第13話 お嬢様は褒美を貰う
「今こそ!マール共和国は、他国に負けない強い国に生まれ変わらないといけない!
フィリア王国?!
皆は知っているだろうか?!
元勇者パーティを要するフィリア王国に、私が仕掛けたことを!
皆は、大変なことをしてくれた!だの言っておったが、何を恐れているのだ!
今、私はこうして生きている!
何も恐れることはないのだ!
今、マール共和国に必要なのは、恐れを知らない強いリーダーなのだ!
では、だれが相応しい?
このブダイしかいないではありませんか!」
今、意気揚々と最後の討論会で演説をおこなっているのは、例のブダイ。
最初こそ、大きくなった事態に王国からの報復にビビり倒していたが、一週間経った今、何も起きないことに安堵し、強気の弁をふるっていたのだった。
しかし、この会場には" 影 "が3人いた。
その内の一人が"エース "こと婆やである。
婆やは、昨日の夜にマール共和国に入った。
そして、部下に指示したのは、
「明日イチサンマルマル、一斉襲撃。
5分以内に仕留めろ。その後は、散!だ!」
そして、今、12:59。
壇上では、笑顔を振り撒くブダイの姿が。
そして、その後ろに警護する従者の姿。
13:00。
壇上に伸びる三つの影。
一瞬の出来事であった。
誰もその瞬間を見た者は居なかった。
気がついた時には、壇上のブダイの頭が無くなっていた。
噴水のように残った首から舞い上がる血。
後ろの従者も同様だった。
皆が気付いた時には、もう婆や達は、王国に向けて足を進めていたのだ。
ブダイのバックについていた裏組織も、ここと同様首を全て斬られ壊滅した。
マール共和国では、後にこの日のことを血の討論会、ブラッディディベートと呼ばれるようになる。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そして、翌日である。
メルの屋敷にミーアが遊びに来ていた。
中毒問題も、メルとローザの頑張りで王都だけでなく、王国全て回復し終わり、メルは今、家庭用の浄化ハンドルを量産中なのである。
今日は、ミーアが初めてメルの屋敷に来たので少しお休みなのだ。
今メルとミーアは、ミレーネのクッキーを食べながら、婆やが入れたお茶を飲んでいるのだ。
「婆や〜お土産のミレーネお姉ちゃんのとこの新作クッキー〜とっても美味しいよ〜
ありがとうね〜
でも〜昨日〜どこ行ってたの〜?
婆やが居なかったから〜お茶タイムも〜なんかつまらなかったよ〜」
「まあまあ。お嬢様は嬉しいことを言ってくださる。
婆やは、昨日旦那様のお仕事のお手伝いで少し遠くに行っておりました。
帰りに商業街のミレーネ様の店の前を通りましたところ、新作の文字が目に入りましたので、婆やは、お嬢様のお喜びになる顔が浮かんだのです。
喜んでいただけて、ようございました。
あっ!それと、先程商業ギルドからハンドルが沢山届いたので、ここに置いておきますね。」
「はっい!ありがとう〜婆や!」
ミーアが、ハッとしてメルに言う。
「メルちゃん〜。私ね〜ふと思ったの〜。
水道の浄化ハンドル〜
浄化の魔法だよね〜
そしたらさあ〜ファイアの魔法だとしたら〜熱いお湯が出るのかなぁ〜って。」
「もぐもぐゴクン。
う〜ん。出るだろうね。
でも〜そんなの必要かな〜?」
婆やが言う。
「お嬢様!お湯が水道から出たら、助かるに決まってますよ。
湯浴みのお湯をお風呂場まで何度も運ばなくて良くなるのですよ。
それに、お料理でも助かります。
沸かす必要がなくなるのですから。」
「えっ!そうなんだ〜
じゃあ、お湯の温度も変えれるほうがいいよね〜
浄化ハンドルの横に更にファイアのハンドルを付けて、ファイアのハンドルを回せば回すほど火力があがるようにすれば、温度調節もできるか。やってみようか〜!」
メルは、届いたハンドルと魔石を手に取った。
浄化ハンドルと同じように、ハンドルの裏にファイアの魔法陣を展開した。魔力消費減少も付与して。
魔石も取り付けて。
メルは、出来上がったハンドルを婆やに渡した。
「婆や〜横に持っていってみて。」
婆やが早速浄化ハンドルの横に持っていく。
すると浄化ハンドルの横ににピタッとファイアハンドルが収まった。
ハンドル同士が距離を測るように勝手に当たらないよう調節していた。
まず婆やは、浄化ハンドルを回す。
水が出てくる。
続いて、ファイアハンドルを回す。
すると、水道の水から湯気があがる。
思わず婆やとミーアは、声を上げた。
「婆や〜温度変わるか試してみて〜」
婆やがまず、ファイアハンドルを閉める。
婆やが水をさわる。
「普通に冷たい水です。少しファイアハンドルをまわしますね。
あっ。ぬるいお湯です。これは、冬の洗い物が苦ではなくなります!ありがたいですわ。
更にまわしますね!
