第5話 お嬢様は、カモ?

ギルドの裏のスペースにメルは魔法袋からグレートビッグボアを三頭下ろした。


「おお!こりゃ!良い!

後で王城に運んどくわ!

ローザが王都に戻るなら、ポーションは直接ローザが教会に持っていけば良いんじゃねえのか?」


「サイラス!違えよ。

王家が教会に下ろすことに意味があんだよ。

王家も民のことをしっかり考えているということのアピールになる!

国を治める為の一つの手だ。」


「ほう!珍しくケインが公爵様らしく見えたぜ!ハハハッ!

しかし、やっとお前らが王都に戻ってくれる。俺ら寄子は、かなり楽になるぜ!」


「寄子?なんだそりゃ?!」


「おいおい!ケイン!お前頼むぜ!

俺、レナ、ミレーネ、ガロ、元勇者パーティは、お前の寄子だろうが!

本当に頼むぜ!

お前が、黒き森に篭ってられたのも、お前の仕事を俺達が分担してたからだろうが!

それを割り振った爺と婆やの手腕ありきだが!

ガロなんか、俺とレナとミレーネが王都から離れられねえから、俺達とお前の領地全て一人で管理してるんだぞ!

お前、俺らの親だぜ公爵様なんだからよ!

本当頼むぜ!」


「ふん!なんか可愛げのねえ子だぜ!

子っていうのは、メルみたいに可愛いのが子なんだよ!」


「………まあ、お前に言っても無駄か。

でも、王都に帰ってきたんだ!公爵らしい仕事はしてもらうからな!

帝国、マール共和国の2国がきな臭い今、王国が一つにならなきゃならねえ。

でも、実際は王族派、教会派、貴族派と三つの派閥に別れてつまらねえことで、揉めてやがる。利権がどうのこうのってよ。」


「なんだ?派閥?知らねえぞ!なんだそれは!?」


そこに、ローザがやってきた。


「ケイン〜長くなるでしょう〜メルちゃんとミレーネの所でお茶を頂いておくわ〜

メルちゃん〜母様と〜先にミレーネの所に行っておきましょう!」


「は〜い!ヤッタ〜!クッキーだ〜!

父様行ってくるね〜!髭のおっちゃん〜

クッキー頂いてくるね〜」


「おう!メルちゃん!

行っといで!山程貰っておいで!」


髭面の熊のようなサイラスがニコニコ笑顔で、手を振ってメルを見送る。


メルとローザは商業ギルドを出て行ったのだ。


「ハハハッ!メルちゃんは、本当に可愛いな!純粋っていうか!

スレずに、このまま育って欲しいな!」


「お前、やらんぞ!

一生俺の元に置いとくんだから!

変な虫が付いたら、叩き斬ってやる!」


「お前の溺愛ぶりも、そこまでくると恐怖を感じるわ!

それこそ、お前!派閥に注意が必要たぜ!

メルちゃん春から学園に通うんだろ?

あんな純粋な子、派閥争いしてる奴らからすると、良いカモだぜ!

心配だなぁ。あんな良い子が、カモられるの。」


「なんで、派閥争いにメルが関係すんだよ!

なんも関係ねえだろうが!」


サイラスは、苦い顔をしながら棚から飲み物を取り、ケインに投げて渡す。

そして言った。


「それが大ありなんだよな。

どこの派閥もお前とローザが王都に帰ってきたと知りゃ、自分達の派閥に引き込みたいと考えるのさ!

元勇者パーティももれなく付いてくんだから。

それこそ、なんの繋がりもねえ貴族派なんて目の色変えて手段も選ばずやってくるぜ!

そこに、ケインとローザの娘が学園に入学してくるんだ。

奴らの子供を使って、やれ、お茶会だ、舞踏会だとメルちゃんを誘って、お前達とのパイプを太くしようとする。

お前、メルちゃんが、"お友達に〜お茶会に呼ばれたの〜父様も母様も来てって!"って言われたら、行かねえって言えるか?!

言えんだろ!」


ケインは、苦い顔をして言う。


「うぐぐぐぐっ。汚ねえ!汚ねえぞ! 

そんなの断れねえじゃねえか!

汚ねえ!」


「だから、心配してんじゃねえか!

まあ、早速王子の婚儀パーティがあるだろ?!

そこで、必ず貴族派の子供達は、メルちゃんに近づいてくるだろうな。

貴族派の子供は、メルちゃんと同世代が多い!

親も若い貴族だからな!

王都にいる子供は、言い方を変えると聡い。

ずる賢いんだ。メルちゃんみたいな純粋な子。イチコロだぜ。」


「おい!サイラス!

