アウトランサー

@Nita0

-000- Board to death.[死ぬほど退屈だ。]

 

 

 選べ。

 

  世界の崩壊か

  人生の後悔か。


  人が求めるべき理想か

  己が叶えたい願望か。

 

  そして叶ってしまった結果とを。

 

  しかし、選択肢ぐらいは

  自分で想像できるだけの

  想像力を持ち合わせているのなら

  細尾ディテールをしっかりしろ。


  言葉では語られないことが

  この世には多いのだから。




――雪の降る世界――





異世界を飛び回って敵を倒してミッションをクリアし、

壮大で幻想的な世界に浸る。

 

可愛いアバターを眺め、崇める。 

ビジュアルのいいキャラクターになりきる。


こんなものの何が楽しいのだ。

もうちょっと動物らしく毛づくろいでもしている方が人間らしい。


―では現実はどうか?


人間のたくさん集まる都市部に行き、

色んな思想の持ち主たちと交流する。


オシャレをし、おしゃべりをし、

美味いものを食い、飲み、騒ぐ。

わいわいがやがや、わけあいあいと。


共感エンパシーで繋がった輪から無感情アパシーな者は去っていく。


みながみな共感持ちエンプとは行かない。


増幅器アンプがないと上手く順応できない奴もいるのだ。


一方は興奮アンプリファイアしていくが、もう一方は閉塞アポクリファしていく。


恋人、友人、家族、コミュニティ、会社……。

切磋琢磨し、励み、打ち込み、泣き、笑い、楽しむ。

冬らしくない温かい社会で暮らす。


楽し思い出は『記憶』に残り、楽しく所は『記録』に残す。


―そして?


楽しいと感じられる時間を増やし、

寂しいと感じてしまう時間を潰す。


そう思ってしまった気持ちはもうどうしようもないから、

こう思えるような時間を創れば良いのだ。

 

現実の一方向な時間クロノス”と”心の自由な時間カイロス”とを使い分けするのだ。


見たいものは見たい用に切り取り、

聞きたいことは聞きたい様に解釈する。


美的感傷エセンティメントだとか、演劇的人ドラマティストとか、

 

浸酔虚飾メイヴァ二ティーやら、神聖凌辱JDAR(女子童貞用人工現実)やら、

 

なんでもかんでも”雪洗いスノーティング”すりゃいいってもんじゃないのにな。


世界が”科学化エピステメーション”されて行く過程において、


”僕たち”は合理的な思考フギンと情緒的な記憶ムニンとを持ち合わせられるようになった。


まぶたふたを使い分け、仕方のないこととやり様のあるものとに適切な対処をするようになった。 


見たいものならシャッターを切り、

臭いものならシャッターを下ろす。


”僕たち”がやる必要の無いことメカニカルワークと、”彼ら”がした方が効率的なことサブオプティマルとを任せるようになり、

 

社会を支える者アトラスと、社会の恩恵を享受する者エピメテウスとが

共存している社会。


委任、委譲、委託。

『ごたくはいいから任せとけ!』がこの世界の合理的文句だ。

請負、代理、請負の代理。


有意義な時間を自分に、無意味な時間は他に託す。


違う人と、違う場所に、違うことをする。


美味いものを食う奴と、上手いことを言う奴はさぞ人生が幸福なことだろう。


活発な人生は目と口という開閉可能な器官を刺激することから生まれるようだから。


―それで、延々とそんなことを繰り返す?


いや、よろしい、今やはり分かったことがある。

僕には人間は向いていないのだ。

 

人間に飽きたのだ。

退屈な人生に……。



昔は緑の芝生の上に生えていただろう街路樹が、今では傘を差す街灯に変わった。

木陰を作っていた自然物から、明るく照らす人工物に取り替えられた。

どこを見回してみても廃れてしまったがら空きのスキー場。


まっさらな地面に落ちている影は、立ち並ぶ細身の街灯の映し。

すらっとして無駄のない綺麗な肢体。



頭の中も、頭の上も。

心の中もすっからかんだ。

口から出てくるのは息だけだし、何もかもが不発に終わるのが目に見える。


『散歩なんか三歩で終わる。』って、誰も言わなかった。

こんな中で散歩してる奴なんていないからな。


と思ったら、

小さな女の子が二人で遊んでいた。

雪だるまを作っていた。


何もない世界で楽しみを見出す天才たち。

何でもある中で楽しみを創出しなければならない自分。

なにが違うんだろう。


そんなことを考えていたらちょうど〈心鏡照明板ファインドミラー〉が設置されていた。


近づくとまっさらな画面上に〈心歩跡ハートプリント〉が現れていった。

足跡の色は傷跡色スカーレッドだった。


雪の上に飛び散った血しぶきみたいだ。


今の〈感情曲線フィーリングラフ〉 はまだ静波形でゆるやかに波打っていた。


しかし、〈恒常同期率CSR〉は低かった。


予測行動類型LWP』〉はなだらかに下降し続けている。


画面を見つめていたが、視線が段々と自分の心の内へと向いてくる。


心理適性検査PAT〉では最低の判定をくらった。


自分の〈心行色サイクリングカラー〉は垢色フィルシーだった。


 そんなことは分かり切っていたが形色数SCNではっきり示されると、

それまで曖昧な基準で下していた主観的評価が打ち砕かれて、人の心は揺れる。

代わりに他人からの評価は定まるものだ。客観的な数値を見れば、その人物がどの程度の精神レベルをお持ちなのか一目瞭然。

人の心の内も開放された、健全で安全で健康的な社会。要求されるのは徹底的に素直であること。そうしてお互いがお互いを評価し合う。


こんな社会になる前なら、”平凡な人”というだけで普通に暮らしていたことだろう。


けれども自分はこの素晴らしい社会には合わないのだ。実に親切で、やましいところもない、開放的な社会には。

多少は不健全で孤独な、余地を残された


ああ、雪が積もったところで俺の人生はツモらないのだ。

ただ積年のうらやみがつのるだけだ。


もし雪が融ける時があるならば、

その時は全ての人間から脳みそも溶け出てしまえばいいのにな。

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