熱い!熱湯です!素晴らしいです!
お嬢様!
是非全ての水道に付けて頂きたいですわ。」
派生品が出来た瞬間だった。
ミーアの何気ない一声で、派生品ができたのだ。
後に、サイラスが興奮し、販売を開始する。
単品でも販売したが、浄化ハンドルとファイアハンドルを一気に両方買えば、少しだけ安くなるという販売方法で売ったのだ。
温度調節付き浄化ハンドルと名前をつけて!
大ヒットを記録する。
お風呂革命とも言われる商品になったのだ。
これは、少し後のお話である。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ここは、マール共和国の大統領の一室。
選挙で大統領に選出された男が苦渋の表情を浮かべていた。
側に居る文官に言う。
「ブダイの奴め!
面倒な事を残して死んでくれた!
あいつ!自分が死んだこともわからず逝ったのだろうな!
おい!王国側から賠償請求してくる前に、こちらから先手を打たねばならん!
そうしなければ、かなり吹っかけられるぞ!
元勇者パーティが出張って来られた時には、何も言えぬぞ!」
そう言っていた時だった。
大統領の居た部屋の床が輝きだし、そこに3人の男が現れた。
ケインとサイラスとシャドウだった。
大統領は、突然現れた元勇者パーティに驚愕していた。
その驚愕している大統領を尻目に、シャドウが厳かな雰囲気を醸し出しながら、大統領の机の上に、何やら豪華な箱を置いた。
そして、言う。
「大統領ご就任おめでとうございます!
フィリア王国は、貴方の大統領就任、心より祝福いたしますぞ。
こちらは、祝いの品となります。
どうぞお納めくださいませ。」
シャドウは、スッと下がる。
大統領は、チラチラとケインを見ながら、その箱の蓋を開ける。
「ギャァ!なっなんなんだ!こっこれは!」
箱に入っていたのは、例のブダイの頭。
それも、満足そうに微笑んでいるブダイの頭だったのだ。
ケインは、ドカドカと歩きソファにドガッと座り言う。
「さあ!大統領!就任してから初めての仕事と行こうか!
我らフィリア王国に対しての賠償問題を片付けてもらおうか!
我らも忙しい!さっさとしてくれよな!
あっ!言っとくが、舐めたこと考えるなよ!
俺達が、マール共和国で暴れんで良いように頼むぞ!
わかるな!」
大統領は、汗を大量にかきだした。
マール共和国は、先手を打つ暇もなく、ケインとサイラス、シャドウに追い込まれたのである。
フィリア王国にマール共和国が大量の賠償金を払ったのは言うまでもなかったのだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
翌日、王国王城の謁見の場に貴族が集められた。
そして、国王陛下と王妃の前には、ケインとローザに挟まれるようにして、綺麗なドレスを着たメルがいた。
メルは、ジイジとバァバである国王陛下と王妃に向け、笑顔で手を振っている。
元帥が大きな声で貴族へ向け、言う。
「この度の中毒騒動!
昨日、フォスター公爵がマール共和国に出向き、多額の賠償金を持って帰ってきた。
これにより、中毒騒動が収束したとする!
