第9話 お嬢様、見参!

翌日、メルはいつものように起きてリビングに行く。


するとシャドウが既に仰向けに聖獣フェンリルの姿で待っていた。


「ワン!ワン!」


「シャドウ〜おはよう!

何〜?シャドウ〜もしかしてワシャワシャタイム?

え〜なんか〜やだな〜シャドウの人化を見ちゃったから〜ワシャワシャするの〜」


「クゥ〜ン〜」


「ふふふっ。ずっるいんだ〜

その声はズルいでしょう〜。

しょうがないな〜

じゃあ〜いくよ〜

ワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャ……

はい!終わり!」


メルが席に付く。


シャドウは、人化し、メルに挨拶する。


「お嬢様。おはようございます。」


「シャドウ〜さっき〜おはよう言ったよ〜。」


「はい!人化では、言ってませんので。」


ケインが呆れた顔で言う。


「シャドウ!面倒臭い奴だな!」


「主よ。挨拶は何度しても良いと思われますが。」


「本当に面倒臭い奴だ!

まあ、良いわ!

メル!今日は、どうするんだ?」


「もぐもぐゴクン。

父様〜。今日は〜ミーアちゃんの家に行くの〜鍛治を〜見せて貰うの〜」


「ほう!そうか。丁度良い!

シャドウ!貴族派の奴らが嫌がらせに来るやもしれん。

メルを頼むぞ。後でレナとサイラスも行かすからな。」


「えっ。シャドウも行くの〜!

お友達の家に〜!何でよ〜」


「お嬢様。私は、お嬢様の護衛ですから。」


「メル。ミーアちゃんの父様は、父様の仲間になった。まあ、友達みたいなもんだ。

なんか、嫌がらせを受けてるらしいからな。

父様達が守ってやらんといかん。

メルの護衛でシャドウが付いていくのは、丁度良いことなんだ。」


爺が言う。


「では、馬車の用意をしておきます。」


メルが焦って言う。


「爺〜!良いよ〜歩いていくし〜。

王都を一度歩いて見たいもの〜」


「お嬢様。それはいけません。

レディは、馬車をお使いになるものです。」


ローザが笑いながら言う。


「メルちゃん〜メルちゃんは、レディじゃなかったのかしら〜?

馬車を使わないなんて〜。」


「フフフッ。お嬢様は、立派なレディですから馬車をお使いになりますね。」


「はっい。

私はレディなのです〜爺〜馬車を使うのです〜ふふふっ。」


皆が笑ったのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


爺の操車でメルとシャドウを乗せたフォスター家の白馬車が王都を走る。


貴族街を抜け、商業街に差し掛かる。

朝だが商業街は人通りがやはり凄い。

流石は、王都の中心という感じだ。


商業街を抜けると雰囲気も一変する。

職人達の怒号とも言える声が聞こえてくる。

モノづくりをする者達は、気性が荒い。

弟子に指導するのも、喧嘩ごしなのだ。

職人街には、商業街と違った活気がここにはあったのだ。


煙突からモクモクと煙を立てている建物。

倉庫のような建物。

建物も商業街と一線を画していた。


馬車がスピードを落とす。三本の煙突から煙をモクモクと立てている、他の所よりも大きな建物の前で白馬車が停車した。


爺によって、馬車の扉が開けられメルが降り立つ。

続けてシャドウが降りる。


「シャドウ様。それでは、後でレナ様とサイラス様をお連れいたします。」


「はい。爺。よろしくお願いします。」


メルが馬車から降りるとミーアとミーアの両親が表に出てきていた。


「メルちゃん〜!キャスバル鍛治屋にようこそ!……ふふふっ。なんてね。」


「ミーアちゃん〜きたよ〜!

ミーアちゃんの〜父様と母様〜

メルル・フォン・フォスターです。

お招き頂いてありがとうございます。

今日はよろしくお願いいたします。」


「お嬢様。ようこそお越しくださいました。

汚いところで申し訳ないです。

ごゆっくりお過ごしください。」


「ありがとう〜ございます〜。

シャドウ〜!貴方も挨拶!

