第1章 お嬢様見参!

第4話 お嬢様王都に行く

翌日の朝、朝食を食べメル達は、王都に向けて出発をした。


シャドウが先行して、黒き森を進んで魔物を排除している。


メルとケイン、ローザは優雅に黒き森を進んでいた。


すると、道の真ん中にグレートビッグボアの死体が三頭。

綺麗に首を落とされていた。


「おっ!シャドウの奴、今回はやらかしてないな!

綺麗に首を落としている。

メル!魔法袋に入れといてくれ!」


「父様〜もうボアは〜いっぱい食べたのです〜」


「メルちゃんは〜もう堪能しちゃったのね〜

じゃあ〜王家に卸しましょう!

喜ぶと思うわ〜ラムザの婚儀パーティにもってこいだもの〜」


「母様〜王族の方達が〜ボアなんて〜お喜びになるの〜?」


「大喜びするわよ〜だって〜メルちゃん〜

ボア美味しいでしょう?」


「うん。美味しいよ〜わかった〜

入れとくね〜」


メルは、知らない。

ボアは、ボアでもグレートビッグボア。

牛で例えると、ただの牛肉と黒毛和牛A5ランクくらいの差があることを。

本当に、王族でもなかなか口にすることができないお肉だということを。


メル達は、黒き森を進む。

黒き森をようやく抜けるという所でシャドウが待っていた。


「シャドウ!お疲れ!

グレートビッグボアは、拾っておいたぞ!

あれは、良い仕留め方だった!」


シャドウは思う。


(……いかん。この前のミス、一生言われるやつだ。お嬢様にペースを乱されなければ、ミスなどしないのに。)


「シャドウ〜?爺はもう、来てるの?

来てるなら、その場所まで〜案内をお願い〜」


「ワン!ワン!」


シャドウがこちらですと言うかのように、先導する。


すると、先に真っ白な馬車と、真っ白な白馬が止まっていた。

馬車の側面には、なにやら家紋が付いている。

その家紋は、盾に聖女らしきレリーフが施され、盾をクロスするように剣ではなく、刀が施されていた。


この家紋は、王国の盾として聖女が存在し、王国の剣として、勇者が存在すると言う意味があるのだ。


その馬車の前で初老の男性が、姿勢良く立っていた。

その男は、執事服をビシっと着こなし、白髪の髪をオールバックに綺麗に整えられ、鼻の下に白髪の髭を蓄えていた。

髭も綺麗に整えられ、とても清潔感のある男性であった。


シャドウが男に、ワンと吠える。


「おっ!シャドウ様!ご案内ありがとうございます!」


「爺〜!久しぶりです〜!

元気にしていましたか〜?」


「これは、姫!いや、違いますな!

奥様とお呼びしないといけませんな。

奥様、お久しぶりでございます。

また、旦那様と奥様にお仕えできること、大変嬉しゅうございます。

昨日レナ様よりご連絡を頂き、婆やとともに喜んだ次第でごさいます。」


「爺!またよろしく頼む!

爺と婆やが居てくれるだけで、こんなに頼もしいことはない!」


「旦那様!勿体無いお言葉でございます!

奥様の後ろに隠れていらっしゃるのは、フフフッ。メルお嬢様ですかな?」


爺は、一歩前に出て膝を付き、メルに視線を合わせて言った。


「メルお嬢様。私は、フォスター家の執事長をさせて頂いております。

爺と呼んで頂きとうございます。

よろしくお願いいたします。」


柔らかい笑みを浮かべて爺は言った。

メルは、その爺の柔らかい表情ですぐに、心を開いた。

ローザの後ろから、出てきて、

片足を斜め後ろの内側に引き、もう片方の足の膝を軽く曲げ、背筋は伸ばしたまま挨拶をする。カーテシーだ。


「メルル・フォン・フォスターです!

爺〜よろしくお願いします!」


「フフフッ!よろしくお願いします!お嬢様。とても、華麗なカーテシーでした。

しかし、爺には勿体のうございます。

その素晴らしいカーテシーは、そうですね。

お嬢様、王族に対してだけでよろしいかと思われます。

しかし、ありがとうございます。

先程の華麗なカーテシー、爺の宝とさせて頂いてもよろしいですか?」


「はっい!ふふふっ。」


「まあ!流石〜爺ですわ〜メルちゃんが〜もう心を開くなんて〜

爺〜メルちゃんをよろしくお願いしますね〜」


「奥様、お嬢様はもうご立派ですぞ!

