第15話 お嬢様は妹が出来る

ケインは、ネネの父様と母様に話を聞いた。


「私はシンと申します。妻のルリです。

トーア国に住んでおりました。

一年前に、突然この黒い痣が出てきました。

一番最初に発症したのが、トーア国の王族でした。

ある時、邪神教のガーラという男が現れ、王と王妃の痣を取り除きました。


王は、ガーラを手厚く国に迎えました。

すると、数ヶ月もしない間にすぐに又発症したのです。

特に王子と王子の息子様の容態が酷く、片腕、片足が腐り果て失ってしまいました。


又、民も同様で、痣が広がり、働く意欲も湧かない、無気力状態になりました。


邪神教のガーラは、何もせずに利を貪るだけ。

しまいには、いずれこのトーア国は、自分の物になると言い出しました。


トーア国は、他国に頼らないという王の施策の中やってきた弊害が訪れたのです。

国の危機に頼る国がないということです。

それで、私達は、このままトーア国に居ても野垂れ死ぬだけと考え、王国に行こうと歩みを進めました。

そして、倒れていたのをガロ様に救っていただきました。

トーア国を離れてから、体調は前と比べると良く。痣の進行も止まっているように思います。

是非、先程ケイン様が言われたように治すことができるのならば、治していただきたいです。一生をかけてお仕えいたします!

よろしくお願いします。」


「なるほどな。

よく、トーア国を抜けて王国に来てくれた!

お前達が王国に来なかったら、トーア国は本当に、その邪神教のガーラとかいう奴に乗っ取られるところだった。

………安心しろ!お前達は、必ず治す!

そして、トーア国に行って邪神教のガーラを討つ。

国の民も救う!

俺達に任せろ!」


サイラスが言う。


「王子と王子の息子が片腕と片足を無くしてんのか。

ガロ!だから、メルちゃんのポーションをトーア国の王族が欲しがると言ったのか!

まあ、城に入る口実はできたな!」


ガロが言う。


「実際、トーア国は、すでに邪神教が掌握していると言っていいでしょう。

王国とトーア国との国境には、もうトーアの兵も立っていません。

国全体がもう、無気力状態になっていると推測できます。」


「まあ、取り敢えず、ローザとメルの帰りを待とう!二人の診断次第だ。

その後、爺にトーア国を探って貰うって流れで良いだろう。」


ガロとサイラスは頷いたのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



夕方、メル達は屋敷に着いた。

しかしメルとミーアとローザは、湖のほとりを散策していた。爺が付いていた。


屋敷に入るシャドウとジルとエルサ。


「おお!帰って来たか!うん?

ローザとメルとミーアは?」


シャドウがケインに答える。


「湖のほとりを散策中です。

爺がついてくれていますよ。」


「そうか。まあ、すぐ帰ってくるか。

ジル!どうだった?」


「はい。予想以上に、素材を無駄にした鍛治でした。

明日から指導に入ります!

あれは、鍛治師として許せません!」


「おお!そうか。

そんなに酷かったか。

まあ、しっかり休むこともしてくれよ!」


すると、メル達が帰ってきた。


すると、メルとローザがリビングに入ってくるなり、ネネの元に駆けた。


メルとローザの目の色が金色に輝く。

魔眼だ。


「母様〜この呪術〜何なの〜?

二重に掛けられているけど〜下手くそなのか〜所々〜重なりあって〜もつれたようにようになってるの〜

これは〜厄介な呪術だよ〜」


「う〜ん。そうね〜意図的に複雑にした訳では無さそうね〜。

なんか、力技って感じ〜。

メルちゃん〜書き換えは無理でも〜整頓はできるかな〜?」


「整頓してみるね〜」


メルは、手を翳した。


メルの手のひらから、光が溢れる。

ネネの体に光が入っていく。


「うん。メルちゃん〜流石〜。

だいぶ分かりやすくなったわ〜

う〜ん。腐食と壊死の呪いね〜。

メルちゃん〜解呪だけど〜

どうかな〜?」


「母様〜二つ一気に〜解呪する必要があるの〜この一番端を見て〜一つ解呪すると〜デスが発動するの〜時限式デスだよ〜

これ掛けた奴〜性格すっごい悪いよ〜。」


「なら〜儀式が必要ねえ〜

ケイン〜聖水が〜必要よ。

魔力はメルちゃんが居るから何とかなる。」


「ローザ!聖水が必要だろうと思って、サイラスに王都の教会から持ってきてもらってる。」


「そうなの〜助かるわ〜。

メルちゃん〜儀式だけど〜どうする〜?」


「母様〜。儀式は〜母様がして〜

儀式は〜苦手〜。詠唱が〜舌が回らないもん。魔法陣に魔力供給は任しといて〜。」


「メルちゃん〜詠唱したほうがやっぱり良いかな〜?