挨拶も出来ない大人は〜ダメなんだよ〜

紳士は〜どんな時でも〜スマートに挨拶しないと〜」


「おっと!これは、失礼いたしました。

お嬢様に叱られてしまいました。

お嬢様の護衛で今日はお邪魔いたしました。

よろしくお願いします。

私のことは、お気になさらず。」


「シャドウ様。

ケイン様の寄子となりました。

これからよろしくお願いいたします。」


「あっ!そうか〜

ミーアちゃん〜父様が今日朝に言ってたんだよ〜

父様とミーアちゃんの父様〜前から知り合いだったけど〜昨日から仲間、お友達になったって〜。」


「わあ〜本当に〜!私達と一緒だね〜」


「いや、ミーア!ちが「ジル殿!それでよろしいかと。主も、そうお嬢様に言っておりました。主は、そう言う人です。気楽に行きましょう。」


ミーアの父様が否定しようとしたのをシャドウは打ち消した。

メルとミーアの友情に親同士の関係性を真面目に言う必要は無いということだ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ミーアとメルは炉の前にいた。


炉の熱でとても熱い。


ミーアが炉から熱した鉄を取り出す。

真っ赤に色づいた鉄に、ミーアはハンマーを打ち下ろす。

キィィィィィィィィィィィィィィィィィィン

澄んだ音が響く。


「こうやって〜熱しては〜叩くを繰り返すの〜叩くことによって〜鍛えられていくんだよ〜

今回は〜ちょっと省くね〜

それで形が出来たのが〜これね〜

ここから、磨きに掛かるの。」


砥石を取り出して、ミーアは磨きに掛かる。


シュシュシュシュシュシュっ。

これもまた、心地の良い音だ。


「これも間を〜省くね〜

しっかり刃を立てたら、仕上げ磨きをして〜

柄をつけたら出来上がりだよ!」


ミーアが出来上がっているナイフを出して見せる。


「これね〜最初から最後まで私が作った

ナイフなんだ〜自分の中でも〜よく出来たと思えるナイフなんだよ〜

これ、メルちゃんにプレゼントだよ〜。」


「えっ!えっ〜!もっもらえないよ〜そんな立派なナイフ!ねえ!シャドウ!そう思わない?」


「確かに、金貨一枚、いや三枚ですか?」


「ふふふっ。シャドウ様〜。私まだ見習いですよ〜。

そんなにしませんよ!

メルちゃん〜メルちゃんにプレゼントしたいの〜お友達記念だよ〜ダメかな?」


「お嬢様。お友達記念なら、断るのは違いますよ。」


「………ミーアちゃん!ありがとう〜!

お友達記念で〜頂くね。一生大事にするね!」


「ふふふっ。」

「ふふふっ。」


二人は抱き合って、笑った。


そんな時だった。


入口付近で怒鳴り声が響いた。

ミーアの顔が青ざめる。


「だから!無理なんです!

玉鋼を作るには、最低でも3日はかかるんです!

今日言われて今日お渡しできるものではないんです!」


「なんだ!鍛治屋が、子爵の私に恥をかかせるのか!

伯爵に今日お渡しする約束をしたんだ!

なんとかしろ!」


メルは、覗き込んで見ていた。


子爵らしき小太りの男は、偉そうな態度で無茶をいいながら、ニヤニヤ笑っていた。

その子爵の従者もニヤニヤ笑っていた。


「真砂砂鉄を木炭で3日かけて溶かさないと玉鋼は出来ないんです!無理なんです!」


「貴様!騎士爵が子爵の私に口ごたえするのか!」


メルは、飛び出していた。


「ミーアちゃんの父様〜

真砂砂鉄はどこにありますか〜

木炭と〜。

私が〜錬金術で玉鋼を作ります〜」


「お嬢様!勝手に飛び出さないでください!

……ジル殿。

お嬢様に真砂砂鉄と木炭を!」


ジルがメルに真砂砂鉄と木炭を渡す。


メルは、すぐさま手を翳し真砂砂鉄と木炭を魔力で包み込む。


すぐに、光輝く。


そして、光が収まる。

玉鋼が出来上がっていた。ジルが驚愕する。


すると、メルが玉鋼を持って子爵の前に行き、子爵の足元に玉鋼を転がす。


「玉鋼。これで良いのでしょう!

性格の悪いおじさん!

ほら!代金払いなさいよね!

代金払ってとっとと帰りなさい!」


子爵は、顔を鬼のように変え真っ赤な顔で言う。


「きっ貴様〜!誰にものを言っている!