奥様が、ちゃんとご教育されているのが、先程のカーテシーを見せて頂いて、爺は確信いたしましたぞ!

さあ、それでは王都に戻るといたしましょう。」


メル達は、馬車に乗り込んだ。


爺の操車で真っ白な馬車が動きだしたのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


馬車は、王都を目指して走っていた。

メルは、窓から外を見ながら呟く。


「……凄い、豪華な馬車。

お姫様が〜乗る馬車みたい。真っ白な馬車と〜白馬〜」


メルの呟きにケインが答える。


「メル!まさしく、この馬車はお姫様が乗る馬車だぞ!

メル!お前、自分のことどういう風に思っていたんだ?」


「………王都にも住めない〜貧乏人〜。」


「ぶっ!ハハハッ!王都にも住めない貧乏人か!ハハハッ!そうだな!そうだよな!

黒き森でずっと暮らしてたもんな!

ごめんごめん!

あのな、母様はフィリア王国の元第一王女なんだよ。元バリバリのお姫様なんだ。

今は、父様と結婚して公爵の妻だけどな。

あっ!そうだ母様は、聖女様だからな。

それも知らないだろう?父様は、元勇者だ!」


「母様が〜元第一王女〜?

バリバリのお姫様〜?そして〜聖女様〜?

父様が〜公爵〜?元勇者〜?

えっ……えっ〜!

もしかして〜うちは〜大金持ちなの〜!?」


「言ったろ!?王都にも、途轍もなくデカい屋敷があるって。それから、領地にも!

金持ちだって!」


「父様〜!それは聞いたけど〜

公爵なんかは〜聞いてないよ〜!

母様が〜元王女ってことは〜

ジイジとバァバは、王様と王妃様〜!

マーガレットお姉ちゃんは〜母様の妹だから〜王女様!

ラムザお兄ちゃんは〜母様の弟だから〜

王子様〜!

金持ちって〜次元じゃないよ〜!

ロイヤルファミリーだよ〜!」


「メルちゃん〜でも、ジイジとバァバがメルちゃんに会いに来てた時、父様は〜ジイジのこと陛下、バァバのこと王妃と呼んでいたでしょう〜!?」


「そんなの〜父様が〜ふざけて言ってると思ってた〜!

だってジイジもバァバも〜全然それらしいカッコじゃなかったもん!」


「あっ!そうか〜!お忍びだったからね〜

わざと、すこし綻びた服をきていたわ〜ふふふっ。そりゃわからないか〜」


「だからメルは、公爵令嬢なんだ。

領地にいけば、姫様だぞ!」


「なんか〜実感ない〜!

貧乏人と思ってたのに〜実は公爵令嬢でしたって〜もしかして〜夢見てるの〜

私。」


メルは、頬をつねってみる。


「……痛いわ〜夢じゃないんだ〜」


「ふふふっ。メルちゃん〜王都で楽しく過ごそうね〜」


ローザとケインは、笑っている。

この親、あまり深く物事を考えない、いわゆる脳筋両親なのであった。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


王都が近づくにつれ、人の流れが多くなってきた。


メルは窓から見ていると、商人らしき人達がメルの乗る馬車に手を合わせている。

手を合わせなくても、頭をさげたりしているのに気がついた。


「なんか変なの〜この馬車に頭下げたり、手を合わせて祈ったりしてるの〜。」


「母様が、乗ってることがわかってるからさ!手を合わせてるのは、聖女に手を合わせて祈っているのさ!

頭を下げているのは、フォスター家が乗ってるから、礼を尽くしているさ。

この白馬車は、有名だからな!」


王都に入るのを順番に列を作って待っている横をメル達の馬車は、悠々と進んでいく。


「なんか、ずっるいんだ。

ズルしてます。皆んな並んでいるのに〜」


「メルちゃん〜これはズルではないのよ〜

この列はね〜どこの誰それさんっていうのを確認する為の列なの〜。

この馬車は〜乗ってるのがフォスター家だとわかっているから〜並ばなくていいのよ〜」


「白馬車が〜有名だから〜?」


「まあ、白馬車も有名ね〜。でも馬車の横に家紋が付いていたでしょう!

