第8話 お嬢様は、隠し事は苦手

「もぐもぐゴクン。

メルちゃん〜このクッキー〜凄く美味しいよ。」


「ミレーネお姉ちゃん〜ミーアちゃんが〜クッキー美味しいって!」


「嬉しいでございますなのですよ!

ミーアちゃん♡いつでも、メルちゃんとお店に来るでございますなのですよ!

お茶とお菓子を食べてお話しするでございますなのですよ。」


「えっ。良いのですか〜?」


「ふふふっ。良いでございますなのですよ!

メルちゃんの親友は、家族みたいなものでございますなのですよ!」


「メルちゃん〜母様そろそろ行くね〜

さっさとお仕事終わらせてくるね〜。

ではレナ〜ミレーネ〜お願いね〜。」


聖女ローザは、その場を立ち去ったのだ。


「メルちゃん〜聖女様〜とても綺麗でお優しい人〜!

私、聖女様とお話ししちゃった〜」


メルは、自分の親を誉められて、ちょっぴり照れた。


その頃、セシル・ウーゴをリーダーとする貴族派のお嬢様達は、セシルの思いついたことを聞いていたのだ。


「貴方、風魔法が使えるんでしたわよね。

あの騎士爵の娘に向かって風魔法を放ちなさい。

あの娘をあのお菓子のテーブルに突っ込ますのよ。

いやしさのあまりテーブルに突っ込んでしまったように見せかけるのです。

そうすれば、メル様も呆れてあの娘から離れますわ。」


そう言われたお嬢様は、ブルブル震えだした。

人に向けて魔法を放つように言われたから当然である。

ましてや、ここは婚儀パーティーの場。

王族が居るのだ。

陛下の御前で魔法を放つことは、ご法度なのだ。


「むっ無理ですわ…陛下の御前ですし……」


「大丈夫よ。微力な魔力なら今のこの状況、誰も気づかないわ。

貴方、お父様のお立場がおわかりなの?

たかが男爵なのに、私のお父様が目を掛けてあげているのよ。

貴方も、自分の父上の力にならないといけないのではなくって。

上手くやれば、私がお父様に貴方の父上を引き上げるよう伝えて差し上げます。」


男爵の娘は、ブルブル震えている。


そして、セシルからの圧力だけでなく、周りの子爵令嬢やその他の令嬢からの圧力もかかっていたのだ。


男爵令嬢は、ブルブル震えながら足を進めた。


視界に、ミーアの背中を捉えたのだ。


ブルブル震えながら、ミーアの背中目掛けて風魔法を放ったのだ。



「もぐもぐゴクン。うん?」

「ミレーネ!あんたね!…うん?」

ごくごく微力な魔力を感知したのは、メルとレナだった。


レナが気づいた時には、風魔法の小さなつむじ風のような風がミーアに迫っていた。

小さなつむじ風でも、10歳の女の子なら吹き飛ぶだろう。

レナは、間に合わないと思った時、メルが左腕に魔力を纏った。

そして、まるで埃を払うかのように、そのつむじ風を打ち消したのだ。


レナは、男爵令嬢に足を向け叫ぼうとした。


「ちょっ!おま「レナおばちゃん〜優しくお話してね。」


レナの叫びをメルがかき消したのだ。


男爵令嬢は、その場にへたり込む。


「もぐもぐゴクン。メルちゃん〜どうしたの〜?」


「うん。なんでもないよ〜。

あっ!ミーアちゃん〜あの向こうのケーキ食べた〜?凄く美味しそうだよ〜

行こう〜!」


レナは、男爵令嬢の腕を縛りあげようとした時、そこにシャドウが現れた。

シャドウは、男爵令嬢を起こし手を取りエスコートする。


「待て!シャドウ!

陛下の御前で魔法を放ったのだ。それも人に向けて!これは、罪だぞ!」


「レナ様。お嬢様は、レナ様に何と言われましたか?」


「……優しくお話ししてねと……」


「という事です。

別室に連れて行きます。」


「甘い!甘すぎる!こんなことを許していたら、秩序も何も「レナ様。お嬢様は何と言われましたか?」


「優しくお話ししてね……ああ!クソっ!」


「主、ケイン様も、お嬢様が事前に防いで大事にならないようにした。厳重注意で良いとの事です。

あれだけ微力な魔力です。

お嬢様と元勇者パーティの我々しか気付いておりません。」


「微力な魔法でも、怪我はするのだぞ!」


「はい。存知あげてます。

しかし、お嬢様が魔法を打ち消された。

何事も起きておりません。

レナ様。王子の大事な婚儀パーティーです。

このようなことで、パーティーを汚して良いのですか?

当然、親も呼び出します。

私と同じ男爵ですので、私じゃ役不足です。

親との話は、レナ様お願いいたします。

このお嬢様も、周りのお嬢様からの圧力を受けてやらされたのです。

それをわかっておられるから、お嬢様もレナ様に優しくお話ししてねと言われたのです。」


「………わかった!

そのかわり、親は別室で絞りつくしてやる!

親のクソつまらない思想が招いたことだろうからな!」


「はい。伯爵としてそこは、バシっと教育していただけたらと思います。」


シャドウは男爵令嬢をエスコートして、レナとともに会場を後にしたのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「もぐもぐゴクン。

ミーアちゃん〜鍛治を見てみたいな〜

明日〜お邪魔したら〜ダメかな〜?」


「もぐもぐゴクン。

メルちゃんなら〜大丈夫だよ〜

お友達だもん。

父様も母様も喜んでくれると思うよ〜」


「やったぁ〜!

