第12話 お嬢様は、大義

「もぐもぐゴクン。

婆や〜サンドイッチおいしいよ〜

お腹ペコペコだったの〜」


「それはようございました。

オレンジジュース、おかわりいかがですか?

またお搾りいたしますよ!

ミーアお嬢様もどうですか?」


「「おかわり〜お願い〜!」」


「なあ、メル!

水、浄化しただけか?

確かに水が美味いんだが…それに枢機卿が言うように力が湧いてくるんだが?

まるで聖水のような感じだ。」


「もぐもぐゴクン。

父様〜何もしてないよ〜。

浄化魔法で浄化しただけだよ〜

聖水にする〜魔法なんて〜作ってないもの〜」


婆やが、ハッとして言う。


「旦那様。推測ですがよろしいでしょうか?

元々、チール川は山脈の湧水が川となったもの。

あの山脈は聖石を多く蓄えています。

お嬢様の浄化魔法によって、毒となる物全て取り除かれて、聖石の成分のみが害がないということで、残ったのかも知れません。

あくまで、推測ですが。」


「ふむ。理にかなっているな。

まあ、良いことだから全然構わないんだがな!」


「もぐもぐゴクン。

凄いね〜婆や!頭良いね〜!」


「まあまあ。

浄化ハンドルを発明された天才のお嬢様に、お褒め頂くのは恐縮してしまいます。

まだ、サンドイッチ食べられますか?

ミーアお嬢様も?」


「「は〜い。お願い〜」」


「メル。浄化ハンドル、量産できるか?

当然治療が終わってからで良いが!」


「父様〜それなら貯水槽に川から水を引いている所に〜取り付けたほうが良いの〜。

貯水槽の水を全て先に浄化して〜川から引いている所にハンドルを取り付けるの〜。」


「………まあ、それで水の毒は浄化されるんだが……。」


サイラスが側に来て言う。


「メルちゃん!当面、貯水槽の所に浄化ハンドルを付けてもらうこと、これ優先で良いんだが、家庭用の浄化ハンドルも売ろう!

今回の騒ぎで民も不安が高まってる!

二重に対策はしたいだろうからな!

それに、これは凄いからな!

特許をとろう!

この魔力の代わりに魔石を使うっていう……そうだな、魔石システムを!

それと、このシャドウの絵で魔石の消耗を知らせるのも凄い!

…シャドウ印!シャドウ印の浄化ハンドルとして商標登録もしよう!

これは!売れるぜ!

メルちゃん!髭のオッチャンに全て任せとけ!

メルちゃんにも利益は渡すからな!」


「髭のオッチャン〜私〜お金いらないよ〜

民の皆が必要なら〜作るけど〜お金はいらないの〜だって〜必要ないもの〜

お買い物だって〜私に着いて来てくれる、シャドウなり、爺なり、婆やがお支払いしてくれるもの〜

父様と母様のお金だと思うけど〜。」


「そりゃそうかも知れんけどな。

メルちゃん!働いた分は、対価として

受け取らんといかん。」


「じゃあ〜母様に渡して欲しいの〜。

父様〜それでいいよね〜」


「おお!良いぞ!

サイラス!魔石は、冒険者ギルドに依頼として出せ。チール川のポイズンフロッグの魔石を買い取ると。

金額は、お前の専門だから任せる。

ポイズンフロッグが山程いるからな!

駆除とはいかんだろうが、少しは数が減るだろう。

後、ジル!水道のハンドルの量産を頼む。

メル!そのほうがやり易いんだろ?」


「はい!ハンドルがあるほうが〜量産できるの〜一回で大量に作れるから〜。」


「よし!サイラス、ジルと冒険者ギルドと連携して、よろしく頼む!

販売は、どうせサイラスのとこだろうしな。」


後に浄化ハンドルは、大ヒット商品となる。

そして、メルによって派生品も出るのだが、それは、また後日の話。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


王城では謁見の場で、メルのジイジ、バァバである国王陛下と王妃がランド元帥より報告を受けていた。


「……………ということで、フォスター公爵が原因と、それを仕組んだ者を捕らえられました。」


「マール共和国め!

許さぬぞ!選挙の人気取りなどと、ふざけたことを!

元帥!どうするのじゃ!