このガキが!殺すぞ!」


「やって見なさいよ!」


子爵の従者が剣に手を掛けた。


その時、メルの前にシャドウが立つ。


「おい!剣を抜いたら覚悟出来ているのだろうな。

私は、シャドウ!聖獣フェンリルのシャドウだ。

子爵!

誰にものを言っているだと?!

其方こそ、誰にものを言っている。

こちらのお方を誰だと心得る。

メルル・フォン・フォスター様、フォスター公爵家御令嬢であるぞ!」


子爵は後退りしながら言う。


「其方は、男爵であろう!子爵に対してその口のきき方はおかしいだろ!」


すると、子爵の背後から声がした。

レナだった。


「貴族派は、実力もないのに爵位の序列ばかり口にする!

シャドウ!ここは、私に任せろ!

子爵!では、私は伯爵だ!

その私から言わせて貰う。

貴様!フォスター公爵家御令嬢に殺すとは、どういうことか?!

それは、何か?

フォスター公爵家寄子の我らと殺しあいをするということか?

なんなら、今ここでやってやるが、どうするのだ?

貴族派が元勇者パーティとやり合うつもりなら、いつでもやってやる。

そのかわり、覚悟しておけよ。

一瞬で炭にしてやるからな!」


サイラスが言う。


「それと、其方達貴族派は、散々キャスバル騎士爵に嫌がらせをしていたな。

現実、今現場も抑えた。

キャスバル騎士爵は、フォスター公爵の寄子だぞ!

昨日、寄子となったのだ。

これがフォスター公爵からの親書だ。

フォスター公爵の寄子のキャスバル騎士爵に嫌がらせ、そして、公爵令嬢に殺すと脅したこと、これは確実に元勇者パーティへの敵対行為だ。

覚悟できているんだろうな!」


メルが言う。

「レナおばちゃんも髭のオッチャンも〜

怖いよ〜

人殺しは駄目なの〜

殺しても良いのは、魔物なの〜。

でも〜ミーアちゃんの〜父様に嫌がらせをしていたのは許せないの〜。

謝って欲しいの。

貴族派?とか言われる人達全部で〜!」


「返事をせんか!

お嬢様が言われているのに!

すぐに貴族派の者達を集めろ!

王都に居るのはわかっている!

昨日王子の婚儀パーティがあったのだからな!

フォスター公爵も、じきに、ここに来られる!

わかったら直ぐに動かんか!本当に殺すぞ!」


そう言ってレナは、子爵を蹴飛ばした。


子爵とその従者は這うように鍛治屋から出て行ったのだ。


「シャドウ!メルちゃんに殺すと言った時点で、叩きのめしなさいよ!

大義名分には充分でしょう!」


「レナ様、私は、魔物以外にあまり安易に手を出せないのです。

お嬢様に叱られますから。」


「ハハハッ!天下の聖獣フェンリルも、メルちゃんには敵わないってか。」


「メルちゃん!

私、鞄持ってきたの〜!

鞄持ってきたのよ!魔法鞄にお願いします!」


「え〜。さっきレナおばちゃん怖かったから

〜どうしようかな〜?」


「えっ!え〜!そっそんなぁ〜!」


「ふふふっ。嘘だよん。

ミーアちゃんの為に〜怒ってくれたから〜

直ぐに〜作るよ〜」


「……よっ良かった〜……」


レナは、胸を撫で下ろすのだった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



今、職人街のキャスバル鍛治屋の前は、人でごった返していた。


何故なら、貴族派の貴族達が土下座をしているからだ。


その前には、鬼の形相のケインとレナ、サイラス、ミレーネ、ガロ、シャドウ、元勇者パーティが同じく睨みつけていたのだ。


「おい!ウーゴ!俺の娘に殺すと言う暴言を吐いたこと。俺の寄子のキャスバル騎士爵に散々嫌がらせをしていたこと!

覚悟できてんだろうな!

それから、ここに来るまで職人達や、民からの陳情を山程受けた!

お前達、好き放題やってたようだな!

俺が王都に帰ってきたからには、見逃す訳にいかねえ!

