第16話 お嬢様は光

爺は、夜遅くに帰ってきた。

メルは当然寝ていた。


「旦那様。遅くなりました。

帝国に潜入している"クイーン" "ジャック"と情報の擦り合わせを行なっておりました。

と言うのも邪神教というのが、帝国にある邪神教と同様の物かどうかの確認が必要と感じたからです。

まず結果から申し上げます。

今回の呪術問題、帝国が動いたものです。

邪神教のガーラは、呪殺のガーラと呼ばれている邪神教のリーダー的存在であります。」


「ほう!帝国か!

何故?帝国が、自国に面していないトーア国に、チョッカイをかけた?」


「はい。"クイーン" "ジャック"が言うには、帝国の狙いは、最終的に王国です。

王国を落とす為の布石として、王国を包囲しようと企てているのです。

帝国とマール共和国が頻繁に密書を交わしているのは、すでに報告しているとおりでございます。

そして、昨年、王国の西側に面しているグリーン公国には、帝国第三皇女が嫁いでいます。

トーアを取れば王国は北からマール共和国、南から帝国、西からグリーン公国、東からトーア国と四方から、攻撃されることになるのです。」


「何故トーア国なんだ?隣りのラトリシアでも良かったのではないのか?ラトリシアなら帝国とも面しているではないか?」


「ラトリシアと王国は友好国です。

ラトリシアにチョッカイを掛けると当然王国が出張ることになります。

帝国は、王国に対して秘密裏に動きたいのです。

トーアは、現王の施策で他国との関係を絶っている鎖国状態の国。

帝国にとって、こんな都合の良い国はありません!

トーアを取れば、王国への包囲網は完成し、トーアとシェールに挟まれたラトリシアなどすぐに潰せるのですから。」


「そうか!シェール国にも確か帝国第一皇女が嫁いだんだったか!

ふん!なかなか考えやがる!

まあ、トーアは取らせんがな!」


「恐らく、四方から同時侵攻をしたいのでしょうな。

勇者パーティを恐れていますので。」


「ふん!四方から来たところで!

うちには、隠し玉があるんだ!

メルに四箇所同時に魔法を打ち込ませたら良い話だ!恐るに足らんわ!

まあ、裏で帝国が動いているのはわかった!

それで実際トーア国は、どうだった!?」


「はい。王都もその他町も、壊滅状態でした。

町には、無気力に倒れている民で溢れていました。

それと、奥様の言う通りでございました。

トーア国の四角に呪具を見つけました。

そして、王都の四角にも呪具がありました。

王都のほぼ真ん中に、邪神教の建物があり、そこに呪殺のガーラがいます。


あっ!それと旦那様!もうひとつ、ご報告が。

帝国が今回強気に王国に対して仕掛けて来ているのは、勇者を召喚したからだということです。

邪神教の召喚のリリアナと闇のルリアナと言う二人が異世界から勇者を召喚したらしいのです。

皇帝が勇者には、勇者を!と息巻いているようです。」


「……しょっ召喚だって?異世界?勇者を?

なんだそりゃ?

俺は、召喚などされてないぞ!

王国生まれ王国育ちだ!

勇者は、勇気を持って何かを成し遂げたものが勇者だろうが!

異世界?訳わからん!」


「"クイーン"が見ていたのですが、確かに異空間らしきところから、出てきたと。

それと、"クイーン" "ジャック"ともに同意見なのですが、呪殺のガーラより、召喚のリリアナ、闇のルリアナのほうが、不気味だと。

何かしらの能力を持っているだろうとのことです。」


「ふ〜ん。まあ、取り敢えずトーア国を救うことを考えるか。爺も同行頼む。

明日出るぞ。

爺は、ローザとメル、サイラス、シャドウを城まで馬車で送り、その後呪具の破壊。

俺は、ガーラを始末する!

いいな!」


「承知いたしました!」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


翌日、朝食を終えてメルはトーアに行くことになった。


ミーアとネネは心配そうにしていたが、メルは笑いながら、


「ふふふっ。ミーアちゃん〜ネネちゃん〜。

大丈夫だよ〜。

父様も母様も〜居るし〜。

明日には、帰れるだろうから〜帰ってきたら〜また遊ぼうね〜。」


なんとも、気楽な雰囲気のメルであった。


そして、今馬車の中である。


トーアとの国境付近にやってきた。

王国側には兵士が立っていた。


すぐそこにトーア側があるが兵士は立って居ない。


素通りで、トーア国に入ったのだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ここは、トーアの王城の一室。