マール共和国へ!攻める大義名分揃っておるぞ!」


「はっ!その件は、フォスター公爵と話は進めて行きます。

それよりも当面の水の問題を考えねばなりません!」


「……困ったのじゃ。

チール川自体が、ポイズンフロッグで毒に侵されておるとなると……。

これは、どうしたものか……」


国王陛下と王妃は頭を悩ましていた。


その時、謁見の場に枢機卿が現れた。


「陛下!水の問題は解決できますぞ!」


「枢機卿!どういうことじゃ?!」


「陛下のお孫様。メル嬢が、浄化ハンドルという物を発明されました。

王家の分もお作り頂きました。

こちらです。」


枢機卿が浄化ハンドルを陛下に渡した。


「……ほう。これは、どう言った物なのじゃ。」


「はい。水道のハンドルを外してこれに変えるのです。ハンドルを回すと浄化魔法が発動して、水の毒が綺麗さっぱりなくなるのです。

魔力の代わりに魔石を利用しているのです。

聖石の成分が残る為、聖水に近い水となります。私も頂きましたが、とても美味しいのです。そして、力が湧きあがる感覚すらあるのです。

これは、家庭用ですが、夕方にはケイン殿がメル嬢をつれて貯水槽にいき、貯水槽の浄化と川から引いているところに浄化ハンドルを取り付け、綺麗な水を各家庭に提供できるようにするとのこと。」


「ほう!それは、助かる!」


「王都以外の土地の倒れておる者達も、メル嬢が作られたキュアポーションをサイラス殿が転移魔法で随時運んでいるので、じきに、回復するでしょう。

王都以外の貯水槽にもメル嬢をサイラス殿が転移魔法で連れていき、王都の貯水槽のように本日中に全てするとのことであります。」


王妃が、目に涙を溜めて言う。


「まあ、メルちゃんが頑張ってくれて〜いるのですね〜

ローザからメルちゃんは、職人街で〜商業街と職人街の者達を治療していると聞きましたが、キュアポーションに浄化ハンドルまで……。

貴方〜大義ですわ〜。

まだ10歳の幼き子供ですのに……

ローザが、しっかり教育しているのですね〜。こんな嬉しいことはありません。」


「王妃様。ここに参る前に教会に浄化ハンドルを届けたのです。

その際に、メル嬢の活躍をローザ様にお伝えしたのです。

その時に、私はメル嬢に爵位をと陛下に上申しようと考えてる事をお伝えしたのです。

考えても見てください。そうでしょう!国の危機を救ったのです!

これから起こる水不足まで解決されたのです。

ですが、ローザ様にえらく怒られてしまいました。

" まだ!フォスター家から出す気はありません!"と。

まあ、考えればそうですな。まだ10歳の少女ですから。

それで陛下、今回事が片付けばメル嬢に何か褒美を与えて欲しいのです。

これは、メル嬢の活躍を知れば、誰もお孫様だからと言う声もあがりません!

是非お願いいたします!」


ランド元帥も口を開く。


「枢機卿が仰る通り、本来なら爵位を与えることが、その働きに応えること。

しかし、ローザ様がそれは許さぬと言われるなら、褒美という形を。

私からも上申させて頂きたい。」


「ハハハッ!

そうか!そうか!

お主達の上申、嬉しく思う!

王妃も、大義だと言うておる。

ハハハッ!

枢機卿も元帥も、わかっておらんな。

ワシは、国王の前にメルちゃんのジイジじゃ。

自慢ではないが、ワシは、孫を猫可愛がりしとる。

褒美か。其方達が言ってくれておるから、公にメルちゃんに褒美を出すとしよう!」


枢機卿が思い出したかのように言う。


「それはそうと。

マール共和国の例の大統領候補。

" エース "殿が、直々に動くとか。

ケイン殿が言うには、" エース "殿がえらくご立腹だそうで、首を取ってくるとケイン殿に直訴したようです。

ケイン殿がそれを受けて国と国の話を付けに行かれるそうです。

陛下にお伝えするように言われておったのを忘れるところでした。」


「なんと!

婆やが動くか!

それは、マール共和国!ご愁傷様じゃな。

泣く子も黙る王国諜報機関"影"。

ハハハッ!自業自得じゃ!

その後の国と国の話もケインが付けてくれるとな。

ハハハッ!

あやつのことじゃ。しっかり、ふっかけてくるじゃろうて。

取り敢えず、元帥。

ケインと一度話をしといてくれるか?