聖水あるし〜無しでも行けそうな気もするけど〜。」


「母様〜念には念を。

掛けた奴〜性格悪そうだもん。

聖水と、詠唱で〜安全に行ったほうが良いよ〜。」


「そうだね〜。

じゃあ、用意しようか。

メルちゃん、あのおじちゃんとおばちゃんの呪術の整頓もしといてくれる〜」


「はっい。わかりました〜」


メルとローザは、儀式の準備に取り掛かったのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



リビングのソファなどを取り除き、ローザが床一面に魔法陣を描く。


そして、メルが要所要所に蝋燭を立て、聖水を要所要所に撒いていく。


「それでは〜準備が〜出来たわ〜。

3人魔法陣の中に入って〜。」


ネネとシンとルリはローザに言われるがまま、魔法陣の上に立つ。


メルは、ローザを見ながら魔力供給のタイミングを計る。


ローザの雰囲気が一気に変わった。


厳かな、そして、オーラを放つような雰囲気に。


「♪舞い上がれ♪舞い上がれ♪聖なる水よ〜♪鳴り響け♪鳴り響け♪聖なる鐘よ〜♪

降り注げ♪降り注げ♪カリヨンベルの音色とともに♪染みわたれ♪染みわたれ♪溶かしつくせ♪溶かしつくせ♪邪悪なる物を。

神聖魔法デスペル!!」


ローザの最後の言葉で、メルは一気に魔力を供給した。


すると、魔法陣が一気に光輝き、魔法陣に撒いた聖水が、舞い上がる。

そして、ゴーンゴーンゴーンと厳かなカリヨンベルの音が鳴り響く。

舞い上がった聖水が霧状になり、3人の体に染み込んでいく。

数分、カリヨンベルが鳴り響いた。


そして、魔法陣に置いていた蝋燭の火がスッと消えていったのだ。


ローザが口を開く。


「終わりました〜。

メルちゃん〜ナイスタイミングでしたよ〜」


「流石!母様〜綺麗な〜詠唱でした〜」


「ローザ!メル!ご苦労様!

さあ!ネネ!見てごらん!」


ケインは、手鏡をネネに渡した。


ネネは、恐々、手鏡を見る。


「あっ………うぐっ…きっ綺麗に……綺麗になってる……うっうっう…え〜ん…」


ケインは、ネネの頭を撫でる。

すると、シンとルリがネネを抱き締める。


シンが言う。


「ありがとうございました!ローザ様、メルお嬢様!そして、ケイン様!」


メルが言う。


「内臓系も痛んでいるの〜。

このポーションを落ち着いたら〜

必ず3人飲み干してくださいね〜

それで完治です!」


「ありがとうございます!ありがとうございます!」


ケインが言う。


「そしたら、皆夕食を食べよう!

シン、ルリ、ネネ!お前達も!

夕食後、ローザ、メル。

話を聞かせてくれ!」


ネネ達は、ローザとメルによって、救われたのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



皆で夕食を頂いた後、リビングでメルとローザは、ケインからの質問に答えていた。


「じゃあ、間違いなくトーア国は国全体を呪術に掛けられてるということでいいんだな。

となると、かなりの高レベルの呪術者ということか!」


「父様〜そんなことないよ〜腕自体は〜大した事ないの〜腐食と壊死の呪いだもん。

どっちかというと〜中級にも満たない呪いだよ〜。

今回蔓延しているのは〜やっぱり閉ざされた国だった〜って言うのが一番だと思うの〜。

神聖魔法を使える人がトーアには居なかった〜ってこと。」


ローザが言う。


「メルちゃんの言う通り〜。

それに、国全体を呪術に掛けるなんてそう難しいことでは〜ないのよ〜。

国の外の四角に呪具を設置すれば、その中のエリアは〜呪場となるから〜。

だから〜きっと〜国の四角に呪具が〜設置されてると思うわ〜。

それと王都ね〜。二重に呪いが掛かっているから〜。

王都の四角にも〜呪具があるはずよ〜。」


ケインは、ローザの話を聞いて爺を見る。

爺は頷き、動こうとした。

その時メルが言う。


「爺〜。駄目だよ〜。

今行くと〜

爺も呪いに掛かるよ〜。

父様〜あそこにあるの〜聖石だよね〜。

あれ使って良い?

あれで〜魔道具を作るよ〜錬金術で。」


「あれか?ガロ!あれは、聖石なのか?」


「はい!確かに聖石です!

鉱山ダンジョンで良く取れるんですよ。」


「ガロ!聖石集めてくれるか!