俺は、いまいちその派閥ってのが良くわからん?なんだ、その…王族派?教会派?貴族派か?なんなんだそれは!?」


「王族派ってのは、そのままだ。王族の為の貴族って考えのやつだ。

王族派のリーダーは、お前も良く知ってるロラン侯爵だ。

教会派は、平等の世界を謳う教会を信仰してる貴族の集まりだ。

教会派のリーダーは、シーガー枢機卿。

これも、お前良く知ってる人物だろ?!

問題は、ここ一年くらいで台頭してきた貴族派だ。

貴族は、貴族の為にあるという訳のわからんことを主張している横暴な奴らだ。

ここのリーダーが2年前に親から譲り受けた爵位を翳して好き勝手やってるウーゴ伯爵だ。」


ケインがハッと気づいた。


「ウーゴ伯爵!王子のお相手の兄貴か!」


「そうだ!

まあ、王子とキシリア様は学園時代からの付き合いで、本当に純粋に愛し合っておられるがな。

でも、それを利用してウーゴ伯爵は更に力を得ようとしているんだ。」


「サイラスお前、かなり気に食わんようだな。

王族派と教会派はいいのか。」


「王族派と教会派は、以前からあっただろ?!

派と唱えていなかっただけで。

この二つは、リーダーがしっかりしている。

貴族派さえいなければ、民にはなんの害もないものだ。

貴族派は、民の害にしかならん!

民に対しての横暴な振る舞い。職人達への嫌がらせ。

そうだ!お前の刀を作成したジルも、騎士爵という爵位の序列でかなりの嫌がらせを受けているんだ!

なんせ、貴族派の主張は、"貴族とは、上位貴族であり、子爵以下は貴族とは言わぬ!平民は、貴族の為にあるものだ"という貴族優先主義を堂々と公言してやがる!

だから、公爵のお前を必ず貴族派に引き込もうとするだろうさ。

お前を取り込めりゃ、もう王国の貴族を抑えたといって過言ではないからな!」


「馬鹿馬鹿しい。

なんだその中身のない主張は!

民あっての貴族、民あっての国だろうが!

子爵以下を馬鹿にしてるって?

爵位に拘るなとは言わんが、それは馬鹿にして良いことではないぞ!

特に民には、気をかけてやらねばならん!」


「まあ、ケインならそう言ってくれると思っていたぜ!

だからこそ、今、ケインとローザが王都に戻ることに意味があるんだ!

貴族派を黙らせてしまえとは言わねえが、お前とローザが、王族派教会派を束ねて貴族派に圧力を掛けてくれりゃ、助かるヤツも多い。」


「待て!なんで王族派教会派を束ねる?

そんな派閥に入った覚えねえぞ。」


「ああ!入ってねえのは知ってる。当然貴族派の奴らもそれを認識しているだろう!

けど、王族派のロラン侯爵はこうだ。

" ケインは、元第一王女ローザ様と結婚したんだ!これを王族派と言わずどうするのだ" という事だ。

教会派のシーガー枢機卿は、当然こう考えている。

" 聖女ローザ様は、教会の宝。ローザ様と結婚したケインも当然教会派 " という風にな。」


ケインは、納得と言う表情で言う。


「ハハハッ!目に浮かぶわ。

ロランのおやっさんと、シーガーの爺さんの言いそうなことだ。

まあ、良いだろ。

取り敢えず、貴族派が駄目ってことだけわかったぜ!

まあ、おいおい観察させて貰うぜ。」


「俺達も注意して見ておくが、メルちゃん!

メルちゃんだけは、傷ついて欲しくねえ。

気を付けてやってくれよ!」


「お前な!

こう見えて俺は超親馬鹿だぜ!

当たり前だ!

メルには、可能な限りシャドウを付ける。

しかし、俺が居ない間に面倒なことになってやがる!」


ケインは、そう嘆いた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


商業ギルドを出たローザとメル。

人で賑わう商業街を歩く。

すれ違う人達は、ローザを二度見して、振り返る。聖女と気付き手を合わせる者も居た。


すぐに、甘い香りがメルの鼻腔をくすぐる。

ミレーネのクッキー&ケーキ店は商業ギルドの並びにあった。


メルとローザが店の扉を開けて店内に入る。

店内は、お菓子で溢れていた。

焼き菓子は、所々に置かれ、ケーキはガラスケースに綺麗に並べられていた。


「「「「いらっしゃいませ♪」」」」


複数の従業員が、色々な場所から挨拶をする。


一人の女性?女の子?が駆けてくる。


「メルちゃん!ローザお姉様♡

いらっしゃいませでございますなのですよ。」


彼女はミレーネ。

元勇者パーティ、弓士。26歳。

爵位は子爵。

甘い物好きすぎて、魔竜討伐後クッキー&ケーキ店をオープンした。


そして、ミレーネの容姿はまるで少女。

ゴスロリファッションでお胸も発育途上。

見た目は、可愛い十代なのだ。


「さあ、メルちゃん!ローザお姉様♡!奥に行くでございますなのですよ!」


ミレーネに促されて奥の部屋に入るメルとローザ。


可愛い壁紙の部屋。そして、テーブルの真ん中に熊のぬいぐるみ。

可愛いが溢れた部屋であった。

メルとローザは、よくここに来るので何も言わない。

慣れているのだ。


「さあ、今日のお茶は、ロイヤルミルクティーでございますなのですよ。

そして、季節の果物のフルーツタルトと新作のクッキーでございますなのですよ!

