もう勘弁して〜!」
メルは、プリプリしながら手を翳すのをやめた。
「で、どうなの?」
「なっ何が?」
「レナおばちゃん〜!結果!結果だよ!」
「あっああ。結果か。
属性は、全て。虹色に輝くなんて初めて見たわよ!
魔力量は、測定不能。」
「それって〜すっごいってこと〜?」
「……すっごいってことよ。」
メルは、ミーアに笑顔で言う。
「ミーアちゃん〜!私も〜すっごいんだって〜ヤッタ〜!」
「メルちゃん〜良かったね〜適正も沢山だし〜!」
ミーアとメルは、抱き合って喜んでいた。
レナは、思う。
(メルちゃんの友達だけあって、キャスバルの娘もぶっ飛んでんなぁ。
ああ、なんか疲れた〜。)
メルに翻弄されるレナであった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
二時限目は、剣術だった。
訓練所に移動しての授業だ。
訓練所に入ると、5人の屈強な体格の男が居た。
「俺達が、お前達に剣術を教える冒険者チーム虎の爪だ!
ランクは、Aランクだ!
俺達は、貴族の子供だろうが関係ねえ!
誰でも、真面目にしない奴は叩きのめす!
良いな!
まあ、今日は挨拶がわりだ!
俺達と剣を交えてみたい者は居るか!
相手してやる!
手を挙げろ!」
すると、メルは手を挙げてぴょんぴょん跳ねていた。
他は、誰も手を挙げない。
「ほう!可愛いお嬢ちゃん!
やる気か!
模擬戦やったことあるのか?」
「はい!たまに〜父様と〜模擬戦してるの〜。魔物だって狩ったことあるんだよ〜」
「何の魔物だ?」
「えっとね〜5メートル以上あるボアだよ〜」
「ハハハッ!5メートルのボアか。
こりゃまた大きく出たな。よし、良いだろう!おい!軽く相手してやれ!」
クラスメートが離れて見る。
メルは、模擬戦用の刃を潰したロングソードを持つ。
「それでは!始め!」
メルは、瞬歩で一瞬で教官に寄る。
そして、左斜め下から右上にロングソードを振る。
教官のロングソードにわざとロングソードをぶつけた!
教官は驚愕し、声を上げようとする。
「ちょっ、ちょっ」
メルは、ぶつけたロングソードを支点として、横にクルっと回る。そして、回転した勢いを利用してロングソードをもう一回ぶつける。
教官のロングソードが跳ね上がり、腕が伸び切りロングソードを手放してしまう。
そして、メルは、教官を袈裟斬りにしようとして、ロングソードを寸止めで止めた。
教官は、その場で尻餅をついた。
唖然としている教官達。
「あっあの。お嬢さん。名前を教えていただいても?」
「メルル・フォン・フォスターです〜!
なんで〜?」
「ゆっ勇者ケインの娘!
ボアは!何処で狩ったのです?!」
「黒き森だよ〜ちょっと前まで〜住んでたの〜!」
「ぼっボアは、ボアでもグレートビッグボア!……ははは。」
教官だけではなく、クラスメートも唖然としていた。
ミーアは別として。
ミーアは、メルに抱きつき言う。
「メルちゃん〜凄い凄い!
凄くカッコよかったよ〜。」
「ミーアちゃん〜そこは、とても綺麗だったに〜ならない?ふふふっ。」
ミーアとメルの笑い声だけが響く訓練所だった。
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