第11話 お嬢様は、発明する

ローザは教会で治療していた。

国王陛下に王妃、王子や王女も先程治療した。


シーガー枢機卿が言う。


「ポーションなら沢山あるのですが…

ポーションは意味がないのでしょう?」


ローザが治療の手を止めず言う。


「枢機卿〜精霊草はありますか〜?」


「ございます。しかし、錬金術を使える者でも時間が掛かるでしょうな。」


「枢機卿〜職人街のキャスバル鍛治屋で〜

メルちゃんが〜同じように治療しています。

メルちゃんなら〜簡単に錬金術でキュアポーションにしてしまいます。

メルちゃんに〜ポーションと精霊草を運んで貰えますか〜。」


「なっなんと!錬金術を!

神聖魔法だけでも凄いと言うのに……

流石……聖女様と勇者のお嬢様です!

わかりました!急いで持って行きましょう!」


「お願いしますね。キュアポーションは、王都以外の所で必ず必要となりますから〜。」


ローザは心の中で思う。


(メルちゃん〜頑張ろうね〜)


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


一人の男が職人街を歩いている。

何やらオドオドとした感じで歩いていた。

この男、この中毒事件を起こした主犯の男だった。

マール共和国のスパイなのだ。

今、マール共和国では大統領選の真っ最中なのだ。

その大統領選の候補の一人が、このスパイに指示したのだった。

人気取りの為の策である。

王国に恐れないという意思表示を自国の民にアピールする為だった。

他国に、ちょっとしたチョッカイをかける。

選挙中のよくある手法だった。

しかし、誤算だったのが予想外の毒の効果だった。

騒ぎが大きくなり過ぎたのである。

王国王都だけでなく、王国の東を除いて全域毒に侵されてしまったのだ。

そして、このスパイの男、正直ビビっていた。

(ヤバい!ヤバいぞ!被害がデカすぎる!

元勇者パーティが黙っていないぞ!

調べたら、すぐ原因がポイズンフロッグだとわかってしまう。マール共和国が犯人だと言っているようなものだ。

国が滅ぶぞ。

逃げなければ!国に帰ると危険だ。帝国辺りに逃げるか……)


そんなことをビクビク考えながら歩いていたのだ。すると、人と、ぶつかってしまう。

スパイの男は、数メートル吹っ飛んでしまう。

ぶつかった相手が声を掛ける。


「すまん!

考え事をしていた!

怪我はないか?!おっ!血が出てるな!」


スパイの男は、目を疑った。

恐れに恐れている勇者ケインが目の前にいるのだ。

ぶつかった相手は、ケインだったのだ。


「あっわわわわ〜!」


スパイの男は、思わず這うように逃げる。必死に駆けたのだ。


「おっおい!まっ待てよ〜!

傷くらい治させろよ!」


ケインは、瞬歩で一瞬でスパイの男の前に出て止める。


スパイの男は、腰から崩れ落ち。

ケインに全てを打ち明けてしまったのだった。

なんとも情けない男だった。

すぐさま、ケインに捕らえられ騎士に引き渡されたのだった。


これに怒ったのが、婆やである。


「旦那様。やはり"マール共和国"でした。

許せない。選挙の人気取りの為に………!

旦那様。すぐにその候補者の首を取って参ります。ここは、婆やに、いえ、王国諜報機関"影"の、この" エース "にお任せくださいませ。」


「まっ待て。婆や。今はダメだ!」


「なっ何故です!

婆やは、フォスター家にお仕えできることに誇りを持っていたのです!

その誇りを……毒で…朝食を汚されたのです!ゆっ許す訳にいかないのです。うっ……」


婆やは、朝からずっと気にしていたのだ。

思わず涙を流してしまう。


「婆や。今はダメだ。

誇りを持ってくれていたのは嬉しい。

なら、今はメルの側でメルの世話をしてやって欲しい。

メルもそろそろ疲れが出てくるころだ。

婆やの力が必要なんだ。

やるなら、その後だ。

"エース" しかし、一人で動くな。

部下も使え。やる時は、徹底的にだ。

いいな。」


「………承知いたしました。

やる時は、徹底的にやります。

今はお嬢様のお側で。

では、旦那様。早く参りましょう。

お嬢様もお腹を空かされておるでしょうから。」


婆やは、厳しい表情からいつもの優しい表情に変わったのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



メルは、今右手で治療しながら、左手でキュアポーションを作っていた。

枢機卿がポーションと精霊草を持ってきたのだ。

ミーアは、出来たキュアポーションを瓶に詰める作業をしていた。


そこに、ケインがやってきた。


「メル!お前……なんて器用なことをやっているんだ?!

あっああ。指輪を一個外したのか!

そうか!頑張ってくれてんだな!

ありがとうな!」


婆やがキュアポーションを見る。


「こっこれは、キュアポーションでも上級!

それも、品質も最高級!

この一本を水で薄めれば、20本は普通のキュアポーションができますわ!

あっ!申し訳ございません。水が…水がないのでした。」


メルが、手を止めて婆やに言う。


「婆や〜水で薄めて〜効果あるの〜?