基本、任すが甘い決着は駄目だと。」


「はっ!承知いたしました!」


その後、陛下と王妃はメルへの褒美を、ああでもないこうでもないと考えるのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


今、メルはケインと共にサイラスの転移魔法で王都の外れにある貯水槽に来ていた。


メルは貯水槽を前に、両手を翳す。


貯水槽を覆うように巨大な魔法陣が浮かびあがる。


メルの体から漏れた魔力が上昇気流のように舞い上がる。

メルの髪がフワッと浮き上がり、パラパラっと金糸のような髪が背中に落ちた。


「全てを浄化せよ!神聖魔法浄化!」


魔法陣が光輝き、貯水槽に光が溶け込んでいく。

そして、貯水槽の水がユラユラ揺れだし、攪拌されていく。


貯水槽の水が渦を巻き、激しく動く。

貯水槽を管理する者達は、驚愕の表情で、少女の姿を見つめていた。


ケインは、娘の後ろ姿を見ながら、妻ローザの姿とダブらせた。

(ローザに良く似てるな!魔力の質も素振りも。)


魔法陣が消え、浄化が終わったことを告げる。


「メル!次はハンドルだ。

これがそうだ!

魔石は、ハンドルに合わせてデカいのを持ってきた。」


「父様〜大きな魔石だね〜!

何の〜魔石?」


「おお!メルも良くしってるボアの魔石だ!

このハンドルだからな!これくらいの大きさのほうが良いだろう?」


「そうだね〜!丁度良いかな〜!」


言っておくが、この魔石、ボアではない。

グレートビッグボアの魔石なのだ。

ボアの最上種の魔石なのだ。


メルによって、錬金されハンドルを取り付ける。


ケインが管理者に説明する。


「このハンドルによって、水が浄化される。

今、ハンドルを回したが、今出ている水はもう浄化されて綺麗な水だ。

この上の絵が青い時は、まだ魔石が力を持っている。半分以下になると黄色になる。

全くなくなると赤だ。

黄色になった時点で魔石を入れ替えるんだ。

責任重大だぞ!

其方達が魔石交換を怠るとまた、今回のような中毒騒動となるんだ!

頼むぞ!替えの魔石を置いておく。

冒険者ギルドには、話を通しておく。

魔石が切れる前に冒険者ギルドで補充しろ!

いいな。」


管理者達は、気を引き締めたのだった。


「メル!疲れてないか?

このまま、他の街にも同じ事をしてもらいたいのだが……。」


「父様〜大丈夫なの〜!

水がないと〜皆困るの〜

早く行かないと〜」


「そうだな。偉いぞメル!

全て終わったら、ミレーネにクッキー山程持ってこいと頼んでやるからな!」


そう言ってケインは、メルの頭を撫でたのだった。


その後、メル達は各街の貯水槽を周り、浄化ハンドルの取り付けと浄化をして回った。


サイラスは、その間にキュアポーションを配布するよう指示し、王都以外の街も回復して行ったのであった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



フォスター家の屋敷に戻った婆やは、爺に向かって言う。


「" キング "尋問の結果を教えて頂戴。」


王国諜報機関" 影 "の4柱の" キング "こと爺は、苦渋の表情で言う。


「ああ!あやつは、スパイと言うレベルの者ではない。

ただのチンピラだ。

自分の保身の為にペラペラ喋るかわり、あまり情報を持っていない。

大統領候補のブダイという男の指示だということ。

このブダイという男が、裏の組織と繋がっていて、今回依頼を受けたということだ。

……それだけだ。」


婆やの背後に、スゥッと、メイド服を着こなしたメイドが20名ほど現れる。


婆やは、それらを見ずに命じた。


「マール共和国に潜入し、ブダイという男のついて調べあげろ!関係しているもの全てだ!

私が行くまで、殺すな!

" 散れ "」


婆やこと、王国諜報機関" 影"の4柱" エース "の声で、20名のメイドがまるで影が消えるように、スゥッと居なくなる。


「さて、お嬢様がお帰りになるまでにお料理を用意しないと。

爺。このお嬢様がお作りになった浄化ハンドルを取り付けてくださいね。」


「ほう!これをお嬢様が!

凄いな!お嬢様は!」


二人は、メルの話で表情を崩して、微笑んだのだった。


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