聖女ローザ様の活躍は、其方達も教会で治して頂いたから当然知っておろうが、今回の一番の活躍をされたのが、そこにおられる
聖女ローザ様とフォスター公爵の御令嬢メル嬢だ!
メル嬢は、職人街で、商業街と職人街の民達を神聖魔法で治療し、尚且つ王都以外の街の為に、キュアポーションも作られた!
それだけでなく、水不足に苦しむことを予見し、浄化ハンドルを錬金術で創造された!
貯水槽だけでなく、家庭用もあるのは、其方達ももう当然知っておるだろう!
まだ学園にも通っていない幼き方がこれだけの働きを見せて頂いた。
まずは、皆で感謝を!」
貴族全員が片膝を突いて頭を下げた。
当のメルはと言うと、ニコニコしながら、次は、王子と王女に手を振っていた。
「普通ならば、爵位をと!言う話になるのだが、ローザ様からお叱りを受けた。
" まだフォスター家から出す気はありません!"と!
それで、枢機卿と私は、陛下に上申させて頂いた。
なにか、褒美をと。
異論のある者は居るか!
賛同頂けるなら拍手を!」
謁見の場が拍手に包まれる。
元帥は、満足気に頷き、言う。
「メルル・フォン・フォスター!
一歩前へ!
それでは、陛下お願いいたします。」
「ハハハッ!
メルちゃん!急に、真剣な顔になったのじゃ。
さっきまで、ニコニコ笑顔じゃったのに。
良い良い。もう堅苦しいのはなしじゃ。
元帥!もう良かろう?
メルちゃんは笑顔がないとな。
メルちゃん、よく頑張ってくれたのじゃ。
ありがとう。
それでな。バァバとジイジはメルちゃんの褒美を必死に考えたのじゃ。
あれも良かろう、これも良かろうと中々決めきれんかったのじゃ。
それでジイジとバァバはメルちゃんの欲しい物を聞こうと思ったのじゃ。
メルちゃん何が欲しい?」
メルは、腕組みして、う〜んと考える。
すると、ハッとして言う。
「ジイジ、バァバ〜。
私は〜本が読みたいです!」
「本とな〜。なんの本じゃ?」
「前に〜ジイジから頂いた〜聖女と勇者の物語の続きが読みたいの〜!
3巻から〜。
ここから、聖女と勇者が仲良くなっていくってところで終わったんだよ〜!
ここからってとこなのに!」
ローザが慌てて言う。
「めっメルちゃん!なんで本なの!
ご褒美なのよ!
勿体無いわ!そんな本は読まなくて良いの!」
正に、メルの言った聖女と勇者の物語は、ローザとケインの物語なのだ。
ローザは、顔を真っ赤にしていた。
恥ずかしいのだ。
娘に見られたくないのだ。
ケインとの恋の話を。
国王陛下は、空気を読み言う。
「メルちゃん。
本は、城の図書室でいつでも読めるのじゃ。
メルちゃんが城に来てくれたら、ジイジもバァバも嬉しいから図書室で読むと良い。
他に何かないかの?
折角の褒美なのじゃ。」
メルは、考えて、ハッとして言う。
「ジイジ!バァバ!
それなら〜旅行に行きたいです!」
「りっ旅行とな!何処に行きたいのじゃ?」
「えっと〜色んな街の貯水槽に浄化ハンドルを〜付けに行ったけど〜何も街を見れなかったの〜。
だから〜王国の何処でも〜良いです!
旅行がしたいです!
父様と母様のお休みが欲しいです!
出来たら〜お友達のミーアちゃんも〜一緒に行けたら〜良いな〜!」
陛下は、ローザとケインを見る。
二人は頷く。
「ハハハッ!よし!メルちゃん!
褒美は決まったぞい!
フォスター公爵!其方、明日より10日間休みを与える。聖女ローザもじゃ!
其方達の領地をメルちゃんに見せてやるが良い!
お友達も連れてな!
褒美として、旅行の資金としてお金も用意するからの!
メルちゃん!楽しんでおいで!」
メルは、その場でヤッターとバンザイして飛び上がっている。
ケインとローザがメルの代わりに、
片膝をついて言う。
「「有難きしあわせ!」」
一斉に拍手が湧きあがったのであった。
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