ベッドの上で、無気力に天井を見つめる少年が居た。

王子の息子のアラン王子だった。

歳は、10歳。

無気力に天井を見つめる少年には、左腕と右足が無かった。

呪いで、腐り落ちたのだ。

顔も体も黒い痣が広がり、痩せ細り、今にも命の灯火が消えそうなくらい弱々しく見えた。


実際、長い闘病生活で、右足と左腕を無くした今、前向きになれというのは、とても酷な話である。


アランは、もう自暴自棄になっていた。もう、いつ死んでも構わない。

いや、いっそのこと明日目覚めないで欲しいと願った。

せめて、寝ている間に死にたいと。

出来るだけ苦しまないで逝きたいと。


アラン王子は、そう思いながら天井を見つめていた。

視界が、ぼやけていく。

そして、涙が溢れたのだ。

アラン王子は、知らない。

直ぐそばまで、光が来ていることを。

メルという、この先何十年と輝く光がすぐそばまで来ていることを。

この時は、まだアラン王子は絶望の淵に立っていたのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


王都が見えてきた。


ケインは馬車を止めるように言った。


「爺!門番は、邪神教の奴らだろ?

俺が、行って蹴散らしてくる。

門が空いたら全速力で馬車を走らせるんだ!

兎に角王城まで!

良いな!」


「はい!承知しました。旦那様。」


ケインは、駆けた。

瞬歩を使ってあっという間に門までやって来る。


門番をしていた邪神教の手下は、気が付いた時には、首が飛んでいた。


ケインが門を開ける。


爺が操車するフォスター家の白馬車が、勢いよく門をくぐっていく。


ケインは、それを見届けて呟く。


「さて、久々に暴れるとするか!」


そう言うとケインは、駆けたのであった。


馬車は、スピードを落とさず城を目指す。


メルは窓から、外を眺めていた。


人々は、建物に寄り掛かるように、座っているか、倒れているか。

どの民の目にも、力は無かった。

メルは、握り締めた手をギュッと握った。

そんなメルの手を、優しく包み込むローザ。


メルは、涙が溢れそうなのを必死に耐えたのだった。


馬車が王城に着いた。停車して、メル達は降り立つ。


門番は、無気力なまま立っていた。


サイラスが門番に声を掛ける。


「王に謁見したい!

フィリア王国の者だ!

こちらは、聖女ローザ様だ!

おい!聞いているのか!

トーア国を救いにきたんだ!

お前達は、助かるんだぞ!しっかりとしろ!

王子の腕も足も元に戻る!

上級ポーションを山程持ってきたんだ!

王の元へ連れて行け!」


門番は、よろけながら王城の中にメル達を入れた。

そして、案内したのだった。


その頃、爺は呪具の破壊に動いていた。


呪具に聖水をかけて回るのだ。


今一つ目の呪具に聖水をかける。


呪具にかけた聖水は、煙をあげながら、呪具を溶かしていく。


「よし!次だ。」


爺は馬車を走らせたのだった。


その頃ケインは、王都内で邪神教の手下との戦闘になっていた。


戦闘といっても、力が違いすぎた。

邪神教の手下が威勢が良かったのは最初だけ。

次々とケインに斬り伏せられていく。


「なっなんなんだ!この化け物みたいな!力は!」


「ふん!失礼な!

呪いで民をこんな風にしている奴らに化け物と言われたくねえな!

俺が化け物なら、お前達は、なんだ?!

悪魔か?!」


ケインは、斬りふせていったのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


メル達は謁見の場に居た。


玉座に力無く座る王と王妃。



サイラスが言う。


「我らフィリア王国の者です。

こちらは、フィリア王国元第一王女で現聖女のローザ様です。

貴方達トーア国を救いに来ました!

貴方達のその黒い痣は、呪いです!

国全体に呪術が掛けられているのです。

今、呪具を破壊してまわっています。

邪神教のガーラという人物を知っているでしょう!

奴の仕業です!呪殺のガーラというのが奴の正体です!今、元勇者のケインがガーラ討伐に動いています!

貴方達は、もう救われます!」


王は、サイラスを睨みつけ言う。


「都合の良い話をしよって!

信じられるか!

ガーラの仕業?!

そんなの誰でもわかるわ!あんな堂々とトーア国が、もうすぐ手に入ると言っておるのだからな!

我は二度と騙されない!

都合の良いことを言う奴らは、敵じゃ!

帰れ!」


トーア国の国王は、疑心暗鬼に陥っているのだ。


サイラスが言う。


「国王!疑心暗鬼に陥るのは、わかる!

しかし、今ここで我らを受け入れないと国が滅びるぞ!

我らは、純粋に貴方達トーア国を救いにきたのだ!

トーアに住んでいた者が王国に流れてきて、トーアの現状を知った!

その者達は、聖女ローザとその娘メル嬢の神聖魔法によって解呪され、痣もなくなり健康体を取り戻した!