それなら〜水で薄めようよ〜。

父様〜私〜考えたの〜。

水がなかったら〜困るよね〜。

なんとかして〜水を浄化しないと駄目なんだよね〜。

それでね〜水道のハンドルに〜魔法陣を展開して浄化するようにするの〜。

魔力の代わりに魔石を利用して〜。」


「メル!どういうことだ?

実際に今できるか?

ジル!お前のとこの水道を借りるぞ!

サイラス!ハンドル外して持ってこい!」


「父様〜魔石がないの〜。」


ケインは、魔法袋から例のポイズンフロッグを出した。

そして、ポイズンフロッグから魔石を取り出した。


「この魔石でいけるか?小さいか?」


「う〜ん。あっ!これでいいよ〜!

魔力消費減少を付与するから〜

ミーアちゃん〜。鉄ある?」


ミーアがすぐに鉄の板を持ってくる。

サイラスもハンドルを外して持ってきたのだ。


メルは、ハンドルと魔石そして鉄の板に手を翳す。

そして、白い魔力が全てを飲み込む。


メルは、思考を働かす。


(ハンドルの裏に浄化の魔法陣を〜展開する。魔力消費減少を付与して〜

魔石を取り付ける場所〜このネジの穴に嵌めるかぁ〜そしてカバーをして〜

魔石の残量がわかるほうが良いよね〜。

う〜ん。なんか可愛くないなぁ。

あっ!そうだ!……ふふふっ。可愛くなったよ〜)


メルは手を翳すのを辞めて言う。


「父様〜出来たよ〜。」


メルはケインにハンドルを渡す。


「メル!このハンドルねじの穴がなくなってるんだが。

これでは取り付けられんぞ。」


「父様〜水道の上に持って行けば、勝手に〜付くの〜。」


ケインは、水道にハンドルを持って行く。

すると、引き寄せられるように水道の上部に自然と収まったのだ。


皆が注目する中、ケインは水道のハンドルをまわす。


すると、ハンドルの上部が青く光り、何やら絵が浮かびあがる。犬が舌を出している絵だった。


メルが言う。

「その絵は、シャドウだよ〜可愛いでしょ〜

魔石の交換時期がわかったほうが良いかな〜って思って〜青い時は魔石が力持ってる時。

半分以下になったら黄色になるの〜

ほとんどなくなったら〜赤になるの〜」


ケインは、笑いながら言う。


「ぶっ!ハハハッ!

メル!これ、シャドウの顔か!

メルには、シャドウがこんな風に見えてんのか!ハハハッ!」


「ケイン!ウケるのは後だ。

水だ!水は浄化されてんのか?」


サイラスが、そう言いながらコップに水を入れる。


婆やが鑑定する。


「まあ!毒が消えています。」


すると、その水をミーアが飲んだのだ。


「ごくっゴクゴク!ぷは〜

美味しいです!」


「ミーア!お前!怖くなかったのか!」


「はい!だって〜メルちゃんが作ったものだし〜もし〜また倒れても〜メルちゃんが〜助けてくれますから。

私は〜こんなことしか出来ないから。

出来ることは〜なんでもしたいんです〜。」


ケインは、ミーアの頭を撫でて笑った。


枢機卿も水を飲む。


「うん!これは、美味い!水がこんなに美味かったか!?

絶対前より美味い!なんか力も湧くような!」


「枢機卿!取り敢えず味は、どうでも良い!

飲んでどうもないのだな!」


「はい!どうもないです。力が湧くくらいですかね。」


「よし!それなら、サイラス!手が空いてる者で、メルが作ったキュアポーションを薄めるんだ。

王都以外の街に出来次第、サイラス転移魔法で配ってくれ!

皆大変なのは、わかっている!

しかし、まだまだ王都以外の場所も苦しんでいる!全てを助けるんだ!

マール共和国のクソみたいな奴らに負けんじゃねえぞ!頼むぞ!」


「「「「「「はい!」」」」」


婆やがメルに言う。


「お嬢様。お腹が空いているでしょう。

婆やが今からサンドイッチを作りますから

まずは、それを食べてください。

その間は、キュアポーションを薄めた物の効力を知る為にキュアポーションで対応してもらいましょう。旦那様。それでよろしいですね。」


「ああ!そうだな。確かに薄めた物の効力を知らねばならん。

メル少し休憩だ。」


「さあ、お嬢様、ミーアお嬢様も。

一緒にサンドイッチを召し上がってくださいませ。」


メルの発明した、ハンドル。

後に浄化ハンドルと呼ばれることとなる。

その話は、また後日。

取り敢えず、メルの発明で少し明るい未来が見えたのだった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ここは、マール共和国のある一室。


大統領候補が報告を受け、頭を抱えていた。


「何故!ほぼ王国全域に毒が広がっているんだ!

そこまでやれとは言っとらんぞ!

奴は!奴は帰ってきたのか!」


「いえ。見張っていた者の話だと。捕まったとか。」


「なっなんだと!

くっ!ヤバい!ヤバい!ぞ!

なんでこんなに、広がってるんだ!」


この大統領候補、ポイズンキングトードの繁殖力を舐めていたのだ。

舐めていたというか、無知だったと言ったほうが良いか。


ブルブル震え出す、大統領候補。

全く愚かな男であった。


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