お友達のおうちに〜初めてお邪魔するの〜

なんか〜楽しみ〜。」


「ふふふっ。でもメルちゃん〜とても汚いところだからね〜。

綺麗なところを想像しないで〜。」


「お仕事する場所だもの〜

わかっているよ〜

ふふふっ。なんか〜お腹いっぱいになっちゃった〜

なんか〜勿体ないよね〜こんなに美味しいお菓子なのに〜こんなに残ってるなんて〜

他のお嬢様達は食べずに何をやってんだか。」


するとメルの背後で声がした。


「ほう!

それは、いかんのう。

メルちゃんの大好物だと聞いたから、山程

用意したのだが、少し多すぎたか!

メルちゃんとお友達にお土産で持って帰ってもらおうとするかの。」


「ジイジ!

ジイジ、私は怒っているのですからね〜」


フィリア王国国王だった。

メルは、国王、ジイジに向かって腕組みして、怒った表情をした。


「何じゃ〜?なんでメルちゃん怒っているのじゃ?」


「ジイジが〜王様なんて〜聞いてないよ〜!

私も〜昨日まで〜貧乏人だと〜思ってた〜!

ジイジの嘘つき!嘘つき嫌い〜!」


「おっ!めっメルちゃん!

ジイジは嘘つきではないぞ!

決して嘘はついとらん!

黙っておいただけじゃ。

メルちゃんに嫌いとか言われたら、ジイジは辛いのう。」


国王陛下が、慌てふためいていた。


「ふふふっ。ジイジ〜確かに嘘はついてないね〜黙ってただけか〜

じゃあ〜許してあげる!

ジイジ!久しぶりだね〜!」


メルは、笑顔でジイジである国王陛下に抱きついた。


「ハハハッ!もうメルちゃんには、敵わんのう。

ツンからのデレじゃ。

ローザと一緒じゃ。

メルちゃん、お友達を紹介してくれんか。」


「はっい!

私のお友達のミーアちゃんです!

ミーアちゃん凄いんだよ〜

鍛治できるんだよ〜

刀を作るのが夢なんだって〜

後で〜斬月を見せてあげるの〜」


「…陛下、ミーア・キャスバルと申します。

めっメルちゃんとお友達になりました。

よろしくお願いします。」


「おお!鍛治と言うからもしやと思ったが、キャスバル騎士爵のジルの娘さんか!

その年でもう、鍛治を!

それは、凄いのう。

刀を作るのが夢か。

その夢は、大事にするのじゃよ。

其方だけの物だからな。」


ミーアは、頷く。


「ジイジ!ミーアちゃんの父様は〜この名刀斬月と〜黒刀マサムネを作ったんだよ〜

この斬月を超える刀を作るのが〜

ミーアちゃんの夢なんだよ〜」


「メルちゃん。知っとる。知っとるとも。

斬月とマサムネの作者がミーアちゃんの父様だということは。

だって、そうじゃろう。

ジイジが、その腕をかって爵位を授けたんだからの。

今日の婚儀の為の王子のロングソードも頼んだのじゃからな。」


ミーアは、王様に腕を認められている父様を誇りに思いとても嬉しく思った。


「さあ、どれ、メルちゃん。

ジイジにも、名刀斬月を見せておくれ!」


「ここでは〜ダメだよ〜。

父様が〜帯剣するのは良いけど〜

抜いてはダメと言ってたもの〜

ルールなんだよ〜」


「ハハハッ!そうかそうか。

ルールか。

成程!

メルちゃん!これはな。大きな声では言えんのだがな。

ジイジは、ルールを破るのが実は大好きなのじゃ。

バァバには内緒じゃよ。

だから、ジイジに名刀斬月を見せておくれ。

これは、ミーアちゃんの為にもなるんじゃよ。

ミーアちゃんも、後でとか言わずに今見ることが出来るんだからな。」


「ジイジ〜わっるいね〜

怒られても知らないよ〜」


メルは、帯剣していた名刀斬月を国王陛下に渡した。


「ミーアちゃんや。もっと近くにおいで。

さあ、抜くぞ。」


国王陛下は、名刀斬月を抜いた。


ミーアは、陛下に後ろから抱かれるような形で名刀斬月を見る。


青白い光を放つ刀身が露わになる。


反りのない直刀だ。

光があたり、刀身の刃文も綺麗に見えた。

ミーアは、頭に刻み込むように真剣に名刀斬月を見つめる。

まるで、斬月に吸い込まれるように息をするのも忘れるくらいに。


数分は見つめただろうか。

ミーアは、我にかえった。

あたりを見渡すとメルの姿が無かった。


そして、振り返ると綺麗な女性に抱かれたメルがいた。

王妃だった。

メルが何やら、王妃の耳元で言っている。


「バァバ〜ジイジわっるいんだよ〜

ジイジ〜ルールを破るのが大好きなんだって〜バァバには内緒なんだって〜」


国王陛下が、頭を抱えて言う。


「あちゃ〜。メルちゃん!

バァバには、内緒だと言ったじゃろに!」


王妃は、抱きしめているメルの頭を優しく撫でながら言う。


「ふふふっ。

貴方〜私とメルちゃんの間に〜隠し事はないのですよ〜

ねえ〜メルちゃん!

ジイジは〜お馬鹿さんね〜」


メルは、ジイジの顔を見て悪戯っ子のように笑ったのだった。


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