第3章 学園編
第18話 お嬢様は入学する。
春の陽射しと優しい風の中を、フォスター家の白馬と白馬車が優雅に進んでいく。
貴族街から商業街へ、そして職人街に入る。
この道のりは、メルも見慣れた風景だった。
そして、いつもの三本煙突のキャスバル鍛治屋の前に白馬車は、停車する。
キャスバル鍛治屋の前には、学園の紺色のブレザーにスカート。制服姿のミーアと綺麗な服を着たシンとエルサが待っていた。
「ミーアちゃん〜。おはよう〜!
早く〜乗りなよ〜!」
「おはよう〜!メルちゃん!」
ミーア達が馬車に乗り込み、馬車が動き出す。
「ケイン様。私とエルサの服まで。
ありがとうございます。」
「ハハハッ!何言ってんだよ!
気にすんな!気にすんなって!
ミーアの晴れ舞台だ!
娘の晴れ舞台イコール親の晴れ舞台でもあるんだ!
な!だから、気にすんな!家族みたいなもんなんだからよ!」
「ありがとうございます!」
「ミーアちゃん〜同じクラスに〜慣れたら〜いいな〜。
ミーアちゃんと〜同じクラスになれないと〜私〜ひとりぼっちだよ〜。」
メルは項垂れる。
「メルちゃん〜私もだよ〜。
ていうか〜メルちゃんは〜周りが〜ほっとかないから良いよ〜
メルちゃんと一緒のクラスになれないと〜ひとりぼっちは〜私だよ〜。」
すると、ローザが言う。
「ふふふっ。きっと〜メルちゃんとミーアちゃんは〜同じクラスよ〜。
そんな予感がするの〜
メルちゃん〜母様の予感は〜的中率100%よ〜
だから〜二人とも〜安心なさい〜。」
メルとミーアは、少し気が楽になったのだ。
実は、メルとミーアはローザの言う通り同じクラスなのだ。
ローザが、学園の理事を務めている自身の妹、王国第二王女マーガレットに根回ししていたのだ。
メルとミーアを同じクラスにすること。
トーアのアラン王子も同様に。
ローザは、親馬鹿である。
メルが、快適に学園生活を送れるようにしっかりと根回ししていたのだ。
権力を使うところは、しっかり使う、ズルいローザなのだ。
職人街を抜け、先の橋を渡ると雰囲気が一変する。
職人達の声と活気で賑やかな職人街から打って変わり、とても落ち着いた雰囲気が街に溢れていた。
カフェやレストランもあるが、賑やかさはなくお客様の姿も見えなかった。
何故なら、このカフェとレストランは学園の学生の為の物であり、今日は入学式ということで、他の学年は休日であり、店自体、店休日となっていたのだ。
だから、余計に静けさだけが目立っていたのだ。
正面に、城を思わすような建物が見える。
これが学園なのだ。
学園の正門を前にして、左に馬車が曲がる。
馬車のロータリーになっていた。
ここで乗り降りするようだ。
沢山の馬車が止まる中、フォスター家の白馬と白馬車も停車する。
一斉に皆の視線がフォスター家の白馬車に注がれる。
そこから、メルとミーアは降り立った。
続いてミーアの両親、メルの両親が降り立つ。
周りから歓声が上がる。
メルとミーアは、手を繋いで歩きだす。
二人は、周囲の視線など気にも止めていない。
ミーアもメルとお友達になってから、このような視線を受けてきて、慣れてきているのだ。
学園の正門前で、二人は立ち止まり後ろを振り返る。
ローザが言う。
「さあ〜行ってきなさい〜あそこでクラスの発表がされているわ〜母様達は、先に会場に行ってるからね〜」
メルとミーアは、笑顔で手を振ってクラス発表を見に行くのだった。
「ミーアちゃん〜いよいよだよ〜。」
「あ〜!ドキドキするよ〜。」
すると、メルに話し掛ける者がいた。
アラン王子だった。
「メル!何をしているんだ?
あっ!メル!よろしく頼む!同じAクラスだ!」
メルは、唖然としてから言う。
「………王子〜!なんで〜言ってしまうの〜!こういうのって〜どこに〜名前があるか〜ドキドキして〜見るものでしょう!
もう〜信じられない!」
ミーアが言う。
「メルちゃん〜じゃあ〜私の名前〜一緒にさがして〜メルちゃん〜Aクラスかぁ!
私も〜是非!Aクラスに!お願い〜!」
メルとミーアは、見に行く。
すぐに喜びの声が上がる。
「ミーアちゃん!Aだよ!うん!私の〜名前もある!同じクラスだよ〜!
良かった〜!」
「きゃあ〜ヤッター!5年間一緒だ〜!
メルちゃん〜ヤッター!」
クラスは、五年間固定されるのだ。
二人が抱き合って喜んでいるところに、再度アラン王子がやってくる。
「メル!紹介する。
私とともに、トーア国から留学してきた、
ジョルノだ。宰相の息子だ!」
「ジョルノ君〜言いにくいなぁ〜ジョル君でも良い〜?ジョル君〜私〜覚えてる〜?
トーアに行ったんだよ〜。」
「メル様。ジョルと父母にも呼ばれています!それで結構です。
当然覚えていますよ!
トーアで、メル様を知らない者は居ません!