トーアに乗り込む時の魔道具をメルに作って貰うから!メル!取り敢えず、爺の分を早急に作ってくれるか?」


メルは、即動いた。


聖水と聖石に手を翳した。


白い魔力のモヤが聖水と聖石を包みこむ。


光輝き、輝きが収まると聖石が玉状になったものが複数できていた。


メルは、魔法袋から魔石とビックスパイダーの糸を出した。


そして、手を翳す。


聖石の玉状とビッグスパイダーの糸と魔石が魔力の白いモヤに包まれて光輝く。


光が収まって出てきたのは、数珠のような腕輪だった。

玉状の聖石にデスペルの魔法陣が一つ一つ描かれており、魔石が魔力供給しているのだ。


メルは、爺に渡した。

爺が腕輪を嵌めた。

腕輪が光輝き、爺の体に光の膜が張って、そして、光が収まった。


「これで〜大丈夫だよ〜呪いは全て弾くの〜。」


爺は、メルに頭を下げて言う。


「お嬢様。ありがとうございます!

それでは、旦那様。

調査して参ります。」


爺は、屋敷を出て行ったのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


次の日の朝。

まだ爺は、帰ってきていなかった。


メルは、朝食を食べながらミーアと話をしていた。


「爺が〜帰って来ていないから〜

ボート乗れないね〜。楽しみにしてたのに〜」


すると、シャドウが言う。


「お嬢様。ボートなら私が漕ぎますよ。

何度も漕いだことあるので。」


「そうなの〜!じゃあ!シャドウお願いね〜!疲れたって言っても許さないから。」


すると、そんなメルをネネがジッと見ていた。


メルは、ネネに声を掛ける。


「ネネちゃん〜私達〜屋敷の前の湖でボートに乗るの〜。

ネネちゃんも一緒に乗ろうか〜。」


ネネは一瞬笑顔になったが、真顔になって言う。


「お嬢様〜父様と母様に失礼のないようにと言われております〜。」


「なんで〜失礼なの〜?ねえ〜。

ミーアちゃん〜そんなの〜おかしいよね〜。」


「そうだよ〜ネネちゃん。

ネネちゃん8歳でしょう〜

そんなの気にしなくて良いよ〜。」


「ネネちゃんは〜私達の妹だよ〜

甘えて良いんだよ〜ていうか〜甘えなさい〜!だから〜喋り方も〜

普通に喋りなさい〜!

だから〜行こう!ボート乗りに〜!

さあ〜行くよ〜!」


「はっい!メルお姉ちゃん〜ミーアお姉ちゃん〜ネネ〜さっき、ボートの話聞いて〜乗りたかったの〜!」


すると、ネネの父様と母様が来て言う。


「ネネ!お嬢様達に、なんて口を『良い良い!シン、ルリ!メル達が、ネネを妹だと認めたんだ!そんな細かいこと言わなくて良いんだよ!』


ネネに注意しようとしたのを、ケインに止められたのだ。


メルとミーアに手を引かれていく、ネネ。

ネネは、ニコニコ笑顔だった。


「ご当主様。よろしいのでしょうか?」


「良いんだよ!ミーアが言ってたろ!

8歳の子供がそんなの気にしなくて良いんだよ!

見ろよ!メルもミーアも笑顔だ!

それとよ。ご当主様は俺もやめてくれ。

ケインで良い。気楽に行こうぜ。」


シンとルリは、ケインの器の大きさに深く感謝したのだった。


メル達は、ボートに乗り込む。

メルとミーアの間に挟まれてネネは座っている。


ボートがスッと動きだす。

透明度の高い湖。ボートを併走するように、魚が泳いでいる。

ネネは、魚を指さし笑顔を弾けさせていた。


「いつか〜釣りもしてみたいね〜」


「メルお姉ちゃん〜ネネ、釣りしたことあるよ〜海でだけど〜」


「海か〜凄いな〜見たことないよ〜メルちゃん〜海見たことある?」


「海は〜ないな〜王国は〜海に面してないもの〜」


「メルお姉ちゃん〜ミーアお姉ちゃん〜

海は〜波もあって〜どこまでも〜どこまでもつづいているんだよ〜」


「ネネちゃん〜海で〜釣りして〜釣れたの〜?」


「釣れたよ〜小さかったけど〜

ふふふっ。」


「小さくても釣れたなら〜凄いよ〜

ふふふっ。」


3人は、笑顔でボートを楽しんだのだった。


そして、昼からも湖のまわりの草原で寝そべったり、花で首飾りを作ったりして遊んだのだった。

3人は本当の姉妹のように、仲良くなったのだった。

ネネは、優しいお姉ちゃんが二人も出来てとても嬉しかったのだった。

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