あれが重要なのよ〜」


メルは、王都は初めてではない。

月に何度かサイラス、髭のおっちゃんにポーションを卸しに来ていた。

しかし、馬車で来るのは初めてなのだ。

いつもは、ケインの勇者の能力で、ケインが片腕でメルを抱いて、もう片腕でローザを抱いて飛んで王都に来ていた。馬車で来るのは初めてだった。

だから、色んな疑問が出てくるのだ。

王都まで飛んで行くというほうが出鱈目なのだが。


王都の門を馬車が潜る。


煌びやかな世界が広がる。


メルは思う。


(今まで〜こんな煌びやかな世界〜私に関係のないものだと思ってた〜

実は〜めちゃくちゃ関係あるじゃん!)



ケインは、爺に商業ギルドに行くよう言っていた。


馬車が商業街に入り、スピードを落としていく。

そして、止まった。

爺が馬車の扉を開ける。

商業街の活気ある声が馬車の中に聞こえてきた。


メルは、爺の手を借りて馬車から降り立つ。


「爺!ありがとう〜」


「フフフッ。お嬢様。ありがとうだなんて、当然のことをしたまでですよ。」


メルは、馬車を降りると慣れた感じで商業ギルドに入っていく。

商業ギルド内が、一気に歓声があがる。


メルは気にせずいつもの受付のお姉さんに声を掛ける。


「お姉さん〜!こんにちは〜髭のオッチャンいる〜?」


「あっ!メルちゃん!久しぶりだね♪

ちょっと待ってね〜統括、統括…あっ!いた。統括〜!メルちゃんが来てますよ

〜!」


サイラスが走ってやってくる。


「おう!メルちゃん!こないだは、ポーションありがとうな!

ミレーネに言ってるから!好きなだけ、お菓子持って帰りなよ!」


「クッキー!クッキーがいいの〜!」


「ハハハッ!なんでも持って帰りな!

おっ!なんだ、今日はケインとローザもいるんだな!

あっ!そうか!ラムザ王子の婚儀の為に王都にきたのか!」


受付のお姉さんの顔が引き攣る。


「ふぉっフォスター公爵と、せっ聖女様!……!」


「お姉さん!いつも、メルがお世話になっているな!ありがとう!」


「メルちゃんが〜いつもお世話になってます〜ありがとう〜!」


「あっわわわわ。めっメルちゃんは、フォスター公爵と聖女様のお子様……」


サイラスが言う。


「なんだよ知らなかったのか?

えっ、でもケインは来るの初めてではないよな。ローザは初めてだけど。」


「ハハハッ!サイラス!俺は、いつも認識阻害掛けていたからな!

お前とかパーティメンバーしか認識できねえよ!」


「まあ〜ケインったら。メルちゃん〜父様〜悪いよ〜イタズラしてるのよ。

お姉さん〜これからも変わらずメルちゃんを〜よろしくお願いしますね〜

これからは、王都で〜暮らしますから。」


「はっはい。こっこちらこそお願いいたします。知らなかったとはいえ、大変申し訳ございませんでした〜!」


「母様〜お姉さんに怒っているの〜

なんでお姉さん謝っているの〜」


「メルちゃん〜母様怒ってないわよ〜

お姉さん、今まで通りで大丈夫ですから〜

そんなに気をはることは必要ないですよ〜」


「ケイン!ローザ!王都に戻る気になったのか!?」


「ああ!王子の婚儀が良いタイミングだ!

メルも、春から学園に入学だ!

それと、来る最中にグレートビッグボアを仕留めた!どこに下ろしたらいい?

それとポーションもだ!」


「おお!ポーションは、ここに!

グレートビッグボアは、裏で頼む!

グレートビッグボアは、王家に卸すで良いな!婚儀パーティ用だろ?」


「ああ!婚儀パーティに丁度良いだろう!」


メルは、周りを見る。


母様に対して商人達が、手を合わせて祈っている。


母様は、そんな商人達に一声ずつ掛けて回っていた。


商人達が聖女ローザに手を合わせる理由があるのをメルは知らない。

商人は、商品の買い付けに世界各国に行く。

その際、色んな事故、事件に巻き込まれることが多々あるのだ。

つい、こないだみたいに。


ローザは、教会で傷を癒やしているのだ。

商人なら、一度はローザに癒やされているのだ。

だから、商人達は、聖女ローザを崇めるのだ。


メルは、知らない母様の姿を目にして、びっくりもしたが、誇らしい気持ちにもなったのだった。






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