トーアの救世主様ですから!」
「ふふふっ。あっ。
私も紹介するね〜私の親友ミーアちゃんです。
同じAクラスだよ〜。ミーアちゃん〜。
トーア国のアラン王子と〜宰相の御子息のジョル君だって。」
「わわわわわ。みっミーア・キャスバルです〜。よっよろしくお願いします!
めっメルちゃん!いきなり、トーアの王子様と宰相の御子息!きっ緊張するよ〜。」
ジョルノが言う。
「よろしくお願いします。ミーア嬢。
いやいや、緊張など不要ですよ。
なんにも偉くも何もないですから。
私は。
王子は、まあ、王子ですから……ですけど。
でも、王子もそんなことに余りこだわりをお持ちでないですから普通に接していただけると嬉しいです。」
と言ってニコっと微笑んだ。
ミーアは少し気が楽になった。
周りを見ると新入生の姿がほぼ無くなっていた。
皆会場に入ったのだ。
「ねえ〜急いで〜!ジョル君!ミーアちゃん!皆んな会場に入ったよ〜。
私達も〜急がないと。」
アランは、自分だけメルに呼ばれていないことが気になって、ぼ〜っとしていた。
「何してるの〜!アラン王子!遅れるよ〜!
置いていくよ〜!」
「おっ!おう!急ごう!」
メル達は、急いだのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
式は、淡々と進行していく。
そして、学園理事の祝いの言葉となった。
王国第二王女マーガレットが、壇上に上がる。
すると、メルの声が会場に響き渡る。
「あっ!マーガレットお姉ちゃんだ〜!
マーガレットお姉ちゃん〜!
とても綺麗〜!」
メルは、立ち上がり手を振る。
すると、マーガレット王女は壇上からメルの姿を見つける。
優しくメルに向かって微笑み、手を振る。
そして、語りだす。
「ふふふっ。
皆さん〜。ご入学おめでとうございます。
学園は〜皆さんを歓迎いたします。
これから、皆さんは〜色んなことを学んでいくわけですが〜。
私は、この学園の五年間で皆さんに是非していただきたいことがあります。
是非、この五年間で親友と呼べる友達を作って下さい。
学園で、得た友は、一生の友達となります。
共に喜び、時には共に怒り、そして悲しみも共有し、そして、共に笑い過ごした学生生活が皆さんの宝となることでしょう。
皆さんのご活躍を期待しております!
皆さん頑張ってね。」
拍手が鳴り響く。
メルは、言う。
「マーガレットお姉ちゃん〜とっても〜綺麗な〜お声〜。素敵だわ〜。
母様も〜マーガレットお姉ちゃんも〜
綺麗だし〜声も綺麗。
羨ましいわ〜。」
この声は、拍手でかき消されたが、メルは、わかっていない。
メルも、ローザとマーガレットに負けていないことを。
ローザの子なのだから。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
メル達は、その後教室に行った。
教室の席は、前列から後列にかけて段々に高くなっていた。
自由に座っていいとのことなので、メルとミーアは、一番後列に座ることにした。
階段を登り、一番後ろの席に座った。
父兄が一番後ろの席の後ろに立つ。
担任の先生が入ってきた。
女性の綺麗な先生だった。
「はい!皆さん、先生の名前はリーナと言います。よろしくお願いしますね。
五年間、クラス替えはありません。
なので、皆さん仲良くしましょうね。
それでは、ご父兄の皆様。
少しお話しをさせて頂きます。
このクラスだけではありませんが、このクラスは特に、他国の王子に他国の大臣の御子息、そして王国公爵令嬢と、王族と王族に近しいお子様がいらっしゃいます。
しかし学園では、そのような肩書きは無いものと思って頂きたいのです。
当学園は、皆が平等に学ぶ場でございます。
そこに、王族、上級貴族、平民は関係ありません。
時には、ぶつかり合うこともあるでしょう。
そんな時に、王族だからと、上級貴族だからと忖度は学園はいたしません。
そこは、しっかりと頭に入れて置いて頂きたいのです。
誠に恐縮ではございますが、代表してお返事を頂きたいと思います。
フォスター公爵様、聖女ローザ様。お答えいただけますでしょうか?」
「ハハハッ!それで構わない!権力を振りかざすことはしない。」
「私は、学園の考えを〜支持しますわ〜
教会の教え、平等の社会。学園の考えに異論はありません。」
「ありがとうございます。
フォスター公爵様と聖女ローザ様に代表としてお答え頂きました。
これ以上ないお答えとなりました。
ありがとうございます。
さあ、子供達〜。明日から楽しく学んでいきましょう!」
その頃、理事室では、マーガレット王女が、優雅にお茶を飲みながら考えていた。
(ふふふっ。メルちゃんったら〜。
本当に可愛いわ〜。
天真爛漫なんだから〜。
ふふふっ。
メルちゃんの成長を〜見れるのは〜嬉しいことですわ〜。
ふふふっ。どんなお友達を作るのかしら〜?
楽しみだわ〜)
メルのことが大好きなマーガレット王女であった。
学園は忖度しないという話だったが、メルとミーアを同じクラスにしたのも全てマーガレット王女である。
忖度しまくりのマーガレット王女であった。
メルが可愛くてしょうがないのである。
なので、それは忖度ではなく、愛だとマーガレット王女は、ひとりで納得していたのだった。
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