おかわりもあるでございますなのですよ。

た〜んとお召し上がりくださいでございますなのですよ!

お持ち帰りのクッキーは、後でお渡しするでございますなのですよ!」


「わぁ〜い。頂きます〜。

もぐもぐっゴクン。

美味しい〜ミルクティーとクッキーが絶妙に合います〜!」


「ふふふっ。とても〜美味しいわ〜。」


メルとローザは、ミレーネのお菓子とお茶を堪能したのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーー


「…………………でございますなのですよ!

それで、レナお姉様が言うのでございますなのですよ!

メルちゃん、魔法袋をつくってくれないかな!って。

それでミレーネは思ったでございますなのですよ!

レナお姉様より先にメルちゃんに魔法袋を作って貰おうと!

先に作って貰って、レナお姉様に見せびらかすでございますなのですよ!」


「まあまあ〜レナは弄られるのね〜

ミレーネは〜悪い娘ね〜

メルちゃん〜作れる〜?」


「もぐもぐッゴクン。

ミレーネお姉ちゃん〜なんか〜鞄が有れば〜それを魔法袋みたいにすることが〜できるの〜ビッグスパイダーの糸で作った布があるから〜その方が簡単なの〜」


すると、ミレーネが鞄を持ってきた。

黒のフリフリが付いたいかにも、ミレーネファッションといった鞄だった。


「メルちゃん!これで作って欲しいでございますなのですよ!

王子の婚儀パーティ用で買ったでございますなのですよ!メルちゃん!お願いしますでございますなのですよ。」


メルは、鞄の中にビッグスパイダーの糸で作った布を入れた。

そして、右手を翳した。


白いモヤが鞄を包む。そして、輝き、輝きがおさまる。


「出来たよ〜」


メルは、ミレーネに鞄を渡す。


ミレーネは、椅子を手にし、入れと言う。

すると鞄の中に椅子が吸い込まれる。

そして、出てこいと言うと椅子が出てきた。


「すっ凄いでございますなのです!

メルちゃん〜どれくらい入るでございますなのですか?」


「もぐもぐッゴクン。

う〜ん。そうだな〜王都の向こうのにある山が〜あるでしょう〜多分あの山くらいなら〜楽勝で〜入ると思うの〜」


「………そっそれは、凄いでございますなのですね……。ビックリでございますなのです。」


「ふふふっ。メルちゃん〜いつか〜レナにも作ってあげてね〜」


「あのオバちゃん〜怒らなかったら〜いいけど〜怒る人は嫌だな〜」


「ふふふっ。レナも〜もう〜メルちゃんには〜怒らないわよ〜コテンパンに負けたし〜ふふふっ。」


この後、ケインが店に来て屋敷に帰ることになったのである。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


メル達を乗せた白馬車が貴族街を走り、一際大きい屋敷の門を潜る。


そして、馬車が停車する。


メル達が馬車を降りるとメイド服を着た女性達が一列に並んでいた。


そして、そのメイド達の前に年配の女性が、立っていた。


「旦那様!奥様!お久しぶりでございます!

お帰りを首を長くしてお待ちしておりましたよ!」


「婆や〜また頼みますね〜。」


「頼りにしてるぞ!婆や!」


「ふふふっ。旦那様、奥様!ありがとうございます!

ふふふっ。それと、メルお嬢様。

お初にお目にかかります。

まあまあ。奥様の幼き頃の面影がございますわ。

メルお嬢様、婆やとお呼び頂きとうございます。よろしくお願いいたします。」


メルは、微笑んで言う。

「ふふふっ。婆や。よろしくお願いします!」


「さあさあ!お疲れでございましょう!

もうすぐにご夕食のご用意もできます。

それまでに、湯浴みでお疲れを癒やしてくださいませ。

メルお嬢様は、婆やにお世話をさせてくださいませ。」


メルは、王都の屋敷に初めて足を踏み入れるのだった。


★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


応援ありがとうございます。


リニューアル版となります。

以前のものより、表現は豊かになっていると思います。

これからもよろしくお願いします!


そして、メルの成長した姿を描いた物語も投稿しています。

こちらも是非お願いいたします。

↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓

https://kakuyomu.jp/works/16817330661954911180


★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る