第14話 お嬢様は、旅行する

「わあ〜メルちゃん〜もうあんなに王都が小さくなっちゃったぁ〜!

馬車は〜速いね〜」


「ふふふっ。そうだね〜領地までどれくらい走るのかな〜?母様〜どれくらい走るの〜?」


この馬車に乗っているのは、メルとミーア、ローザと婆やだった。操車は爺だ。


もう一台に、シャドウの操車でケインとサイラス、ミーアの両親のジルとエルサが乗っていた。


ローザが言う。


「そうねぇ〜3時間くらいかしら?

結構遠いのよ〜。王国の一番東だから〜

領地の向こうは、トーアという異国なのよ〜。」


「そっか〜なんか旅行って感じ〜!

ミーアちゃんも一緒に〜来てくれたし〜

ワクワクするよ〜」


「メルちゃんが〜陛下にお願いしてくれたんでしょ〜!

ありがとう!」


「「ふふふっ。」」


メルとミーアがこんな話をしていた頃、もう一台の馬車では………


「ジルは、ケインの領地の鍛治屋を教育するのか?!

寄子になってそうそう、大変だな!」


「サイラス様、大変だなんて。

鍛治でしたら、いくらでも!

結構楽しみでもあります。

鉱山ダンジョンの鍛治屋ですからね。

良い素材を使ってるのは確かですからね!」


ケインが笑いながら言う。


「ハハハッ!ジル!あれだぞ。

一応、鍛治屋を見て貰うがそんな真剣に考えなくても良いぞ!

あくまで、これはメルが陛下に貰った褒美だ!

その褒美には、メルがミーアも一緒にって文言があったんだからな。

休みメインで考えといてくれよ。」


「はい。本当に有難いことです。

しかし、ガロさんにも、お願いされていますし、鍛治屋は見ますよ!

まあ、無理しないようにはします!」


「おお!頼むな!

それはそうと、サイラス!お前は、そのままトーアまで行くのか?」


「いやぁ。それがよ。

俺も、あの後少し調べてみたんだよ!

どうも、トーア国は今、伝染病が流行っているとかいないとか。

ガロが保護した、トーアの者もガロが言ってただろ?ローザに見て欲しいと。

だからな、一度その者と話をしてから決めようと思ってな。」


「ふ〜ん。

伝染病ねぇ。ガロのあの言い草ならそれほど深刻そうではなかったけどな。

まあ、着いたらわかるか!

ハハハッ!」


こちらの馬車は、サイラスとケインが基本声がデカいのでとても賑やかだった。


こんな感じで領地へ向けて進んでいたのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



いくつかの街を通り抜け、フォスター公爵家の領地に入った。


この領地は、他の寄子達の領地とすこし違っている。

冒険者達が集まる北エリアと自然が広がる避暑地と言ってよい南エリアに分かれていた。


フォスター家の屋敷は南エリアにあった。

屋敷の前には、大きな湖があり、湖の周りには草原が広がっていた。

夏にくれば良い避暑地となるであろう。


屋敷前で、婆やと、ケイン、サイラスは馬車を降りた。


残りは、北エリアに観光だ。


北エリアに何故冒険者が集まるかと言えば、ダンジョンがあるからだ。

元は、鉱山なのだが、ダンジョン化し鉱石も採掘できて、魔物も狩れるという冒険者には2度美味しいところなのだ。


鉱山ダンジョンの周りには、飲食街や酒場、武器屋に防具屋、宿屋などが立ち並び冒険者には持ってこいの町になっていた。

ジルが見るという鍛治屋も複数あるのだ。


メル達は、この鉱山ダンジョンの街にやってきたのだった。


メルは、ミーアと手を繋ぎニコニコ笑顔で街を歩いている。

途中で屋台で食べ物を買い食べ歩きをしていた。


しかし、冒険者の集まる街。

ハッキリ言って品は良くない。

あちこちで、冒険者同士が喧嘩をしていたり、酔っ払って道で寝ている者もいた。


あきらか、聖女ローザとメル、ミーアは場違い感が満載だったが、メルとミーアはそんなこと気にも止めず手を繋いでニコニコ笑顔で歩いていた。


必ず起きるお決まりの絡まれるというイベントは起きそうで起きない。

見るからお嬢様のメルとミーアを見て、一瞬冒険者が、近寄ってこようとするが、すぐさま、後退りする。


それは、護衛として来ている爺とシャドウが途轍もない威圧を放っているからであった。


聖女ローザも居るところで、絡まれるわけにはいかないからだ。


そんな形で街を見て回った。


そして、鍛治屋と武器屋が一緒になっている店を見学していた。


ロングソードは、ミスリル製やアダマンタイト製、ヒヒイロカネ製と中々、お目にかかれない素材が使われており、そこそこの値段がしていた。


メルは、頭を傾げていた。


「なんか〜素材を謳ってる割に〜これは!っていう剣は〜ないわね〜

どれも〜ナマクラばっかり。」


ジルがメルの言葉を受けて言う。


「流石!お嬢様。わかりますか!

おっしゃる通り、ロクな剣がありません!

素材が死んでいます!

まるで鍛え方がなってない!

すぐ、折れるナマクラばかりです!」


すると、店主が出てきて鬼の形相で言う。


「何言ってんだ!

どこの貴族か知らんが!

鍛治を語るなよ!

それに、御令嬢が剣のことなんてわかるのかよ!

刀を帯剣しているが、刀はファッションじゃねえぞ!」


すると、店主にシャドウと爺が威圧を飛ばす。

そしてシャドウが言う。


「おい!お前!口には気を付けろ!

お前には、聖女ローザ様が見えんのか?