我らを信じろ!

ガーラみたいな外道とは違う!

貴方は、愚王ではないはず!

呪術で苦しむまで、他国の力を借りず、国を繁栄させてきた賢王ではないか!

選択を誤るな!

噂では、王子と王子の息子が腕と足を無くしたと聞いた!

メル嬢の作った上級ポーションで、その腕と足の再生を行う!

まず、それを見て判断されよ!

我らは、嘘偽りは言わぬ!」


サイラスは、敢えて強い言葉を選んで使った。説得力という面では効果は高かった。

流石は、商業ギルド統括の交渉力といったところだった。


メル達は、王子と王子の息子の腕と足の再生を行うこととなったのだ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ケインは、王都の中心にある建物の前に居た。


なんとも趣味の悪い建物だった。

建物の前には魔物のような像が置かれていた。

「なんだこの像は?禍々しい気配を感じる。

これも呪具なんじゃないのか?」


すると背後から声がする。


「旦那様。それにも聖水を掛けておきます。」


爺だった。爺の周りには執事服を来た男が3人。爺の部下だった。


「爺!破壊は?終わったのか?」


「はい。お嬢様に余分にデスペルの腕輪を作って頂いておりましたので、部下を使うことができました。」


「そうか!それは良かった!俺は、今からガーラを斬ってくる!手下は全て片付けた!

じゃあ!爺その像の破壊も頼んだ!」


ケインは、建物の中に入っていった。


爺は、像に聖水を掛ける。

やはり、呪具の類いだったようだ。

聖水を掛けると煙を吐いて溶けていったのだった。


ケインは、建物の2階の一番奥の、いかにもここに居ますよというような、豪華な扉の前に立ち、黒刀マサムネを抜いて袈裟斬りした。

そして、扉を蹴り破った。


すると、でっぷりと肥えた男が呆気に取られた表情でケインを見て言った。


「クセモノ!

おい!クセモノだ!斬れ斬れ!」


「お前の手下は、全て斬ったぜ!後は、お前だけだ。」


「うぐぐぐぐ。お前に良い話を!

ワシは、帝国の皇帝に顔がきく!

お前を帝国に帝国の騎士に登用するよう言ってやる!良い話だろう?」


その瞬間、ガーラの首が飛んだ。


そしてケインが言う。


「どこが、良い話だ!

王国公爵の俺が、なんで帝国の騎士をするんだ!格が落ちてんじゃねえかよ!

まあ、もう聞こえてねえだろうがな!」


爺がやって来た。


「爺!この首、帝国の皇帝にプレゼントしてやれ!」


「承知いたしました。」


「さてと、ローザとメルの元に行くか。」


ガーラの討伐は、呆気ないものだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



王子と王子の息子が寝かされている部屋にメル達は入る。


王子と王子の息子は、まるでメル達が来たことにも気がついていないかのように、無気力に天井を見つめているだけだった。


「母様〜魔力を供給したほうが良いの〜。

それと〜ポーションを患部に掛けると同時に服用もしたほうが良いの〜。

内臓系もそれで、治せるから〜。」


「メルちゃん〜わかったわ〜。そしたら、メルちゃんとシャドウは〜王子の息子さんを!

私とサイラスは〜王子を!」


メルとシャドウは、王子の息子、アラン王子の元に行った。


シャドウが、アランを抱き起こす。

メルは、片手をアランに翳し魔力を供給する。

アランの体が一瞬ビクッ動いた。

魔力供給が始まったのだ。


メルはもう片方の手でポーションを無くした左腕と右足に掛けていく。


シャドウは、抱き抱えながらポーションを飲ませていく。


メルは、アランに声を掛ける。


「ゆっくり〜ゆっくりで良いから〜。

少しずつ、飲んで〜!

魔力が溜まれば腕と足の再生に魔力が動き出すから〜。」


すると、左腕と右足が輝き出す。


眩い光に包まれる。

アランは、あまりの眩しさに目を細めた。


アランは、細めた目を思わず見開いた。

無くした左腕と右足が復活していたのだ。


アランは、目をパチパチ開けたり閉めたりビックリしていた。


そして、メルが微笑みながら言う。


「腕と足〜復活したよ!

良かったね〜!後で〜呪いも〜解くから〜ね。又、前の生活に戻れるから〜ふふふっ。」


アランは、メルの笑顔が眩しく感じた。

アランの心に、光が差した瞬間だった。

アランは、メルという光に出会ったのだった。



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応援ありがとうございます!

こちらは、リニューアル版です。

内容は変わりませんが、表現を変えて、加筆を加えたものとなります。


明日から、第二章のはじまりです。

これからも引き続きよろしくお願いいたします!


今、メルが成長した物語も投稿中です。


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