なんか、言うことはあるか!」


ウーゴ伯爵が汗をダラダラ書きながら、言う。


「こっ公爵!公爵の姫君だと子爵も知っていれば、そんな大それたことを言うはずがないのです!」


ケインが圧を強める。


「それは、つまり民になら横暴な振る舞いは構わないと言ったようなものだぞ!」


「ひぃ!」


すると、メルがミーアと手を繋いでやってきた。

そして、メルは父ケインに目配せをして、貴族派の貴族の前に立つ。

そして、メルの雰囲気が一変した。

とても、神々しい雰囲気に満ち溢れていた。


「顔を上げなさい。

顔を上げて、私の顔をよく見て話を聞くのです。


"貴族は民のリーダーとして王家に選ばれた人。"


"貴族は、民の生活を豊かにする施策を打たなければならない"


"貴族は、王家とともに民の為にあらねばならない。"


"貴族は、国の危機に際し、真っ先に動かないといけない"


私が、今まで父ケイン・フォン・フォスターと聖女ローザ・フォン・フォスターから教わった貴族の在り方です。


言い方を変えれば、貴族は民の中からリーダーとして王家に選ばれただけの者達。

王家からすれば民とは、貴族の貴方達と平民の皆さんとなんら変わりはありません!

そこに、平民、貴族の区別はないのです!


民のリーダーたる者が!職人に嫌がらせをする!民に横暴な振る舞いをする!民の生活に不安を与える!

それで、貴族を名乗れるのですか!


大いに反省をなさってください!

言葉でわかるような方なら、こんな騒動にはなっていないでしょう。

なので、私が裁きをくだします!」


メルは、ミーアの手を握っている手ではない、右手を空中にポンポンポンポンと貴族派の貴族の人数分魔法陣を展開した。

その魔法陣が貴族派の貴族の頭上に移動する。

魔法陣が輝き出す。

貴族派の貴族が恐れおののき、ガクガク震える。

すると、貴族派の貴族達の頭に、飴玉くらいの石がコツンと落ちたのだ。


「ふふふっ。今回は、これで許します。

しかし、次はないですよ!

次もし同じようなことがあれば、

貴方達の王都の屋敷と領地の屋敷に隕石の雨が降り注ぎますよ!」


メルは魔力を、高めた。


貴族派の貴族達の頭上の魔法陣がそれぞれ、特大の魔法陣に変化したのだ。

本当に隕石を降らすことができると言う証明だった。

貴族達は、ブルブル震えて必死にメルに詫びる。


「私に詫びても意味がありません!

散々迷惑をかけたここに集まっている方達に詫びなさい!」


周りで見ていた民や、職人達から歓声が上がる。


メルに手を合わせる民もいるくらいだ。


貴族派の貴族達は、その後全員で民に頭を下げたのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「しかし、メルちゃん凄かったな!

貴族派の奴らの前に立った瞬間雰囲気が一変したぜ!

神々しい姿に。

まるでローザが神聖魔法を放つ前のようだった。血は争えないってことか…。」


「サイラス様。お嬢様の神格はあんなもんではございませんよ。

今日は指輪一つ外されていません。

私は黒き森で指輪一つですが、外されたお姿を拝見しております。

あの凶暴なブラッディタイガーの群れが、そのお姿を見ただけで失神したのです。

あれは、まさに神の所業でした。」


「本当に凄いわ。今日のあれ!魔法の多重展開でしょ!

私も教えて欲しいわ!」


「ハハハッ!レナ!お前多重展開出来た所でお前の魔力量じゃ、すぐ魔力切れ起こすぜ!

メルは、凄えぞ!指輪で魔力を抑えているが、魔力量は底知れねえ。

帝国、共和国が同時に攻めてきたとしても、メルなら、一気に蹴散らすことができる!

フィリア王国の隠し玉だ!ハハハッ!」


笑えるケインも、別次元の強さを持っているのだ。


今回の一件で貴族派は、消滅に至った。

貴族派だった貴族は、王族派、教会派にそれぞれ身を寄せたのであった。

貴族派が無くなったことで王族派も教会派も派と呼ぶ必要がなくなり、派閥は自然と消滅したのだった。



    ー第一章 完ー


☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


応援ありがとうございます!

こちらは、リニューアル版です。

内容は変わりませんが、表現を変えて、加筆を加えたものとなります。


明日から、第二章のはじまりです。

これからも引き続きよろしくお願いいたします!


今、メルが成長した物語も投稿中です。


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