このお方は、聖女ローザ様の御令嬢だぞ!」


「あっ!もっもっ申し訳ありせん!」


爺は、店先のミスリルソードを手に取り、代金である金貨五枚を店主に握らす。そして言う。


「おい!お前が作ったものが、いかにナマクラかと言うことを証明してやる!

お嬢様、こちら投げますので叩き斬っていただけますかな?

ミーアお嬢様。少し離れて下さいませ。」


メルは、斬月に手を掛ける。


爺がミスリルソードを上に投げる。


メルは、鯉口を切った。

シャッキィィィィィィィィィィィン!

居合斬りだった。

空中でミスリルソードが時間が止まったかのように一瞬、落下を止めたと思った時、メルは、斬月を既に鞘に収めていた。


カランカラン。


ミスリルソードの刀身が真っ二つに斬られていた。


「お見事です!お嬢様!

わかったか!店主よ!

自分の作った物がこうも容易く刀身を斬られてしまうということを。

鍛治を語るなよと言ったが、こちらのお嬢様の斬月を打ったのは、こちらのキャスバル騎士爵様だ。

お前こそ、不十分な腕で、鍛治を語るな。

ジル様後はよろしくお願いいたします。」


「あっ。はい。

店主!素材は、言うまでもなく最高な物を使っている。

鍛え方がなってない!

ここは、フォスター公爵様の領地。

フォスター公爵様の領地で、不完全な物を売るのは許されぬ。

明日より、私が指導してやる。

良いな!」


「あっ……はっい!承知いたしました!」


メルは、爺に言う。


「爺〜そんな物に金貨五枚〜

勿体無いわ〜。それに、斬ってしまったし〜。」


ジルが言う。


「お嬢様!大丈夫です!

"キング"殿、打ち直しますので!お預かりします!」


爺が言う。


「ハハハッ!そうですか!

ジル様、では、出来ましたらナイフにしていただけますかな?

私は、ソード系よりナイフの方が好みですので。」


「わかりました!店主!

明日より、頼むぞ!

こちらを店奥に置いておけ。

私が見本でナイフに打ちかえるのでな。」


「あっ!はっはい。」


メル達は、店主が叩き斬られたソードを店奥に持っていくのを見て、歩き出したのであった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


屋敷に入ったケインとサイラスと婆や。


屋敷には、ガロが居た。


「ガロ!ローザとメルは、北エリアに観光に行ったぞ。

例のトーアの者は、居ないのか?」


「ケイン様、恐らくもうすぐ来るかと。

あっ!そうだ!ケイン様に言っとかないと!

その者達は顔に、かなりの痣があります!

頼みますよ!

ケイン様は、すぐ口出しますから!」


「そんなもん!男が痣くらいで気にしてどうすんだよ!

男だろ!痣なんか気にするな!って話だ!」


ガロは、呆れた表情で言う。


「やはり、先に言っておいて良かった。

保護しているのは、一人ではありません!

家族で保護をしています。

夫婦と子供一人です。

子供は、女の子です!

デリカシーのない発言は、やめてくださいね!」


「そっそうか。女の子もか。

そりゃ、聞いていて良かったわ。」


サイラスが言う。


「ガロ!俺も調べたんだけどよ。

トーア国は、何やら伝染病が蔓延してるって話だけどよ!

どうなんだ?」


「……伝染病ではないです!

伝染病なら、私も感染してないとおかしいでしょう!

ハッキリとは、わかりませんが病ではないことは確実です。

もっと他の物だと。

その辺りは、もうすぐ来ますので直接聞いてください。」


すると、玄関の呼び鈴が鳴った。


婆やが対応し、リビングに連れてくる。


男の顔には、ドス黒い痣が広がっていた。

おそらく、体にも広がっているのだろう。

その男の妻も同様だった。

先程ガロが言っていた女の子は、年の頃はメルとほぼ変わらないくらいの女の子だった。

黒い髪が腰辺りまである女の子だ。

女の子は、髪で顔を隠していた。


ケインは、女の子の側にいき、膝をつく。

そして、髪を手で優しく避ける。

女の子にも、ドス黒い痣が広がっていた。


ケインは、思わず女の子を抱きしめていた。


そして、言った。


「大丈夫だ。

俺の妻と娘が、きっと治してくれる!

今、外に出てるが帰ってきたら治して貰おう!

ガロ!呪術の類いだな。

サイラス!悪いが、今から転移魔法で王都に飛んで、教会で聖水を貰ってこい。

必ず必要になる。」


「わかった!

行ってくるわ!」


サイラスは、すぐさま王都に飛んだ。


ケインは、女の子に問いかける。


「何歳だ?名前は、なんという?

辛かったな。でも大丈夫だ。

必ず綺麗になる!俺を信じろ!」


「……ほっ本当に…?」


「ああ!本当だ!

おじちゃんの妻は、聖女だ!

娘も、凄い魔法使いだ!大丈夫!

名前は?」


「…ネネです!8歳です!」


「そっか!ネネか!良い名だ!

おじちゃんは、ネネの父様と母様と話を今からする。

ネネは、そこのテーブルでお菓子でも食べて、待っててくれるか?

婆や!ネネに、ミレーネのクッキーとお茶を出してやってくれ。」


「承知しました。

さあさあ。ネネお嬢様。

こちらに、座りましょうか。

クッキーを出しますからね。」


ネネは、婆やに促されてテーブルの椅子に座った。


「よしっ!さあ、楽にしてくれ!

色々話を聞きたい。

俺は、ケイン!ケイン・フォン・フォスター、王国の公爵で、元勇者だ!

よろしくな!」


ケインは、雰囲気を明るくするため、笑顔で自己紹介したのだった。

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